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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第一節 再びカースへ
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13 友

「え?」


 新月の闇と洞窟の闇の間でランプの灯りがゆらゆら揺れる。


 トーヤはその灯りに揺れるダルの顔をじっと見た。

 ダルの顔も灯りと同じようにゆらゆらと揺れている。


 その表情はいつものように人がよさそうな笑みを浮かべているが、灯りが影になった部分にゆらゆらと、悲しみのような、何かを悟ったような表情が浮かんでは消えているようにトーヤには見えた。


「トーヤさ、俺には隠さなくていいよ。この国を出る道を探してんだろ?」

「え?」


 トーヤは驚いた。

 まさか、ダルからそんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。


「おまえ、何言ってんだよ、俺はちょっと興味があっただけ」

「分かるよ」


 トーヤが笑いながらごまかそうとしたが、ダルはきっぱりとそう言い切る。


「俺、トーヤとそう長い付き合いじゃねえけどさ、トーヤのどんなやつか分かってきてるんだよ。トーヤさ、俺のこと、利用するつもりで近づいた、違うか?」

「おまえ、何を……」


 ダルは自嘲(じちょう)するように薄く笑った。


「隠さなくていいって」

「…………」


 波の音だけが響く。


「トーヤはさ、いいやつだよ。最初にどういう気持で俺に近づいたかとか関係なく、俺はもうトーヤが好きんなってるんだよ、友達だと思ってんだよ」

「…………」


 月のない夜でよかったとトーヤは思った。

 もしも満月の明るさに照らされたら、決して誰にも見せたくない、泣きそうに歪んだ顔を見られてしまったかも知れない。


「いいよ、行けよ」

「……行けねえよ」

「なんでだよ?」


 ダルが近づいてくる。


「こっち来んなよ……」


 トーヤはそれ以上は下がれず、洞窟の壁に背中を押し付けながらやっとのことでそう言った。


「いいから行けよ、この国から逃げてえんだろ? 俺、誰にも言わないしさ」


 一呼吸置いてトーヤが答える。


「行かねえよ……」

「なんでだよ」


 トーヤははあっと息を吐きながら、ずるずると洞窟の壁に持たれたままずり落ちて座り込んだ。


「おまえ、いつからそんなこと考えてたんだよ……」

 

 がっくりと頭を落として小さく聞く。


「さっきかな」

「さっき?」

「うん」

「なんだそりゃ……」


 ダルが少し考えるようにする。


「さっきさ、水汲んで帰ってきただろ、フェイちゃんと一緒に。あの時になんてえのかなあ、なんか、そういう雰囲気があったんだよな」

「そういう雰囲気?」

「うん、トーヤとミーヤさんの間に何か約束みたいなことがあった雰囲気、かな」

「…………」


 トーヤは答えない。


「多分だけど、フェイちゃんもなんか感じてたと思うぞ、そんな顔してた」

「はっ……」


 トーヤは笑うように、泣くように、ため息とも聞こえる言葉を吐いた。


「寝ながらさ、あれはなんだろうって考えてたんだよ。すごく大事なことみたいに見えたしな。そしたら洞窟を見たいって言い出したから、なんか、つながった気がした」

「何と何がだよ」

「お別れの準備、みたいにかなあ」

「なんだよそりゃ……」

「水欲しいとか言ったのって、あれ、二人だけになりたかったのかなって。そんで、そうまでして話したいことってなんだろう、何かきちんと話したかったのかなって」

「そんで?」

「トーヤさあ、結構ちゃらんぽらんみたいな感じだろ?」


 ダルが笑いながら首を振り振りそう言う。


「なんだよそれ……」

「だけどさ、それって見た目だけで、おまえ、自分で思ってる以上にちゃんとしてるんだよ」

「ん、だよそれ……」


 ダルがまた明るく笑った。


「最初は利用しようとしてたとしても、俺のこともちゃんと大事に思ってくれてること、それも分かってる」

「勝手に分かるんじゃねえよ、そんなこと……」

「分かるって」

「分かってねえって!」


 トーヤが声を張り上げた。

 洞窟の中に声が響く。


「おまえな、分かってるのか? 俺はお前を利用しようとしたんだぞ? そんでぽいっと使い捨てるつもりだったんだぞ!」

「けど、実際にはやってねえじゃん」

「これからやるかも知れねえだろうが!」

「やるならやっていいぜ?」


 またトーヤが言葉をなくす。


「うん、その方がいいかも、ちょっと俺のこと殴るかなんかしてさ。あ! 死ぬほどはだめだぜ? ちょっと気を失うぐらいにしていっちまえばさ、俺もだまされたとか言えるしな」

「軽く言うな、そんなこと!」

「できないだろ?」


 ダルが自信たっぷりに笑う。


「な、そういうやつなんだよ、トーヤは」


 ダルの笑顔がトーヤには痛かった。


「本当に悪いやつならさ、ミーヤさんに別れになるかもって話する必要もないし、俺のことだってここに着いたらすぐ殴るとか殺すとかしてさ、さっさと船に乗ればいいじゃん」

「様子見てただけかもしんねえぞ?」

「それでもこれって千載一遇(せんざいいちぐう)好機(こうき)じゃねえか、見てみろよ今日の空」


 ダルが新月の空を指差す。


「月だって見てねえんだぜ? そんで町の灯りは見える、ほら、すぐそこだ」


 ダルの指がトーヤを誘うように遠い町の灯りを指差した。


「な? とっとと逃げ出すにはうってつけだ。なんでやらなかったんだ? さっき、俺が外のぞいた時に、海に突き飛ばしたって構わなかったじゃないか。でもトーヤはやらなかった。そういうことやれるやつじゃないんだよ、それ知ってるから、俺にはトーヤは大事な友達なんだよ」


 もうトーヤには返す言葉が思いつかなかった。

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