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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第一節 シャンタリオへ
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 7 三人の訪問者

「その豪華な顔ぶれだが、1人は王宮付きのなんとかって大臣だった。肩書はなんとか言ってたが覚えてねえ。名前も。会ったのもこの時だけだし、まあなんでもいいそんなもん。太ってて赤い顔して頭の禿()げた、上から物を言ってくる偉そうなおっさんだった」

「絵に描いたような大臣だな」

 

 ベルが言いそうな言葉だが、今回そう言って吹き出したのはアランだった。


「俺もそう思ったな。あ~大臣ってのは本当にこんななんだなって」


 もちろんベルも吹き出した。


「そのおっさんが言うには、船の残骸は片付け、死んだ仲間は町外れに葬ったってことだった。聞くところによると俺は五日ばかり意識がなかったみたいでな、その間の出来事だ。まあ仕方がない」


 そう聞いてベルがしんみりとした顔になる。


「そう言われた後で今度は色々と聞かれた。どこから来たのか、目的はなんだったのか、一緒に乗ってたやつらはどこの誰だとか。俺の名前や年なんかももちろん聞かれた。けど正直、船のやつらのことはそんなによくは知らねえ。どいつもこいつも(すね)に傷持つようなやつらばっかりだし、本当の名前かどうかも分からねえ。だから言えることっても、どこから来て、どこの港に寄ったかぐらいだ」

「それで、どう答えたんだ?」

「仲間のことはよく知らんと言って、それで終わりだ。俺のことは、あんまり答えてやりたくない気がして名前と年以外無視してやった」


 ぶふっとベルが吹き出した。


「トーヤだってすねにきず、ってやつだもんな」

「まあな」


 トーヤは当然のように答える。


「おっさんは無視されたことに腹立ててたみたいだったが、隣にいた、こっちは細い、ヤギみたいなひげ生やしたひょろひょろのおっさんが『まだ気がついたばかりですし~』とかってなだめて、今度は自分が色々聞いてきた」

「へえ、なんて?」

「シャンタルの託宣に選ばれたが助け手とは何か? とかなんか、そういうことだ」

「それでなんて答えたんだ?」

「こちらも知るかよ、ってご丁寧にな」


 またベルがぶふっと吹き出した。


「こっちは今の今、いきなり入ってきた女神様にそう言われたばっかりだ、知るはずねえ」

「そりゃま、そうだよな」

「シャンタル神殿の神官長だとかなんとか言ってたが、こっちはやたらとそういうことばっかり聞きたがったな。それはそれで分からんこともない気もするが、こっちだってそれこそ『わけわかんねえ~』だしな」


 トーヤが肩をすくめて両手を上げ、ベルの真似をしながらそう言った。


「似てねー」

「うるせえよ」

「まあなんでもいいよ、そんで?」


 今度はアランが先を(うなが)す。


「こっちもこれ以上聞いてもしょうがないと思ったのか、今度はそのまた横にいるちょっと年とったおばはんに交代した。今度はシャンタル宮の侍女頭だ」

「侍女ってのは、マユリアってのがシャンタルの侍女じゃねえのか?」

「少し違う」


 トーヤが説明を加えた。


「マユリアは侍女っつーてもシャンタルの世話をするわけじゃねえ、元は自分もシャンタルだしな。まだちっこいシャンタルの託宣を聞いたりする、まあ言わばもう一人のシャンタルみたいなもんだ」

「じゃあマユリアもたくせん、ってのやるのか?」

「やらねえんじゃねえか? そのへんは俺より後で本人に聞く方が早いかもな」


 ベルが「へ~」と言いながらシャンタルを見る。


「なので、こっちは実際に身の回りとかを世話する侍女の一番えらいおばはん、ってことだ」

「で、そのおばはんは何て聞いてきたんだ?」

「何か聞くようなことはほとんどなくて、何か困ったことはないか、用意してほしいことはないか、そういうことを言ってきた」

「へえ、親切なおばはんだな」

「親切な感じではなかった。考えようによっては一番冷たかったぞ」

「なんで?」

「人間を見る目じゃなかったからな」

「へ?」


 ベルが理解できないという風に目を丸くする。


「おまえ、人から物を預かったらどうする?」

「えっと、あんまりそんなことねえから分かんねえや」

「そこを考えろってトーヤは言ってんじゃねえか」


 答えたベルにアランがそう言う。


「う~ん、そうか……まあ、あずかったんだから、とりあえず壊さないようにするかな」

「そうだろ? まあそんな感じだ」

「わっかんねえ!」


 ベルがむくれたようにそう言う。


「つまりな、侍女頭とって、俺は命のある人間じゃなく、単なる預かりものだったわけだ。マユリアに命令されたから壊れないように扱う、そんだけの存在だ」


 ベルがまだ理解できない、という風に首を(ひね)る。


「大臣のおっさんも神官のおっさんも、一応俺を人間として扱ってくれたからな、だから質問して答えなけりゃ腹も立てれば、えらい目にあった後だからって気を使うこともする。だけど侍女頭はなんも興味がないんだな。だから俺が何を考えようが何をしようが関係ない。困ったことがないか聞いてきたのも単に壊れないようにするために必要だから聞いた、そんだけだ。分かったか?」

「う~ん、わかったようなわかんねえような……」


 トーヤの問いにベルが難しい顔をして答えるので、トーヤが面白そうに笑った。

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