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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第三章 第六節 旅立ちの準備
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21 昼休憩

 そうやって人の入れ替えを見ていると間もなく2回目のお出ましの時間になり、またバルコニーに4人が出てきた。

 

 同じように大地を揺るがすような興奮の中、同じようにマユリアとシャンタルが挨拶をし、そうして去っていって2回目も無事に終了した。


「次はお昼休みをはさんで3回目がありますが、次の回の方はしばらく待たないといけないので少し気の毒ですね」


 ミーヤがそう言うと、


「いや、こういうのはそれを待つのも楽しいんじゃねえの? ほれ、みんな楽しそうに待ってるぜ」


 トーヤに言われて見てみると、入れ替わりに次の回の人たちが枠の中に誘導されながら、わいわいと楽しそうに話し合っている。


「本当ですね」

「せっかく来たんだから少しでも長くいたいんだろうね」


 ダルが納得するようにそう言う。


「そうなんですよ、長くいたい人はわざと3回目を狙ってそのぐらいの時間に並ぶんですって。朝一番を見たい人は夜明け前から並ぶし、みなさんそれぞれお目当ての時間があるようですよ」

「へえ、そうなんだ」


 リルがそう言いダルが納得する。


「人も色々だな。ダルみたいに全部見たいって人間もいりゃ、俺みたいに1回で十分だろって人間もいる」

「でもでも、残っててよかったろ? 人の入れ替え見るの面白かったよな?」

「ああ、まったくだ。俺1人だったらとっとと帰って見逃してたな。やっぱり色んな人間の色んな考えってのを聞いてみるのもためになる」

「だろ?」


 ダルが得意そうに胸を張り、


「ああ、でも俺は幸せだなあ……本当だったらああして並んで1回か、がんばっても2回ぐらいしか見られなかったのに、こんないい席で全部見られるんだから」

「って、おい、本当に全部見るつもりか?」

「そうだけど?」

「おいおい……」


 2人のやり取りをミーヤとリルが聞いて笑う。


「だって、だってな……」


 ダルが少し間を置いてから思い切ったように少し声を潜めて言う。


「だってな、こうして4人でいられるのってもう後少しだけだろ?」


 忘れていたわけではない、ダルが言う通りもう少しで「作戦」は動き出すのだ。


「そういや、アロさんはもう行ったのかな」


 湿っぽい雰囲気にしたくなくてトーヤがリルにそう聞く。


「え、ええ、1回目が終わった後出ていきました。ほら、あそこにいたんですけどね」


 客殿前の貴族や有力商人たちがいた席の一画、数名が抜けたようになった席を指してそう言う。


「おお、招待席かさすがオーサ商会だ」

「そうでしょ?」


 リルが胸を張って得意そうに言うのにトーヤが笑う。


「ま、ダルの言うことももっともだな、楽しい時間を過ごそうぜ」


 そう言って涙ぐんでいるダルの背中をバシン! とどやしつける。


「いてえなあ」

「なんだよなんだよ、もうすぐ所帯持ちになろうって男が何泣いてんだよ、ほら、泣くなよ」

「泣いてねえよ」

 

 トーヤの手を振り払うが泣いているのは隠せない。


「もう、しゃあねえなあ……」


 トーヤがふうっと息を吐き、


「まあおまえが気が済むまで付き合ってやるよ。でも今は昼休憩だろ? 一回戻って俺らも飯食おうぜ、便所にも行きたいしな。廊下はやっぱり冷えるからなあ」


 そう言ってブルブルっと身体を震わせて見せる。


「ええ、確かに少し冷えますね。戻ったら毛布か何か持って来た方がいいですね」

「そうね、何か温かいものが飲みたいわ」

「だってさ、さ、行こうぜ」


 トーヤがダルの背中に手を当てて促す。


「そうだな」


 鼻をぐずぐず言わせるダルを先頭にして4人で渡り廊下を通って前の宮へ移動した。


 お出ましのバルコニーは3階にあるが、やや坂を登ったような形の配置になるので客殿から見ると3階半といった高さにあたる。

 客殿の4階からは、なので一番いい高さと距離に見えるように造られている。渡り廊下は少し奥まっている分だけ影になる場所が多いのと、やはり廊下だけあって風が通るので寒いのだけは難点だ。


 前の宮の4階の謁見の間からバルコニーにかけては今日は閉鎖されている。お出ましのためにシャンタル一行の出入りがあるからだ。そのためにトーヤたちの部屋のある2階へは、渡り廊下と前の宮の継ぎ目あたりにある下働きの者たちが仕事のために使う階段を使って下へ降りた。


 廊下を通ってトーヤの部屋に入り用意されていた食事を食べて一息つく。


「これが遠足のパンなのね」


 リルが肉や魚と野菜を挟んだパンを見て感慨深そうにそう言った。

 今日も時間の融通がつくようにとミーヤが頼んで作っておいてもらったのだ。


 フェイが初めてカースに同行した時に途中で遠足のように食べたために「遠足のパン」という呼び名で定着している。


「ええ、料理人の心遣いの味です」

「そしてフェイとの思い出の味ね……これで私も思い出に混ぜてもらえたわ」


 ミーヤが入れてきた温かいお茶と共にパンを食べ、毛布を持ってまた部屋を出る。


「ほら、早くしないと3回目のお出ましが終わっちまうぞ」


 いつもはのんびりのダルが、そう言って3人を急かすもので、「しょうがねえな」と笑いながらその後に付いてまた渡り廊下に戻っていく。

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