13 話し上手
「え、え、え?」
リルがそれを聞いて驚き、次に思い出して驚き、最後に話の内容を思い出して赤面した。
「あ、あの、あ、はい、もう大丈夫でございます」
そう言ってまた深く頭を下げる。
「治ったの? よかったあ!」
そういう声に驚いて顔を上げると、小さな主が満面に笑みを浮かべ、両手で胸を押さえて本当にうれしそうな顔をなさっている。
「あ、あの、シャンタル……」
目の前の光景に驚き、ミーヤを見上げる。
ミーヤが黙って頷いた。
「シャンタルが、リルのお話は面白くてまた聞きたいとおっしゃったので部屋に呼ばれたのです」
ミーヤにそう言われてまた驚く。
そんなことがあるのだろうか。あの時、いくら一生懸命にお話ししてもまるきり人形、置物のように反応がなかったというのに。
リルがした話というのはリルがまだ宮に上がる前、実家にいた頃の話である。
ある日少しうれしい出来事があり、それでご機嫌になったリルの父が少し酒を飲み過ぎた挙げ句、まだ小さかったリルの手を取って歌いながら踊り出し、バランスを崩して倒れそうになったものの小さいリルだけは守ろうとして尻もちをつき、母にしこたま怒られた後でお尻を見たら大きなアザになっていた、というものであった。
リルの話し方がまた上手で、まるでその場にいるように思えて聞いていた者たちが笑ったのだが、もちろんシャンタルだけは何も反応がなかったのだ。
「あの、ありがとうございます」
そう言って頭を下げるが、一体何が起こっているのか分からない。
「リル、こちらへ来て」
ミーヤがいつものように、かしこまることなくリルをそばに呼ぶ。
呼ばれてリルがおそるおそる近付き、すすめられるままにソファの前の椅子に座る。それに合わせるようにミーヤもシャンタルの左隣の椅子に座った。
「シャンタルに何か楽しいお話をしてください」
「え?」
驚いてシャンタルを見ると、わくわくと期待するような顔をしている。
「え、えっと……」
いきなりそう言われても困る。「お茶会」の時には前もって何を話そうと考えて行っていたが今は奥宮に呼ばれたことで頭がいっぱいいっぱいだった。
「楽しい……あ、楽しいと言いますか、おめでたい話ならありました」
「じゃあ、それを」
ミーヤに促されて話し出す。
「実は私の上の兄の結婚が決まりました」
「まあ、おめでたい話! おめでとうございます」
ミーヤがうれしそうに言う。
「おめでたいの?」
シャンタルがミーヤを振り返って聞く。
「はい。リルのお兄様がご結婚なさるのだそうです。これはとてもおめでたいことですよ」
「そうなの?」
ミーヤの表情と言葉からいいことなのだと判断したようで、
「リル、よかったですね、おめでとう」
と声をかける。
「あ、ありがとうございます」
リルが急いで頭を下げた。
「それで、どうしておめでたいの? 結婚って?」
「ええと、結婚とはですね」
あらためて聞かれると説明に困る。
「どう説明すればいいのかしら……リル、どうしましょう」
「ええと……」
リルも一緒に考える。
「ええと、結婚とはですね、お互いに好き合う男女が夫婦になって新しい家庭を作ること、です」
「リル、すごいわ! はい、そうなんです」
シャンタルはそれを聞いて、
「好き合う男女って? 夫婦って? 新しい家庭って?」
新しい謎に目をキラキラとして新しい答えを求めてくる。
「ええとですね……」
そこからか、とリルが考え考え説明を始める。リルは言葉を使って色々説明することが得意な方ではあるが、さすがにシャンタルとはいえ子どもにどう説明したものか。
「この世界には男の人と女の人がおりますよね」
「そうなの?」
「あ、はい」
そこからより以前か、とさらに考える。
「ええと……この宮にいる人の多くは女の人です。女の人ではない男の人は衛士だけだと思います」
「そうなの? じゃあ体の大きいルギは男の人?」
「あ、はい、そうです。衛士以外の侍女はみんな女の人です。そしてシャンタルとマユリアも女の人です」
「シャンタルも女の人なの?」
「はい、そうです」
リルは事情を知らないので当然のようにそう答える。
「男の人と女の人がお互いを好きだと思ったら、ずっと一緒にいましょうと約束をして夫婦になり、家族になります。それを結婚と言います」
ミーヤはリルの話す力に感心をした。
「すごいわリル、本当に説明が上手だわ」
ミーヤに感心されてリルはうれしくなってきた。この部屋に入ってきた時の緊張はもうどこかにいってしまったようだ。
「シャンタルはラーラ様とマユリアとミーヤとキリエと、それからリルも好き。シャンタルもみんなと結婚したい」
「あ、えーと……結婚は男の人と女の人でしかできないのです。シャンタルは女の人で今おっしゃった人はみんな女の人なので結婚はできないのです」
「え、そうなの……」
少しがっかりした顔をする。
「ずっと一緒にいたいのに、結婚して家族になりたかったのにできないの?」
「まあ、シャンタル……」
リルは、つい最近までこの方がお人形のように生きているかどうかも分からなかったことを忘れ、なんとお可愛らしくいじらしいのだと胸が熱くなる。




