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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第三節 動き始めた運命
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16 最後の一人

「俺たちみたいな漁師だけじゃなくさ、獣をとる山猟師(やまりょうし)や川の魚をとる川漁師(かわりょうし)でもあるらしいよ。他にも自然から色々いただいてる仕事ではたまにあることだってさ」

「う~ん……俺の方ではそういうのは聞いたことねえけどなあ……」

「そうなのか? こっちでは結構普通にあるんだけどな」

「だったら、こうしてダルが1人だけどっかに行ってる時にはダルんちは2人だけ漁に出てたりするのか?」

「なんでだ?」

「だってな、残りの3人が漁に出てなんかあったら、外にいた1人が生き残ることになるじゃねえかよ。だったらその危険をなくすためにも1人残しておけばなんかあっても1人だけ残るってことにはならねえだろ?」

「ああ、そういうことか。いや、そういうことにはならない。どこにいても一緒だからな」

「意味が分からん」

「漁師だからな、海で命を落とすことも多いけど、他の場所でも一緒なんだ。とにかく同時(どうじ)にってのが大事らしい」

「う~ん……」


 トーヤが首をひねる。


「海の神様だから海に返せってのなら分からんこともないけどよ、他の場所でも一緒っての意味分からんな」

「まあ神様のなさることだからね、人間に分からなくても仕方がないよ」


 ダルが軽く笑う。


「だからさ、例えば5人が漁師の家族があって、4人がバラバラの場所に行ってそこで命を落とすとするだろ? 理由はバラバラだ、馬車の事故、高いところから落ちる、誰かに刺される、海に飲まれる、理由はなんでもいいんだよ、ただ同じ時にってのが重要なんだ」

「う~む、ますます意味不明だな……そんで、残った人間は漁師をやめて村を出たら助かるんだな?」

「そうだよ」

「それもまた分からんなあ、神様ってのも目をつけたのなら最後までがんばりゃいいのによ、根性のねえ」 


 トーヤの言葉にダルが声を上げて笑った。


「トーヤは面白いこと言うよなあ。でも出なくて命を取られたら、もっと怖いことになるし、やっぱり村のために出て行ってもらうって面もあるんだとは思うな、俺は」

「もっと怖いこと?」

「うん」

「なんだよそりゃ?」

「それはまた次の家族が目をつけられるってことだよ」

「なんだって?」

「だから残った1人が村に残ってそのまま命を落としたら、また今度別の家族から忌むべき者が出るんだよ」

「ちょ、待てよ!」

 

 トーヤはゾッとした。


「忌むべき者ってのを殺すことができて満足するなら分かるけどよ、なんでそういうことになるんだ?」

「俺もよく分からないんだが、じいさんが言うには忌むべき者が出て完成するんじゃないかってことだったな」

「それじゃあ何か? 目的は最後の1人を作って村を追い出すってことなのか?」

「かも知れない、ってぐらいのことだな。本当のことは誰にも分かんねえ。最後の1人に何かをさせたくてそうやって村を出すってこともあるのかもって、じいさんがそう言ってた」

  

 最後の1人を作るために何人もの人間を犠牲にする

 その事実をトーヤは自分の身の上に置き換えて震えた。


「そういやじいさんが、トーヤが忌むべき者なんじゃないかってちょっと心配したって言ってたな」

「なんでだよ!」

「いや、だってさ、1人だけ生き残っただろ?」


 まさに今、自分で考えていたことを裏打ちされたようでトーヤは言葉を返せない。


「でもさ、違うって分かってほっとしたってさ」

「分かったって、なんで……」

「だってさ、もう1人船乗ってたんだろ、最初はさ?」

「あ、ああ、そうだな、途中で1人降りた」

「ってことはさ、残ったのはトーヤ1人じゃないってことになるじゃないか」

「なるほど、そうか、言われてみれば」


 トーヤはその時はそうしてホッとしてダルとの話を終えた。

 その日ダルは村に戻り、その話をトーヤはすっかり忘れてしまっていた。たまたま時間があったのでした四方山話の一つ、そう思っていた。それで終わったはずだった、だが……




「そんでな、シャンタル連れてこっち戻る途中の港でな、例の船を降ろされたやつについて耳にしたんだよ。そしたらそいつ、ちょうど船が沈んだ頃、酔っ払って海に落ちて死んだって」

「ひいいいいい!」

 

 ベルが声を上げる。


「そうなんだよな、最後の1人になっちまったんだよ。忌むべき者だ、俺がな」

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