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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第一節 再びカースへ
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15 本音

「シャンタルは慈悲の女神でマユリアはその侍女の女神だよ? そんなことするわけないだろ!」

「シャンタルやマユリアはそうでもな、その周辺の人間はどうだ?」

「それは……」


 ダルが考え込む。


 確かにシャンタルとマユリアは神を身内(みのうち)に宿す御方、生きている神だ。

 だがその周囲にいる人間はどうだ?


 侍女たちはそのようなことはないだろう、ダルはそう思った。

 なぜなら、侍女は一生を神に捧げるために宮に入ってきた人間だ、清らかな存在だと思う。

 だがそれもダルがそう思いたいというだけで、侍女たちだとて神ではない、人間だ、不満を抱え、道を誤る者がいないと言いきれるものではない。


 神殿の神官たちも侍女たちと同じ、神に身を捧げる者たちにそういう者はいないとやはり思いたい。だが、それも同じく思いたいだけだ。


 さらに王宮とその周辺はどうだ? 

 今、ある問題が王宮で起きているとの噂が流れてきている。

 それは、本当に人間の欲に起因するような問題だ、高貴な人が嘆かわしい、そういう声も聞こえるような。

 

 そんなことを総合的に考えると、ダルにはこうとしか言えなかった。


「とてもそんなことがあるとは思えないけどよ、でも悪い人間ってのが王宮や神殿にいない、とまでは俺も言い切れないしなあ」


 ため息をつきながら素直にそう答える。


「だろ?」

「周囲の人間はただの人間なんだよな、言われてみれば」


 認めるしかない。


「助け手だ助け手だってちやほやされてっけどよ、用事が終わった後で都合が悪けりゃそいつらに消されるってこともあるからな。そんだけじゃない、その助ける部分をやられちゃ困る連中がいたら、明日にでも邪魔者扱いでどうにかされる可能性もある」


 ミーヤには説明しなかった「本気半分」の部分だ。


「ダルだからぶっちゃけるけどよ、俺はシャンタルとマユリアもそこまで信用できねえんだよ。おっと、怒るなよ? 何しろこの国の人間じゃねえからな」

「うん、分かってる」

「だからな、待遇(たいぐう)がよけりゃいいほど心配になる。今までがそんなにいい暮らししてねえからな。大抵親切に近づいてくるやつは下心があった。そう思って生きてきたから、なんとか今まで生き延びてこられてんだよ」


 ダルはトーヤの厳しい生き方を思った。そしてそれを話してくれていることを真剣に受け止めた。


「だから逃げ道を探してた。機会があればとっとと逃げてやろうと思ってた。そのために利用しようと思ってたんだけどなあ、おまえも、ミーヤも……」


 うなだれてため息をつく。


「おまえらな、いいやつ過ぎんだよ。そんなんじゃ外の国じゃ生きてけねえぞ?」


 弱々しく笑うトーヤにダルも少しだけ笑う。


「俺は、大丈夫だよ。トーヤに剣を教えてもらってるしな。まあ、こうして洞窟教える、なんてこともして、利用もされたことだし」

「勉強になっただろ?」


 ダルの冗談口が今はありがたい。トーヤもそう言って笑う。


「俺も甘くなったもんだ、そのおかげでもう少し様子を見ようと思っちまったし」

「そうか……」

「でもな」


 ダルを見上げ、鋭い目つきで言う。


「準備だけはしとく。いつでも逃げられるようにな。そのためだったらおまえもミーヤも遠慮なく利用させてもらうからな」

「いいよ」


 ふっとダルが笑った。


「俺はトーヤの友達だからな、逃げる気になったらいつでも言えよ、手伝うよ」

「それからな、別れは言わないことにする」

「なんで?」

「言ったらお前ら、覚悟するだろうが」

「そりゃするな」


 さっきのことで言われなくても分かる。少なくとも自分はかなりの動揺を見せるだろうと、ダルも思った。


「そうなったらばれるかも知れねえ。特にルギなんてやつは鋭いからな」

「そうか」

「だから、ミーヤとの約束も取り消す。いきなり消えるかも知れねえって、おまえからそれ、言ってくれねえか?」

「なんで? 自分で言えばいいじゃねえかよ」

「ルギにずっと見張られてるからな、うかつなことは言えねえ。そんでミーヤは俺といる時はずっとフェイに見張られてる」

「フェイちゃんが見張りなあ……」


 ダルはまだそこには懐疑的だった。


「本人はそこまでの気持ちがねえとしても、何かあったら上のやつに報告しなくちゃならんだろ? それ、すなわちそういうこった。そんなかわいそうなことしたくねえしな」

「そうか、そうだな。フェイちゃんミーヤさんにもトーヤにも(なつ)いてるもんな、そんなことになったらつらいよな」

「だろ? かわいそ過ぎるだろうが、あんなちびにさ」

「うん……」 


 話をしている間に次第に空が(しら)んできた。

 夜明けまではまだあるが、空の色が薄くなってくる。


「言えたら自分で言うが、もしも言えずに行った時はミーヤに言ってくれたらうれしい。おまえが知ってたこと、そう言ってたこと」

「分かった、約束する」


 「よっ」


 崖を登り降りした時と同じ掛け声をかけ、トーヤが立ち上がった。


「そんじゃあ帰るか、いい酔い醒ましになった!」


 ぐぐーっと伸びをして洞窟の壁に手をぶつけ、「いてっ」と声をあげる。


「なにやってんだよー」


 ダルも笑ってトーヤの肩をぺちっと叩き、


「そんじゃ帰ろう、夜が明けるまでに帰れるようにちっとばかり急ぐぞ」

「おう」

 

 そうして二人、赤みを帯びてきた水平線に、揃って背を向けた。

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