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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第三節 進むべき道を
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13 道標

 トーヤとミーヤは黙ったまま墓所の入り口まで戻ってきた。


 墓所の中から見て前、東の方には「前の宮(まえのみや)」がある。このまま真っ直ぐそこを進めばトーヤに与えられている部屋もある「前の宮」に戻ることになる。

 その道をここから見て左、北の方に曲がると「奥宮(おくみや)」に続いている。


 「奥宮」から真西に例の「聖なる森」がありその中に「聖なる湖」がある。


 予定ではここでミーヤと別れ、ミーヤが一人で「奥宮」から「聖なる森」の「聖なる湖」まで行くことになっている。

 「奥宮」は基本的には男子禁制(だんしきんせい)である。トーヤは前回「前の宮」のマユリアの客室から北西に走って森に迷い込んだ。ミーヤも同じ道を進んだはずだが、迷わずにまっすぐ湖にたどり着けた。


「では行ってまいります。大人しく部屋に戻っていてくださいね」

 

 いたずらっ子に言い聞かすように言うミーヤに、


「なんだよそれ、言われなくても大人しくしてるってばよ」


 と、トーヤも明るく返す。


 ミーヤが楽しそうに笑い、


「では」


 と、頭を下げて左に曲がった。


 ミーヤの後ろ姿がどんどんと小さくなっていく。

 その後ろを見送っていたトーヤだが、突然不安が心に()き上がった。

 

 思わずトーヤは走り出し、追いつくと右手でミーヤの左腕をつかんでいた。


「どうなさったのです?」


 ミーヤが驚いて聞く。


「いや……」


 急いでミーヤの腕を(はな)す。


「なんかちょっと不安になっちまってな……」

「不安、なにがですか?」


 きょとんとしたミーヤの顔を見るとなぜだかほっとした。


「あんたが、いつかここに来る、なんて言うから……」

「え?」


 少し考えて思い出す。


「ああ」


 そう言ってまた笑う。


「大丈夫ですよ、まだまだ先のことですから」

「あたりまえだ!」


 真剣な顔で言うトーヤにミーヤも真顔になった。


「大丈夫です、信じてください。しっかりと見て、戻ってそのことをトーヤに報告しますから」

「…………」


 トーヤがじっとミーヤの目を見た。

 澄んだ、澄み切った黒い瞳。

 まるであの時に見た湖のようだった。


「分かった、あんたを信じる……よろしく頼むな」


 そう言ってミーヤに頭を下げる。


「分かりました、まかせてください。さっきも言いましたがフェイも一緒です。ね、フェイ?」


 軽く青い小鳥を下げている隠しのあたりを上着の上から押さえる。


「フェイも頼むな」


 そうしてトーヤはミーヤを見送り、1人で与えられている自室に戻った。


 ミーヤは一度奥宮に入り、そこから西へ真っ直ぐに進む。

 目の前に小さな森が見えてきた。聖なる森だ。


 こちらに来るものはほとんどいないが、全くいないというわけではない。何かに迷った時、静かに考えたい時、そんな時にひっそりと訪れる侍女はいる。

 そんなものの姿を見た時、他の侍女たちは見ないふりをして見送る。明日は自分の姿かも知れないからだ。


 ミーヤもそんな1人の顔をして森へと近付いた。


(シャンタル、どうぞお導きを……)


 静かにそう願う。洞窟の入り口へと導いていただけますように、トーヤの道しるべをお知らせいただけますように、と。


 ミーヤが森に一歩足を踏み入れる。

 わずかだが誰か、または何かが通ったように草が踏まれて道のようになっている。そこを歩む。

 

 すでに目の前に湖の光が見える。

 これが見えないとはトーヤは一体どこへと導かれていたのだろうか。

 恐れは感じなかったが不思議でたまらなかった。


 間もなく湖に着いた。

 湖から西の方角、王都を取り巻く山裾(やますそ)に続く森のあたりへ目をやる。


(カースから続くとしたらあちらのはず)


 そちらへと進む。

 下生(したば)えが段々と深くなり、ミーヤは手で草をかき分けながら山裾へと近付いた。


「あ、あれは……」


 思わず声が出て口を手で押さえた。

 誰が聞いているというものではないが、なぜだか声を出すのもはばかられる。


(洞窟の入り口……本当にあったんですね……)


 入り口にそっと手をかけて中を(のぞ)き込む。

 外からの光が入る範囲はトーヤに聞いていた通り、かなりの広さの洞窟がずっと続いているように見える。灯りを持っていないのでそれ以上中に入るのはやめておいた。


(見たことを帰って報告すること、それが今回の私の役目だから)


 確かめるように洞窟の壁を触ってみる。

 確かにそれはそこにあった。


 それは、トーヤが自分の故郷に帰る道につながっているかも知れない。

 そう考えると胸の奥に何かの塊のようなものを感じたが、それを振り切るようにして元来た道を戻っていく。 

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