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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第三節 動き始めた運命
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 2 暗闇へ続く道

 各々(おのおの)が好みの食事を済ませ、店を出る時にミーヤが支払いを済ませた。金銭的な管理はミーヤに任されることになり、そこそこまとまった額の入った金袋を預けられている。


 これは、宮からトーヤ用にととりあえず用意されたものだったが、トーヤにはまだ右も左も分からないこともあり、世話役のミーヤが預かることとなったのだ。今日も小分けした金を小さめの金袋に入れて持ってきていた。


 トーヤは支払いをするミーヤを見ていて、ちょっと不甲斐ない気持ちがしたが、この状況ではどうすることもできない。仕方なくその立場に甘んじていた。


「こうやって買い物する時もミーヤさんに支払ってもらうのか? なんとなく情けねえなあ、ヒモみたいに見えるじゃねえか」

「ヒモとはなんですか?」

「え、ヒモってのは、えっとあのな……」


 ミーヤの問いかけにトーヤは困った。なんて説明すればいいのか。


「ヒモとは、甲斐性(かいしょう)がなく女性の世話になっている情けない男のことを言う」


 ルギが皮肉っぽく説明する。

 トーヤはムッとしたが反論することもできない。


「そうなのですか? でもトーヤ様は違いますよね、宮のお客様ですし情けなくもありませんし」


 きょとんとしたように言うミーヤに、


「ミーヤさんよ、そういうこと言ってもらうとかえって(むな)しくなるから、な……」


 そう言うとますますミーヤは不思議そうに首を(かし)げた。


「とにかくな、なんか稼げる方法ないもんかな。俺も自分の口ぐらい自分で濡らしてえしな」

 

 そうなのだ、今までの人生、その仕事の内容については色々あるものの、トーヤはいつだって自分で稼いで自分で食べてきたのだ。

 そりゃ幼い頃はあちらのミーヤたちに世話になってはいたが、長じた後にはそれなりに返してきたつもりだ。それだけに今の状況は情けなく感じられるのだ。


「そう申されましても、何かお仕事に就いていただくというわけにもいきませんし」

「そこなんだよなあ。だめなのか? 宮から出て、王都に部屋でも借りてもらって仕事を探すってのは」

「おそらくは……」

「なんでだよ、なあ……」

 

 2人がそうして話をしながら歩き、その後を小さいフェイが早足で一生懸命に、無表情な大男のルギは無言で付いて歩く。


「そもそも、なんで働いたらだめなんだ?」

「それは、宮のお客様ですし」

「それな、客だ客だと言われてるが、一体いつまで客でいればいいんだ?」

「それは……」

 

 ミーヤが返答に困る。


上げ膳据え膳(あげぜんすえぜん)、護衛つきの女付きにやりたい放題、なんでそんなに待遇がいいんだ?」

「女付きって……人聞きの悪いことを」

「ああ、すまんすまん。だがあんたとちびの2人もこうしてくっついてきてるもんでな。まるで王族のお忍びだ。一介の傭兵にこんな厚遇(こうぐう)、まるでな」


 くるりと後ろを振り向き、じっとルギを見て言う。


「処刑前の罪人か生け贄(いけにえ)みたいじゃねえか、なあ監視役?」


 ルギは表情を変えることもなく、トーヤをちらりと見ると無視をした。


「はいはい、無視ですか、と」


 また前を向き、何もなかったように歩く。


「生贄って、さっき以上に人聞きが……」

「でもよう、聞いたことないか、そういうの?」

「それは、子どものお話とかで聞いたことはございますが」

「あるだろ? ちょうどこんな感じじゃね?」


 ミーヤは言葉に詰まる。


「とりあえず街でも見てこいってからこうして見に来てはいるものの、見るだけでどうしろってんだ? 働き口でも見つけてとっとと出てけ、ってのなら分からねえこともねえんだけどな」


 そう言ったきりトーヤもミーヤも黙り込み、4人で黙ったまま、ただ街を歩く。


 リュセルスは二千年前からの王都である。

 神々が神の世界に戻った時に作ったと言われる街はいくつかあるが、その(いわ)れの通り、伝統のある建物が歴史をまとって(たたず)み続け、その前を次々と人が通り過ぎて行く。

 その(さま)を街はずっと見ている。


 4人も同じようにその道を、建物の前を歩き続ける。目的地はない。

 まるで自分の先行きのようだとトーヤは思った。

 どこまで歩いてもどこにもたどり着けず、気づけば日が沈んで目の先は真っ暗闇だ。

 

「とりあえず今日はもう帰るか。疲れた」


 そう言うとぽいっとフェイを掴んで抱き上げ、方向転換をした。

 いきなりのことにフェイは目を丸くし、ミーヤも驚く。


「ようちび、おまえも疲れただろ、その小さい足でご苦労だったな。さ、帰るぞ」

「は、はい……」


 フェイはそう返事をすると、そのまトーヤの腕の中で固まった。

 トーヤはフェイを抱っこしたまま、知らん顔で鼻歌を歌いながら元の道を戻って行き、ミーヤとルギもその後に続いた。 

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