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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第三節 進むべき道を
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19 マユリアの今

「ってことは、今度の交代で人に戻ったら、マユリアはやっぱり後宮に入るのか?」

「シャンタリオでは男も女も法律では13歳から結婚できるんだ」


 ベルの問いにトーヤがこう答えた。


「え、今のおれの年から? ちょっと早くね?」

「まあできるってだけで絶対しろって決まりじゃねえからな。実際にダルもダルの兄貴さんたちもまだしてなかった」

「それは遅いのか?」

「早いのはやっぱり貴族や金持ちらしいぞ。早くに娘をどっかに嫁にやって、そんで家の役に立てるのが多いらしい」

「あ~こっちでもそういうの聞くな」

「ああ、そのへんは同じみたいだな」

「全く、偉い人や金持ちってのはやだねえ、娘までそういうのに使う……」


 ベルが嫌そうに顔を(しか)めて見せた。


「だからな、当時のマユリアの二十歳(はたち)ってのもそういう意味では遅いぐらいなんだ。今はもう28だからな」

「そうか、でもそんだけ美人なら、王様も諦めてねえんじゃねえの?」

「それがな、ちょっとややこしくてな」


 トーヤが苦笑しながら続ける。


「俺はその時に初めて知ったんだが、王様と、その跡継ぎの王子ってのが、親子でマユリアを取り合ってたらしい」

「ええっ!」

「なんだよそれ!」


 ベルとアランが驚く、というか呆れた。


「それで結局は王様の方が偉いもんで、神様の座を降りたら王様の側室になるってことでほぼ決まってたらしいんだが、それから八年だからなあ、どうなってるやら……」


 トーヤがため息をつく。


「しかし、なんだな……シャンタリオってのは、宮ってのは浮世離(うきよばな)れしてて、なんつーかおとぎ話の国ってか、現実味がない世界なのに、王宮がどうとかって絡んでくると一気に生臭いな」


 アランが妙に感心したようにそう言った。


「ああ、それにな、王様と王子様だけじゃねえ、他の貴族だの金持ちのおっさんだの、すげえたくさんの男たちがマユリアを人に戻ったら欲しがってたって話だ。だが、さすがに王様が出てきたらどうしようもねえ。で、泣く泣く諦めてたらしいんだが、こうなるとそいつらも黙ってねえかもな」

「なあなあ……」


 ベルが何かを思いついたような顔で言い出した。


「なんだ?」

「もしも、もしもだけどな、トーヤがシャンタルを連れ出してなかったら、シャンタルも後宮に入れってことになってたのかな?」

「ぶっ」


 トーヤが吹き出した。


「いや、だって、こんだけきれいなんだしさ」

「いや、そうだな、確かにそうだ。いやあ、王様か王子様か知らねえがそりゃたまげただろうなあ。いざって時になって男だって分かったら」

 

 そう言ってゲラゲラ笑う。


「嫌だなあ、想像もしたくないよ……」


 シャンタルが心底嫌そうに肩をすぼめた。


「まあ、そういうことにならなかったから、こうして今ここにいるわけだけどな」


 そう言ってアランも笑う。


「そうだな」


 そう言ってまたトーヤも笑った。


「でもな、そういうわけで、そのしわ寄せが全部マユリアにいっちまってるわけだ。だから、もしも逃げたいと思ってるなら、その手伝いをしてやりたいとも思ってる。だが、その前に、もっと深刻な心配があるからな……」

「あれか、(けが)れの問題だな」

「ああ……」


 八年の歳月(さいげつ)、その月日の間の穢れでマユリアがどうなっているのか想像もつかない。


「大丈夫だよ、マユリアは生きてる……」


 シャンタルが小さく言った。


「それは託宣か?」


 トーヤが聞く。


「いや、違う。これは私の希望かな」


 小さくため息をつく。


「マユリアは私の姉だからね、だから元気でいてもらいたい、もう一度会いたいと思ってる」

「おまえ……」


 トーヤが奇妙な目でシャンタルを見た。


「珍しいな、シャンタルがそんな言い方するなんてな」


 アランも不思議そうに見る。


「いや、ああ、いや、そうだな……」

「ん、なんだ?」


 トーヤも何か少し違うような気がしてアランは聞きかけたが、


「まあ、十年もそんな関係だったんだもんな、姉さんか母さんか分からないけど、そりゃ心配だよな」


 ベルのその言葉に続く言葉を消してしまった。

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