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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第三節 進むべき道を
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17 黒のシャンタル

 そんな微妙(びみょう)雰囲気(ふんいき)で過ごした午前が終わり、そろそろ昼に差し掛かろうとした頃のこと、一艘の船が急いでカースに戻ってきた。


「なんだい、何があったんだい?」


 ナスタが急いで船に駆け寄って聞く。


「交代だよ! 親御様(おやごさま)が宮に入られた、シャンタルの交代がある!」

「え、交代、御代代(みよが)わりかい!」

「とうとう『黒のシャンタル』の時代が終わるんだよ!」


 そう言って船を操っていた漁師が急いで口を押さえた。


「おまえ……」

「す、すまん! つい口が……」

「なんだよ、その黒のシャンタルって」


 トーヤもミーヤも、そして黙ってそばにいたルギも聞いていた。

 ナスタが気まずそうに漁師を一つ(にら)みつけ、一つため息をついてから思い切ったように口を開く。


「宮の人の耳に入れないようにしてたんだけどねえ、このバカが……」

「すまん……」


 ナスタに睨みつけられ漁師が少し小さくなった。




「黒のシャンタル? なんだよそれ」


 アランがトーヤに聞いた。


「おまえら、こいつをどう見る?」


 そう言ってばさりとシャンタルのマントのフードを()がした。


「寒いのに……」


 シャンタルがいつもの口調で言う。


「どうって……」


 ベルがまじまじとシャンタルを見つめ、そして言った。


「やっぱりきれいだよなあ、シャンタル……久しぶりにじっくり見たけど、そんじょそこらの美人とは違うよな、すげえきれいだ。じっと見てるとおれでもなんかこう、ドキドキしてくるっつーか……」

「そんな感想かよ」


 トーヤが笑う。


「うん、きれいだもん、うちのシャンタル。戦場ですらうっとり見惚(みほ)れる敵がいるぐらいだしな」

「ああ、あるな」


 アランも同意して笑う。


「そんでさ、味方でもなんとかシャンタルを自分のもんにできないか、ってのも時々聞くぞ」

「聞くな。そんで大抵そういうやつらには誰かがこう言うんだよ」


 アランが一つ咳払(せきばら)いをして口真似をする。


「やめとけって、あの女にはあの死神トーヤがついてる。トーヤの女に手を出したらただじゃすまねえぞ」

「そうそう」


 ベルと2人で笑う。


「どうやっても女って思うんだよなあ、そいつら」

「いやいや、男と知ってそれでもなおってのも結構いるぞ。逆に男だったらってのも」

「やべえなあ」


 また兄と妹が笑う。


「なんだよそりゃ」


 トーヤも一緒になって笑う。


「まあ、そのぐらいだよなこっちなら。だがな、あっちじゃそうはならん」

「何が問題なんだ? 銀髪(ぎんぱつ)か? 確かにきれいだけどいるよな?」

「もしかして肌の色か」

「どっちも正解だが特に肌だな」


 アランの言葉にトーヤが言う。


「シャンタリオの人間ってのはな、みんな黒い髪に黒い瞳、それから白い肌だ。ちょうど俺みたいな感じだな」

「え、そうなの?」


 アルディナの神域にはたくさんの種類の人間がいる。

 北へ行けば薄い色の髪の人間が増え、南に行くと黒い髪が増える

 だがそれも増えるだけで全く他の色がないわけではない。肌の色もそうだ。


「確かに銀髪に褐色(かっしょく)の肌ってのは珍しいといや珍しいけどよ、ないわけじゃねえもんな」

「そうだよな。それよりはシャンタルの雰囲気や顔の造りの方が目立つぐらいだ」

「そういう感じだな。だから連れて来てもそういう点では助かってた」

「なるほど」

「じゃあシャンタルはなんでこの髪と肌なんだよ。普通に考えりゃ、それってシャンタルのお母さんが他の国の人間とうわ――もがっ!」


 これから言い出すことに気づき、アランがベルの口を急いで押さえた。


「そりゃ違うな」


 少し笑いながらトーヤが言う。


「シャンタリオの人間じゃないものがシャンタルに選ばれることはないらしい。だからシャンタルの両親はどっちもシャンタリオ人だ。普通に考えりゃ黒い髪、黒い瞳、白い肌以外の子供が生まれることはない」

「じゃあなんなんだよ」

「分からん」

「また分からん、か……」


 トーヤの答えにアランがそう言ってため息をつく。


「ああ、分からんことばっかりだ。なんもかんもな」


 トーヤがちらりとシャンタルを見る。




「ごめんよ、隠すつもりはなかったんだけど、やっぱり宮の人にはあまり聞かせない方がいいと思ってね……」


 ナスタの話によると当代シャンタルが生まれ、その髪と肌の色が明らかになるにつれ、どこからともなくそう呼ばれるようになっていったらしい。


「決して悪い意味じゃないんだよ? 当代はそりゃ託宣をたくさんなさってくれてるし、みんな尊敬の意味を込めてそう呼ぶんだよ」

「託宣をたくさん?」


 シャンタルも代によって色々個性のようなものがあり、ほとんど託宣をしないもの、してもその時代には分からないものも多いらしい。


「当代は託宣が多くて、それもすぐに答えが出るものが多くてね、それであのお姿もその力の強さの源じゃないかって言ってるんだよ」

 

 そうして尊敬の念を多く集めるのと同じく、逆に普通の時代の方が落ち着くと考える者もある。

 漁師のように自然と対峙(たいじ)する職業では迷信深い者も多く、カースでもやはり早めの交代を願う者も一定数いたのだ。




「他と異質なものを恐れるって気持ちも大きいんだろうな、だから交代を知って他の人間にも聞かせてやろうと船をぶっとばして帰ってきたのがいたってわけだ」

「黒のシャンタル、なあ……」

「なあ……」


 アランとべルがじっとシャンタルを見つめた。

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