8 道を見つける
「では始めましょうか」
そう言ってマユリアが部屋の中を見渡す。
壇上にはマユリア、その段の下には控えるようにキリエがいる。
キリエから少し離れた場所、段に向かってやや左には空腹を満たして満足した顔のトーヤが床の上にあぐらをかき、その横ではタオルであごを押さえたルギが立っている。
さらに離れた部屋の中ほどに意味がわからずぽかーんと口を開けたダルと、その隣に両手を体の前で重ねている青い顔のミーヤが立っていた。
「遠いですね、ダルとミーヤはもう少し前までいらっしゃい」
「は、はい!」
飛び上がるようにしてダルが前に進み、ミーヤが静かに歩いてくる。
トーヤとルギのすぐそばまで近寄った。
「よお」
「よおじゃねえよ、どうなってんだよトーヤ」
「俺にもよく分からん」
「分からんって……」
隣に立った血塗れの大男を見上げる。
あごから飛び散った血が服にも黒ずみかけたシミをあっちこっちに作っている。
「トーヤがやったのか?」
「そうみたいだな」
「何やってんだよ……」
「何って言われりゃ、やり損ねたんだよなあ」
「何を?」
「殺すつもりだったんだがなあ」
「おい……」
ダルが息を飲んだ。
「まあ失敗したしな」
「失敗したって……」
ミーヤの顔がさらに血の気を失う。
「この部屋にいるものはみんなあの洞窟のことを知っています」
トーヤたちの会話に関係なく、突然マユリアがそう言い出した。
「あんたも知ってるのか?」
「ええ、知っています」
トーヤが尋ねるとマユリアがそう答えた。
「そしてトーヤがあの洞窟を見つけ、ルギと会った場所までたどり着くのを待っていました」
「なんだよそれ」
「たどり着いてくれるかどうかと少し心配しましたが、無事に着けたようでよかったです」
そう言ってにっこりと笑う。
「ちょ、ちょっと待て!」
今回ばかりはトーヤも気を削がれてはいられない。
「俺があそこまで行けるかどうか見てたってことか?」
「そうです」
「いや、あのな……」
そう言って左の人差し指と中指で自分の額を軽く叩きながら考える。
「なんか、何から聞きゃあいいのか考えるからちっと待ってくれ……」
「かまいませんよ」
「う~ん、とな……」
額にしわを寄せながら考え、やっと口を開いた。
「あの洞窟のことを知ってるってことは、誰が作ったかも知ってるってことか?」
「ええ、知っています」
「おい……」
トーヤだけではない、ダルもミーヤも驚く。
「誰が作ったんだよ、あれ」
「かなり昔ですが、当時のシャンタルの託宣で作られました」
「また託宣かよ……」
もうお腹いっぱいだという風にトーヤが言う。
「じゃあ、何のために作ったんだ?」
「今日の日のため、そしてこれからのためにです」
「えっと、つまりあれか? 俺がたどり着くのを待つためか?」
「それだけではありませんが、そのためでもありますね」
「分からん……」
うーんと頭を捻って、
「じゃあ、俺があそこまで行って正解だったってことだな?」
「そうなりますね」
「そんじゃ、なんであそこからあんな強引に引き戻させたんだよ?」
「強引でしたか?」
「そこの男前に聞いてみな」
トーヤがそう言ってマユリアが聞いた。
「ルギ、強引にしたのですか?」
「いえ、戻れと言っただけです」
「嘘つけ! 仲間が傷つくとか言って脅しただろうがよ!」
「おまえがあのまま逃げていたらそこの2人はついたと思うがな」
「ぐっ……」
トーヤが言葉に詰まる。
「卑怯なやつめ……」
「なんとでも」
なんとなく一勝一敗、引き分けたという感じになって悔しかったが、
「まあ、そのせいでそんなことになってんだし勘弁してやるよ」
と、精一杯の強がりを言う。
「じゃあ、なんで俺があそこまで行くことが必要だったのか教えろ」
「トーヤの中であの道が湖から海までつながることが重要でした。」
「だったらダルにつながってるって聞くだけでいいんじゃねえのかよ?」
「聞いて、それでつながっていると確信しましたか?」
「いや」
トーヤが認めた。
「自分で行ってみるまでは信じないな」
「でしょう?」
また花のように笑う。
「じゃああそこから先は? 洞窟の中は通ってないぜ?」
「馬で行く道を知っているでしょう?」
「そんじゃ宮からも馬で行けるじゃねえかよ」
「湖から出る方法を知ることが重要でした」
「なんだよそりゃ……」
ますます混乱する。
「とりあえず今までの話をまとめるが、一言で言うと俺がこの宮から海まで逃げ出せる道を探し出せるかどうかを知りたかったってことでいいのか?」
「そうです」
「わっかんねえなあ……」
トーヤが頭を振る。
「だったらな、ここを通って海まで行けって教えりゃいいだけのことじゃねえかよ、なんで手間暇かけてそんなしちめんどくさいことする必要があるんだ?」
「運命に関わることだからです」
「またか、今度はまた運命かよ」
もう一度げんなりする。
「飯食うんじゃなかったなあ、胸焼けしそうだよ……」
それを聞いてまたマユリアが笑う。
他のものは黙って2人の会話を聞いているだけだ。
意味がわからないので口をはさむこともできない。