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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第四節 神との契約
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16 親御様

「まあ女の話はそれでよく分かった。俺もその、キノスだっけ? 行くことがあるなら楽しみにしとくよ」

「ガキが一人前の口を聞きおるわ」


 村長がそう言ってまた笑う。


「そんで、黒のシャンタルだがな、じいさんはどう思ってるんだ?」

「どうとは?」

縁起(えんぎ)がいいとか悪いとかだよ」

「村だけではないが嫌う者もおるの、それが本当だ」

「じいさんは?」

「わしは……、わしも正直、なぜなのかと思ってこの十年を過ごしてきた」

「あのシャンタルの親御様だったか? その母親がキノスの人間の誰かとってこと、ねえのかよ? キノスの人間もシャンタリオ人だろ? だったら父親の可能性とかあるんじゃねえのか?」

「それはない」


 きっぱりと村長が言った。


「シャンタルに選ばれるのは古来(こらい)からのシャンタリオの血を持つ人間だけじゃ。キノスはその意味では生粋(きっすい)ではないからの、選ばれることはない。外の血が入っておるからな。だからこそあの町は少し異質(いしつ)じゃ」

「異質?」

「ああ、シャンタルや宮に対してあまり(おそ)れを抱いてはおらん。全くないということはないが、わしらよりは遠く離れておる感じじゃ」

「なるほど、そのへんも面白いってわけか?」

「まあ、そういう部分もあるの」


 また下世話(げせわ)なネタを振って笑い合う。


「ってことは、黒のシャンタルは両親共に生粋のシャンタリオ人ってことになるのか?」

「その通りじゃ」

「じゃあ、今のシャンタルの髪や肌や目はなんであんな色なんだ」

「誰にも分からん。神のご意思だろうということしかな」

「ふうむ……」


 黒のシャンタルについてはこれ以上のことは分からなさそうだとトーヤは思った。

 おそらく、シャンタル本人やマユリア、他の神官だの王様だのの偉い人はもちろん、村長のように年経る長老にすら分からないのならもう誰にも分かることはない、そんな不思議だ。


「そんで、じいさんもあまりいい感じは持ってなかったってことだな?」

「いい感じ、か」


 村長は少し笑った。


「なかなか柔らかい言い方じゃの、気に入った。まあそうじゃな、いい感じは持ってなかったな、早めに交代が来ないかと思っておったかな」

「なんでなんだ? なんか嫌なこととか困ったこととかがあったのか?」

「いや、何もない」


 あっさりと認める。


「ナスタも言っておっただろうが、それどころか今のシャンタルは、黒のシャンタルはそれはもう国に対して大きな恩恵(おんけい)をもたらしてくれておる。だからおまえさんがここに打ち上げられた時も、みんな疑わずに助け手、神のもたらした人間として受け入れたわけじゃ。こんなクソ生意気なガキにも関わらずな」


 口ではそう言いながら親しそうにトーヤを見る村長の瞳は柔らかく優しかった。


「じゃからまあ、いい感じではない、のは、いつもとは違うことを怖いと思う頭の固いわしのような人間じゃな」

「そうか」


 もしかして、とトーヤは思った。

 宮にも村長のように今のシャンタルを良しとしない人間がいて、そのようなやつらがシャンタルを消そうと思っているのか?それらから守ってくれとマユリアは言ってるのか?


「いや、そうじゃねえな……」

「なんじゃ?」

「いや、こっちの話だ」


 もしもそうならすぐにでも助けを求めてくるはずだ。そのための「助け手」ならば。


「まあそれはいいや……、そんで、シャンタルの交代について聞きたいんだよ。じいさんはもう何回も経験してるんだろ?どういう感じなんだ?」

「どういう感じとは?」

「交代の時になんか変わったことが起きたとか、そういうことあったか?」

「ああ、いや、そういうことはないな。いつもすんなりと交代なさる」

「親が……、親御様か? それが子どもを取られたくなくて逃げた、ってな話は聞いたことあるか?」

「親御様がか?」


 村長はきょとんとした顔で言った。


「まさか、シャンタルの親となるのは誇らしいことじゃ、そんなことをする人間がおるとは考えられんな」


 ミーヤも言っていた通り、やはりこの国ではそちらの方が「普通」なのだ。

 子どもを取られたと思う親はいない。心の中では、本心では別れをさびしく悲しく思っていたとしても、神に選ばれた子の栄誉を奪うようなこと、逃げるなんて考える親はいないのであろう。


「じいさん、こっからは内緒の話で頼みたいんだが……」

「なんだ?」

「これは、ダルももう聞いて知ってることだが、あいつが話すかどうかは分からんからな。だからくれぐれも内緒で頼む」

「分かった、誓おう」

「うん……」


 そうしてトーヤは「親御様」が逃げたことを話した。


「なんと、そんなことが……」

「俺はな、俺の感覚ではな、親が子どもを取られるなんて逃げて当たり前のことなんだよ、だがこの国では違うと言う。それをじいさんにも聞いてみたかった」

「そうか……」


 村長はしばらく考え混んでいたが、やがて気持ちを固めたようにトーヤに話した。


「親御様がどこの誰かはいつも一応秘密にはされる。だがな、わしは当代と先代の親御様についてある話を聞いたことがある。嘘か本当かは分からんがな」


 そうしてトーヤに噂としてある話をしてくれた。

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