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18 穢れを嫌うもの

「こりゃやっぱり本家の仕業だな、間違いない」

「やっぱり本家って、じゃあ!」

「ああ、湖の底で寝てる女神シャンタルだよ」

「ええっ!」


 ダルが洞窟の中で共鳴するぐらいの大きな声を出す。


「うっるせえな、響くんだから小さい声で言えって」

「いや、だって、だって女神って」

「血は(けが)れ」


 ルギが背後でつぶやく。


「隊長は話が早いな、まあそういうことだ」

「穢れって」

「俺は女神様じゃないからな、あくまで推測するしかないが、おそらく、こいつが流した一滴の血、それが嫌だったんだろうよ。それで驚いて手を離した、そのおかげでこっちは助かったが、びびっただろうなあ」


 またそう言ってケラケラ笑う。


「いや、笑い事じゃねえぞ」

「笑い事だよ、うまくいったらなんでもな」


 ダルの祖父の言葉を口にする。


「つまり、おまえが」


 と、シャンタルを振り返る。


「あの刀で俺たちを助けたんだ。ありがとな、おかげで助かったよ」

「シャンタルが?」


 シャンタルがきょとんとして聞き返す。

 例の守り刀は今は荷物の中にしまってあるが、無事に一緒に地上へと帰還していた。


「そうだ。おまえがあれで指を切らなかったらあっちの力の方が強いままだったんだろう。けどな、おまえが痛い目に合ったおかげで力が逆転した、おまえの方が強くなったんだよ、おまえが俺たちを助けた。やっぱりすげえな、おまえ」

「そうなの!」


 シャンタルが目をキラキラさせながらそう言う。


「まあ、その後で共鳴が起こってあの柱が出たのは俺様のおかげもあるからな。よく覚えとけよ? 俺もおまえを助けた、お互い様だ」

「お互い様……」


 言われたことを繰り返す。


「まあな、そういうことだからな、これからどのぐらいどう旅をするか分からんが、よろしく頼むわ、相棒」

「相棒……」

「そうだ、相棒だ」

「相棒……」


 そう繰り返し、


「相棒って、何?」

「おい~」


 せっかくキメたと思ったのに、またシャンタルにオチを持っていかれた形になりトーヤがずっこける。


「その、誰かか? 何かか? それがびっくりして手を離したまでは分かった。じゃああの柱は誰が出したんだ?」

「うーん……」


 さすがにトーヤにもこれというのは浮かばない。


「こいつが出したんだと考えるのが一番早いんだが、確かかどうか……おい」

「なに?」

「おまえ、ちょっとなんか出してみろ」

「ええっ!」


 いきなりそんなことを言われてシャンタルが驚く。


「いいから出してみろ」

「そんなこと言われても……」


 これまでも、何か不思議なことがあったとしてもシャンタルが意識してやったことではない。言われても困る。


「まあ出してみろよ、ほれ」

「どうやって?」

「うーん、そうだなあ」


 トーヤも考える。


「出すんだから出そうって思うんじゃねえか?」

「そんな無茶苦茶な」


 思わずダルが言う。


「いや、そうではないかと俺も思う」


 思わぬところからの声であった。


「シャンタル、何かをやってみようと思ってみてはいかがでしょうか」

「やってみよう?」


 シャンタルは生まれてからずっと受け身であった。自分から何かをやろうと思ったことはほぼない。

 望まれるままに託宣をし、されるがままに生活をしてきた。

 

 初めて決めたのが人生の一大事、運命と命がかかった今回の「湖に沈む」という決断であった。


「やってみよう……」


 もう一度つぶやいて考える。


 何をやろうと思えばいいのか分からず、じっと前を見つめていて気がついた。


 トーヤがケガをしている。


 さっき着替えて新しいシャツになった時、袖を肘のところまでまくってあった。その右手の腕に多分水の中でロープにでも擦れたのであろう、手のひらの幅ぐらいの長さに擦り傷があった。


「トーヤ、ケガしてる」

「へ? あ、ああ、こんなもんかすり傷だ、大したことねえよ」

「痛そう……」


 そう思った時、


「治してあげたい」


 自然に体が動いてトーヤ側にある左手を傷の方向に伸ばしていた。


 その途端、


「え?」


 シャンタルの手から、何か温かい光のようなものが傷に向かって放たれた。


「お、おい……」


 みるみるトーヤの傷が薄れ、消えた。


「おい……」

「治癒魔法……」


 トーヤの驚く声の後にルギがつぶやく。


「こいつ、魔法使えるのかよ……」

「シャンタル……」


 ダルも言葉をなくす。


「治った?」

「あ、ああ」

「痛くなくなった?」

「ああ、おかげで全然痛くなくなった」


 トーヤが自分の右腕を左手で握り、ぐるぐると何回か動かしてみる。


「痕も残ってねえ……」


 そう言って、なんとも言えない顔で自分の腕を見るトーヤにシャンタルが、


「よかった」


 思いっきりにっこりと笑った。


「……ありがとうな」


 トーヤがそう言うと、


「よかった!」


 もう一度、さっきより大きな声でそう言うと、ぱふっと満足そうにアルの首にしがみつき、ごきげんに小さく鼻歌を歌いだす。かわいらしい声で正確なメロディーが洞窟の中に流れる。


「……トーヤよりうまいな」


 ダルが何を言っていいのか困ったようにそう感想を述べる。


「ほっとけ」


 トーヤも吐き出すように言うが、何を言っていいのか分からない。


「…………」


 ルギは無言で付いてくる。


 そうして一行はその後は黙ったまま歩き続け、洞窟の端までやってきた。

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