18 衛士ルギ
「おいおいおいおい、誰だよそいつは」
「ルギは衛士の一人だ」
「なんかわかんねーけどおじゃま虫だよな~せっかくミーヤさんと2人でお出かけできるってのになあ」
ベルがケラケラ笑いながらそう言い、トーヤの拳からさっと逃げた。
「とにかく強そうなやつだったよ、見るからに鍛えられたってな感じでな」
「びびった?」
「馬鹿言え、びびるわけあるかよ、こちとら実戦で命削って鍛えてんだからな」
「どうだかなあ」
ルギはマユリアが部屋から出ていくと立ち上がり、トーヤに近づいてきた。
「ルギだ、ご下命によりこれより供をする」
トーヤはそれほど大きい方ではない、中肉中背でほぼ平均的な体型をしている。
ただ、その筋肉は本人が言う通り実戦の中で鍛えられているため、鋼の強さとバネの柔軟性、さらには人一倍の俊敏性を備えたものとなっていた。まだ幼い頃から戦場を飛び回っても無事に生き残り続けられたのも、持って生まれた才能の上にその鍛錬の賜物だとの自信もある。
大柄なルギに頭一つ分上から見下ろされ、さらに着ている服もトーヤ言うところの「大臣のおっさんのような」不本意な貴族貴族した上着だったところから、なんとなくイラッとした。
これまで、力だけが全ての戦いの中に身を置いてきたトーヤとしては、久しぶりに闘志が湧いたと同時に、さきほどからの、マユリアにたじたじとなった自分を見られていただろう気恥ずかしさが襲ってきたのだ。
「お、おう、トーヤだ。よろしくな、だが供なんて必要ねえ」
トーヤは精一杯知らん顔で答えた。
「そうはいかない、マユリアのご命令だ」
「いらねえよ、こっちだって腕に覚えはある、断る」
「マユリアのご命令だ」
「いらねえ、つってーるだろうが」
「ご命令だ」
「しつっこいな」
トーヤは上着をバサリと脱ぎ捨てた。
「そんなに言うなら試してみるか、あ?」
あえて構える仕草もせず、ニヤリと相手を挑発した。
「やめてください」
ミーヤがおろおろとトーヤの前に飛び出してきた。
「ケガするからどいてろ」
トーヤはミーヤを押しのけ、さらに一歩ルギに近づいた。
「来いよ、おい」
「断る」
トーヤの挑発にルギは乗らなかった。
「私の使命は供をすることだ、それ以外の命令に従う義務はない」
「……っのやろう……」
逆にトーヤの方が頭に血が上った。
「やめてください!」
ルギに殴りかかるために腕を振りかぶろうとしたその瞬間、後ろからミーヤが飛びついてきた。
「ケガするからどいとけっつーただろうが!」
「どきません! ルギは、マユリアのご命令となったら死んでもそれを守る人間です。黙って殴られるままになっています、あなたの手が痛いだけです」
ミーヤがそう言いながら、必死にトーヤの腕にしがみついて止める。
「そんな馬鹿なと思ったんだがな、今まで見てきたことと、それからそいつの面見てたら嘘じゃないなと分かった」
「うっそだろ~殴られて殴り返さねえやつなんかいるのかよ」
「俺も馬鹿じゃねえからな、そのぐらいのこと見てたら分かる」
「かもな、そのぐらいのやつになりゃ俺ももしかしたら分かるかも知れねえな、だったらトーヤが分からねえことはないだろう」
「さすがにアランは分かってるな」
ニヤッとしたトーヤにベルが顔をしかめて見せた。
「勝手にしろ……」
トーヤはチッと一つ舌打ちをすると、それでもそっとミーヤの手を外し、振り捨てるように振り返って入ってきた扉の方に進んだ。
ところが、入って来た時には外の2人の男が開いてくれた扉の開け方が分からない。
外から内に開いたのだから引っ張ればいいんだろうとは思うものの、どこにも手をかける場所がない。
それではさっきマユリアたちが出ていったあっちの扉から出るのか? とも思ったが、さて、その扉がどこにつながっているかも分からない以上、うかつにそちらに行くわけにもいかない。
途方に暮れて扉の前に立ち尽くした。
「退室します」
後ろからミーヤの声がした。
音もなくふわあっとまた扉が動く。
「あぶねっ!」
急いでトーヤは後ろに飛び退いた。
扉のすぐ前にいたので、そのままではぶち当たるところであった。
「あぶねえな、俺がいるのによ!」
「腕に自信のあるあなたならそのぐらい避けられるでしょう? 分からないまま1人で進むからですよ」
怒った様子で素気なくそう言う。
「あんたなあ……」
「さあ、行きますよ」
開いた扉に向かうとトーヤを通り過ぎて先導する。
急いでトーヤも後を追った。
そして、ルギもトーヤの後からごく自然に付いてきた。




