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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第三章 第三節 広がる世界
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 8 隠されていたこと

「シャンタル……」


 キリエがシャンタルをじっと見つめた。


「シャンタルは、一体何をご存知で、何をご存知ではないのでしょうね……」


 シャンタルはキリエの言葉に首を傾げる。


 マユリアのように咲き誇る花ではなく、ほんのりと(ふく)らみ始めた柔らかいつぼみのような美しさがあどけなく、また何か悲しく感じられた。


「黒のシャンタル、この言葉はご存知ではありませんでしたよね?」

「知らなかったの」


 そう言ってふるふると首を横に振る。


「そのことはマユリアやラーラ様からお聞きにはなっていらっしゃらないのですね?」

 

 シャンタルが首を縦に振る。


「聞いていないの」

「そうなのですか……では、お教えしなくてはならないのは、シャンタルのことだけなのですかね……」

「キリエ様……」


 マユリアが言っていた「辛い役目」とは、まさに本当に一番辛い、千年前から伝えられてきた「黒のシャンタル」のことを伝えることであったのだ。それ以外のことは全てお教えになっていらっしゃるのだろう、そうミーヤは思った。


「さきほどの黒のシャンタルの託宣をなさったのは千年前のシャンタルなんですよ」

「千年前!」


 ミーヤの言葉にシャンタルが驚く。


「そんなに前のシャンタルなの?」


 年月の感覚もお持ちのようだ。


「はい、そうです。その時のシャンタルがここにいらっしゃるシャンタルがお生まれになると託宣されました。その次のシャンタルがそのことをお伝えになり、またその次のシャンタルが次のシャンタルに、と次々にお伝えになりました。そうしてラーラ様、マユリアと伝わり、このシャンタルがお生まれになってその方のことだとやっと分かったのでございます」


 ミーヤの言葉にう~んと考え込んだ後、シャンタルが不思議そうに言う。


「ラーラ様もマユリアも黒のシャンタルのことを知っていたの?」

「はい、ご存知でした」

「知っていたの? でもシャンタルは知らなかったの、どうして?」

「どうして、と申されましても……」


 ミーヤは答えられずキリエも何も言うことを思い付けない。


「教えてくれてなかったのはどうして?」


 そう言われてふと心に落ちることがあった。だが今はそれを口に出すことができない……


「さあ、どうしてでしょうね……そう言えばシャンタル、きれいな文字をお書きになっていらっしゃいましたが、あれはどなたに習われたのですか?」

「マユリアと一緒にお勉強したの」

「ああ、そういえば……」


 言われてキリエがまた思い出す。

 人形のように座ったままのシャンタルにマユリアがペンを持たせ、手を添えて文字の練習をなさっていたのを見たことがある。


「とてもきれいな文字をお書きになられますね、キリエは感心いたしました」

「そうなの?」


 ほめられてにっこりと笑う。思わず抱きしめてしまいそうになる、そんな可愛らしい笑みだった。


「ええ、マユリアと同じきれいな字を書かれてらっしゃいますね」

「そうなの? 同じ?」

「はい。もう少し色々書いて見せていただけますか?」

「わかった」


 そうして色々な文字を書いて楽しそうに見せる。


 そうしてその日はシャンタルに何ができるか、できないかをキリエとミーヤが2人で色々と見ていった。


「学問と言われることはほとんどご存知のようでしたね」

「はい」


 シャンタルがお休みになった後、2人で今日知ったことを()り合わせる。


「歴史も、数学も、他に私の知らないことまで色々とご存知でした」

「はい」


 おそらく、マユリアとラーラ様がお教えになったこと以外にも、お二人が知ることも吸収なさっているのだろう。


「歌も上手に歌われますし、絵も子どもの絵とは思えぬほどのものをお描きになられるようです。芸術的なことは本当に素晴らしいとしか。それ以外にも、詳しいことまでは私には分かりかねますが、どうやら代々のシャンタル、マユリアが受け継いできたこともご存知のようでした」


 ミーヤが付け加える。


「ですが、黒のシャンタルと千年前の託宣(たくせん)、この2つだけは言葉すらご存知ではなかったようです」

「そうですね……」


 考えられるのは唯一つだけ、マユリアとラーラ様が「意図的」に隠していたのだろう。


「やはり……」


 不憫(ふびん)であったのだろう、己の運命を知らせるのは。


「いつ頃からお二人がそのようにお決めになったのか、そうなさっていたのかは分かりませんが、お気持ちは分かる気がします……」

 

 ミーヤが苦しそうに言う。キリエもそれに黙って(うなず)く。


「いつ、どのようにお知らせしようとお考えだったのか……」


 それとも、それも含めて「助け手(たすけで)」の役目であると思われていたのだろうか。


「いえ、お二人共そのように無責任な方ではいらっしゃいません。助け手が見つかったら、その日が近付いたらお教えしようと決めてらっしゃったのでしょうね」

「はい、私もそう思います」


 だが、その前に事態はこのように動いてしまった。

 お二人はシャンタルからご自分を切り離し、残った一番の大きな問題をキリエとミーヤに(たく)して姿を消すことになってしまったのだろう。


「それゆえのお言葉だったのでしょうね、『辛い役目を押し付けた』とおっしゃったのは……」

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