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 6 マユリアの海

 自分が流れ着いた海岸を見たい。

 次にトーヤはそう要望を出した。


「海岸や海、それからどんな船があるとか見ておきたかったんだよ。そこからどこか他の場所に流れつけるかどうか知りたかったしな。なんやかんや理由をつけてカースに出入りできるようにしておこう、そう思った」


 トーヤがこの国にたどり着いた経緯からこの申し出を疑う者はおらず、村長はさすがに高齢であるので、今度は村長の孫が案内してくれることになった。


「あんたはどっかで休ませてもらっとけよ、長旅の上に墓参りまでつきあってくれて疲れただろう。その準備も大変だっただろうしな」

「いえ、私もご一緒いたします」

「無理すんなって」

「大丈夫です」

「大丈夫じゃねえだろうよ、見るからに疲れた顔してんぞ? それにな、そんな顔で付いてこられても正直こっちも気を使う、海岸線をずっと見て回るだけだ、まあ心配するなって」

「でも……」


 ミーヤはあくまで付いていく意思を見せたが、自分が頑固に言い張っても迷惑をかけるかも知れないと思い至り、最後は村長の家で休ませてもらうことに納得した。


 問題はルギだった。


「あんたもずっと馬車(あやつ)って疲れただろう、ミーヤと一緒に村長の家で休んでろよ」

「私にも役目がある」

「だから、この村の中をうろうろするぐらいだから別にいいだろうよ。そんな悪い人間や怖い人間はいねえように思うぜ? お供の必要なんぞないだろうが」

「確かにこの村の人間にはそういう者はいないように思えるな」


 ルギの(ふく)みがある言い方にトーヤはカッとしたが飲み込んだ。


「そんじゃ勝手にしろよ。俺は別におまえについてこられようがどうしようが関係ねえしな」


 そう言い捨てると、村長の孫と並んで海岸へと向かった。


 カースは半島の付け根にある小さな村だ。海岸から北、山の方へとそう広くない範囲に家々が転々(てんてん)とあり、その真ん中あたりにトーヤが運び込まれた神殿が建てられている。そして村から少し離れた場所にさっき訪れた墓地があった。


 トーヤが流れ着いた海岸は半島の付け根から東西に広がっている。なだらかな遠浅の海で、そこに漁船をつける船着き場が並んで設けられていた。大きな港が築かれているわけではないので、あまり遠くの沖まで出るような大きな船は見当たらなかった。


「なんか妙な感じだな」

「何がですか?」

 

 村長の孫の少年が尋ねた。


 少年はダルと名乗った。

 年齢はトーヤと同じ17歳とのことだったが、世間の荒波に揉まれて年齢より年上に見えるトーヤとは反対に、少し幼い印象であった。3人兄弟の末っ子で、もうしっかり一人前の漁師である兄2人と比べて少しばかり頼りないとは紹介してくれた村長の言である。


「いやな、この半島だよ」

「どこか変ですか?」

「変だよ」


 トーヤは自分が流れ着いた海岸から、右手の沖まで伸びる半島を指差して言った。


「なんであの半島には誰も住んでねえんだ? そりゃそんなに大きくねえ半島みてえだが、こんな狭いところに肩寄せ合って家建てるんなら、あっちにももうちょっと広がって建てりゃいいだろうがよ。目の前が海なのは変わんねえし、あっちにも船着き場を作りゃ便利だろうに」

「ああ、それはあちらに『マユリアの海』があるからですよ」

「マユリアの海?」

「ええ、マユリアの海ですよ?」


 トーヤの返事にダルはさもそれが当然で知らぬ方が不思議と言わんばかりに目を見開いた。 




「おまえら、シャンタルとマユリアが交代するってのはもう理解してるよな?」

「うん」

「十年で交代するんだろ?」


 ベルとアランが答える。


「入れ物の人間様の方はそれで合ってるな。シャンタル十年、マユリア十年やったらその後は人間に戻る」

「そう言ってたよな」

「そうだ。じゃあな、初代はどうなったと思う?」

「え、いや、そういや、どうなったんだ?」


アランが戸惑う。


「どっちもあの国で眠ってるんだ」

「え、墓があるってことか?」

「いや、墓じゃねえ」

「じゃあどこに……」

「その墓代わりが『マユリアの海』なんだとよ」

「なんじゃそりゃ」

 

 アランの疑問もベルの驚愕(きょうがく)も当然のことであった。


「簡単に言っちまえばな、中身がなくなった空っぽのマユリアの体がその海に沈んでるんだそうだ」

「ええー」

「海に死体を流したってのか?」

「いや、そうじゃねえ眠ってるんだとよ」

「……わけ、わっかんねえ……」


久々にベルの口癖(くちぐせ)が出た。

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