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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第一節 再びカースへ
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 8 再びのカース

 その後は特に変わったこともなく、もう一度馬を、今度はダルが前にフェイを乗せ、ミーヤはルギの後ろに乗る形に乗り換えると、そのままカースに着いた。


「お久しぶりです」


 村長であるダルの祖父が丁寧(ていねい)に頭を下げて迎えてくれた。


「またお世話になります。あの、頭を上げてください、今回は宮からの公式の訪問ではありませんし」


 ミーヤがそう言って村長の頭を上げさせた。


「よう、ダルのじいさん」


 前回は曲がりなりにも公式訪問という形だったため比較的丁寧に話していたトーヤの、いきなりの(くだ)けた物言いに村長が目を丸くする。


「友達のじいさんだからな、それでいこうぜ。こっちもじいさんって呼ぶからあんたもトーヤって呼んでくれ。またよろしく頼むぜ」


 村長は少しの間驚いたままであったが、やがて、


「分かった、それでいきましょうか。だったらなトーヤ、おまえさんはもうちょっと年長者に対する物言(ものい)いを覚えた方がいい。ダルが剣を教えてもらってるお返しにわしが厳しく(しつ)けてやろうかな」


 そう言った。


「ええ、なんだよそりゃ! うは~これはもうトーヤ様でいった方がよかったかなあ」


 そう言いながらもトーヤが楽しそうに笑い、村長もダルも、ミーヤもフェイも笑った。ルギだけは相変わらず無表情だが。


 一行はそのまま馬でまず村外れの墓地を参り、そこからまたマユリアの海へ足を向けた。


「ここがマユリアの海……」


 ミーヤが初めて来た時のようにフェイが感激する。


「神秘的だろ?」

 

 トーヤも前と同じ言葉をフェイにかける。


「はい……」


 やはりミーヤと同じように両手を組み、静かに頭を下げた。

 小さくともミーヤと同じなんだなこいつは、とトーヤはそう思った。


「なあ、ダル」

「なんだ?」

「この下には降りちゃだめなのか?」

「だめじゃないけど、戻るのも大変だよ? それに神聖な場所だからなあ、用事がある時以外にはあまり降りることはないかな」

「おまえは降りたことあんのかよ?」

「あるよ。時々掃除とかに行くし、嵐の後なんかはやっぱり様子を見にいくしさ」

「そうか」


 トーヤはじっと崖の下を見下ろした。


「降りてみるか」

「え! 行くのか?」

「ああ、行ってみる」

「おい!」


 そう言うなりトーヤは「よっ」と崖下に身を(ひるがえ)す。


「きゃあ!」


 ミーヤが叫ぶと、崖下からひょいっとトーヤが顔をのぞかせた。


「よお、びっくりしたか?」

「びっくりって……あなたという方は!」


 思わず駆け寄るミーヤに、


「すまんすまん、上から道が見えたんでな、それで降りてみた」


 そう言って笑う。


「すまんじゃありません!」


 ミーヤは本気で怒っている。


「もうちょっと左の方に降りる道があるからさ、本当にびっくりさせんなよな」


 ダルも言う。


「そうなのか、すぐ下に道が見えたけどそっちにつながってんのか」

「そうだけど、やっぱり用事もないのに行くのはあまりすすめられねえなあ」

「そうか、そんじゃ今日はやめとく」


 もう一度「よっ」と言いながら崖をよじ登ってきた。


「身が軽いなあ」


 ダルが(あき)れるように言う。


「だからあ、そっちに道があるって言っただろ? そっち回ればいいじゃないか」

「いやあ、回り道はまどろっこしくってな」


 草だらけの体をパンパンと叩く。

 ふと見るとフェイが目に涙を浮かべて両手を握りしめていた。


「よう、ちび、心配してくれたのか?」

「はい……」


 それだけ言うと言葉もなく涙がすうっと一筋流れ落ちる。


「うわ、わわあ、わ、すまんすまんって、ほら、泣くなよ。大丈夫だろ? え?」


 トーヤが言うと我慢できないと言うように両手で両目を(おお)ってしくしくと泣き出した。


「あ~トーヤ、やっちゃったな……」

「本当に……」


 2人の責めるような視線にいたたまれないように頭をかく。


「悪かったな、ちび、ごめんって、泣くなよ、なあ……」


 そう言ってフェイを抱き上げるが、しばらくフェイが泣き止むことはなかった。

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