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13 マユリアの海へ

 その夜はそこまで話を進めて後はぐっすりと眠った。そして翌日、ミーヤと村長にマユリアの海を見たいとトーヤは伝えた。


「マユリアの海へですか? どうしてですか?」


 ミーヤは純粋に不思議そうに尋ねた。


「なんでって、そういうのがあったら見たいと思わないか?」

「好奇心からですか?」

「まあ、それもあるな」


 トーヤはあまりミーヤの気持ちを損ねないように気をつけて答えた。

 何しろこの国ではシャンタルとマユリアは絶対の存在だ、その神聖なものを(おとし)めるような印象を与えるのは得策ではない。


「それもって、じゃあ他には?」

「神聖な地なんだろ?」

「それはそうです」

「だったらなんて言うのかな、なんて説明したらいいのかいいのかむずかしいんだがな、気持ちの問題だ」

「気持ちの?」

「そうだ」


 トーヤは昨日から考えていた理由を語る。


「昨日墓参りをしただろ?」

「いたしました」

「31人、俺以外の仲間はみんな死んじまった。だけど俺は生き残った」

「そうでしたね……」

「不思議じゃねえか?」

「それは、言われてみればそうですが……」

「多分、運がよかったんだよな。だけどそれだけじゃねえ気がする」


 トーヤはほおっとため息を一つつくと、少し間を置いてからあらためてと言う風に話を続けた。


「守られた、って気がするんだよなあ……」

「守られた、ですか」

「そうだ。何にかは分からねえが守られたから、だから今、こうして生きてここにいるんじゃねえかって気がしねえこともないんだよなあ」


 漁師や船乗りというものは迷信(めいしん)深いものだ。子供の頃から厳しい現実の中で生きてきたトーヤには時に馬鹿馬鹿しいと思うようなことも大事にしていることを見て知っていた。その気持ちになってみると都合のいい理由を考えられた。


「船に乗ってるだろ? そしたらな、不思議なことも結構あるんだよ。なんでか分からねえが助かった、的な、な。今回もそうだった。何かが守ってくれたんだよなあ、それって」

「そうなのかも知れませんね……」

「その何かにマユリアの海で眠ってるマユリアが関係ないことないのかもなと思ったら行ってみたい、ちょこっと礼が言ってみたいって気持ちにもなってきたんだ」

「そうなのですか」


 ミーヤが感じ入ったように言う。


「あんたは行ったことあるのか、マユリアの海?」

「いえ、私は行ったことがございません」

「だったらさ、一緒に行かないか?」

「私もですか? それは、あなたが行かれるのなら付き添いとして参りますが……」

「一緒にさ、礼を言ってくれねえか? それにあんただってマユリアに会ってみたくはないか?」

「それは……」


 よし、もうひと押し。


 トーヤは最後の仕上げにかかる。


「俺はさ、ここのカースの海岸に打ち上げられただろ? ってことは、マユリアの海の沖を通ってきてるんだよ、多分だけどさ」

「そうですね、おそらくは」

「ってことはだ、その時になんでか知らねえがマユリアが助けてくれたんじゃないのかってな、なんだかそんな気がするんだよ。なんで俺みたいなのを助けたか分からねえが、多分あんたの故郷の木みたいに俺にもなんか役割があるんだろうな。行ってみたらそのへん、何か感じるものがあるんじゃねえか、とも思った」

「そうなのですか……」


 ミーヤはいましばらく何かを考えていたようだが、気持ちを決めるように村長に尋ねた。


「行ってみても構いませんか?」

「それはもう、もちろん。おそらくマユリアのお気持ちがトーヤ様を助けてカースの海岸に届けてくださったのでしょう、私もそういう気がいたします」


 深々と村長が頭を下げる。


「分かりました、では参りましょうマユリアの海へ。予定よりこちらを出発するのが遅れますが、それでも夕方までには宮に帰れるでしょうし」

「ああ、感謝する」


 こうして一行はダルの案内でマユリアの海を尋ねることになった。

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