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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第一節 再びカースへ
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 9 酒

 ひと悶着(もんちゃく)あったものの、無事に墓参りとマユリアの海の参拝を済ませて5人は村に戻ってきた。


「あ、アミ」


 村に戻ると一人の女の子がみんなを出迎えていてダルがうれしそうに手を振った。 


「俺の幼馴染(おさななじみ)のアミ」

「おお~べっぴんじゃねえかよ。アミさん、よろしくな」


 トーヤがそう言うと少し恥ずかしそうに頭を下げて、


「アミです、よろしく」


 と、挨拶をした後、


「村長が夕食の準備ができましたからって。それで呼びに行くとこだったの」


 と、ダルに言った。


 村長の家では前回ほどではないが、また海の幸の大盤振る舞い(おおばんぶるまい)で出迎えてくれた。

 村人もたくさん集まり、また同じように宴が始まった。


「じいさん~毎回こんなことしなくていいぜ、今度からは普通にしてくれよな」

「何を言うか、お客人をこうして出迎えるのは漁師の家じゃ当たり前のことじゃ、青臭(あおくさ)いガキは生意気言わずにはいはいと持て成されておれ」

「おお、いい感じだな、へいへい、と」

「はいはい、じゃ」


 村長とトーヤのやり取りに集まった人々も盛大に笑う。またもや楽しい時間の始まりだった。


 一通り腹が満たされ、酒もそこそこ入って座が乱れ出した頃、


「なあなあ」


 トーヤがダルの肩を抱きながら小さな声で聞いた。


「アミちゃん、かわいいよな」

「え、そうかな、普通だと思うぞ」

「前に来た時にもいたか? あんなかわいい子がいたら見逃すはずねえんだけどなあ……」

「いたよ、気付かなかっただけじゃないの?」

「そうかなあ、全然気付かなかった」


 前回はトーヤの目論見(もくろみ)に合う人間を見極めようとほぼ男たちにしか気を配っていなかった。その結果ダルがやりやすかろうと近付いたわけだが、思った以上にダルのことを気に入ってしまってる自分に多少驚いているトーヤだった。

 そして、そんなダルが、多分……


「なあ、アミちゃん口説いてみよっかな、俺」

「え!」


 ダルが大声を出したが、そのへんはもう出来上がってる連中ばかりなので誰も気に留めることもない。


「なんだよ、だめか?」

「いや、それは、まあ、うーん、どうかなあ……」

「なんだなんだ歯切れわりいな、まあ飲め」


 そう言ってダルのカップに酒を注ぐ。


「ああいう大人しそうな子、いいよなあ」

「え、アミはぜんっぜんおとなしくなんかないぜ?」

「え~そうか? 大人しくて大人しそうだがなあ」

「いいや、全然! 海の女だからな、結構気がきついから思ったようなんじゃないぞ」

「でも大人しくて大人しくて大人しそうだぞ?」

「なんだよそれ、どんなだよ、それ。何にしても違うって」

「そうか~でもそういう風に見えるってだけでいいんだよなあ」

「中身は違うって!」

「そんでもいいって」

「いやいや、やめとけって!」


 必死でトーヤを止めるダルにトーヤが耳を寄せて(ささや)いた。


「なあ、協力してやろうか……」

 

 ダルが驚いて言葉もなくトーヤを見る。


「あんなかわいい子がいりゃ、そりゃそういうところ、行きたくもないよなあ」


 にんまりとダルを見るとみるみる真っ赤になった。


「ちょ、俺、ちょっと……」


 ダルが黙ったまま立ち上がり、外へ出て行こうとする。

 それを見送ったままトーヤがニヤニヤしながらカップを手にしてぐいっと飲み干した。

 そして……


「うえっ、これ、酒か!」


 口元を押さえるとダルを追い越して外に飛び出し、地面に向かってゲエゲエと吐き出した。


「ちょ、トーヤ、大丈夫か!」

「間違って酒飲んじまった」


 ダルにそう言うと真っ青な顔でさらに吐く。


「大丈夫ですか!」


 ミーヤが急いで駆けつける。フェイも。


「大丈夫、じゃねえ……」

 

 そう言うとストンと意識を失ってしまった。

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