18 ミーヤの報告
「お疲れさまでした。それでカースではどうでしたか?」
キリエが宮に戻ってきたミーヤを呼び出した。
トーヤには早く休むように言って部屋を出たが、ミーヤの仕事はまだ終わらない。
ミーヤはカースでの出来事を詳しくキリエに報告した。
まずは宮からの持参の品を無事村人に渡したこと、その後で墓参りに行ったこと、村長からの申し出で村に泊まることになり村人たちから温かい歓迎を受けたこと、夜は村長の家に泊めてもらったこと。
「翌朝、客殿の方からの申し出でマユリアの海に行くことになりました」
「どうしてですか?」
「なんでも、自分が助かったのはマユリアの御加護でもあるのではないか、それで見ておきたいと言うことでした」
「御加護……」
キリエが表情を変えぬままで繰り返した。
「はい。他の乗組員31名が全員亡くなって自分だけが生き残ったことが大層不思議だ、とのことでした」
「なるほど」
「そのために帰参時間が多少遅れまして、ついさっき宮に戻ったところです」
「分かりました、お疲れさまです」
「ありがとうございます」
ミーヤは片膝をついて深くおじぎをした。
「他に」
「はい?」
「何かありませんでしたか? 何か話をしたとか」
「はい……」
ミーヤは少し言葉を濁した。
トーヤとした話のことを本当なら報告しなくてはならない。だが……
「どうしました、何かありましたか?」
「は、はい……」
キリエの再度の問いかけに答えようと思うが、やはりあの話はできない、したくないと思った。
宮に来てから初めて隠し事をする、その事実が小さくミーヤの胸を刺した。
「どうしたのです?」
「い、いえ、あの、報告するようなことかどうかと考えたことがありましたので」
「なんでも、小さいことでも報告を」
「はい……」
ミーヤはもう一度頭を下げると話を始めた。
「帰りの馬車の中で頼まれたことがあります」
「なんですか?」
「村長の孫のダルという青年と友人になり、剣を教える約束をしたとか」
「剣を? なぜです?」
「はい、その青年は漁師としては細身で体力に自信がないそうで、それで鍛えるために自分が剣を教えたいと」
「剣を、教えることができるのですか?」
「はい、元々は船乗りではなく傭兵だったそうですので」
「傭兵、その話は初めて聞きましたが?」
「元はそうでも今は船乗りだったようですので。申し訳ございません、不要かと判断しておりました」
ミーヤはさらに深く頭を下げる。
「どんな小さなことでも報告するように」
「はい、申し訳ございません」
「それで?」
「はい、そのために刃を潰した模擬刀とか、木を削ったような何か訓練に使える物が手に入らないかと聞かれました」
「それから?」
「その青年を宮に呼んでもいいかと尋ねられましたので、聞いてみてからではないと確約はできないと申しました」
「それから?」
「あ、その青年が衛士や憲兵になりたいと言った時には可能か、と。侍女やそのような役職にはどうやって就くものかと」
「どう答えました」
「私の場合は宮からの募集に応募をしたが衛士や憲兵はよく分からないと。もしも知りたいのなら衛士のルギに聞いた方がいいかも知れないと答えました」
「そうですか」
「はい」
キリエがミーヤをじっと見る。
頭を下げたままのミーヤは頭上からの気配でそれを感じていた。
「分かりました、もう下がりなさい」
「はい」
ミーヤはもう一礼すると立ち上がりキリエに背中を向けた。
「あ、それから」
「は、はい」
驚いて振り向く。
「明日はおまえも休みなさい、疲れたことでしょうから」
「あ、ありがとうございます」
もう一度、今度は立ったままで深く頭を下げて退席するミーヤをキリエはじっと見つめ続けていた。




