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黒のシャンタル 第一部 「過去への旅」 <完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第三節 進むべき道を
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11 照れ隠し

「そんなことが……」

「つまり、あの洞窟は聖なる湖まで通じてるってことだ」

「信じられません……」

「俺も驚いた」

「そんな話聞いたこともありませんし」

「そうか、じゃあ宮の人間も知らなかったってことなんだな?」

「多分……」


 ミーヤより上の人間、先からいる人間は分からないが、少なくともミーヤと同じかそれ以降に宮に入った人間は知らないだろうと思った。


「一体、誰がなんのために……」

「さあな……」


 考えても分からない。


 ただ言えるのは、どうやらあそこがあの洞窟の出発点らしい、ということだけだ。


「それでな、とりあえず……その、逃げ道は確保できたと思うんだが、心配があるんだ」

「心配?」

「ああ……俺は、一度あの湖に拒否(きょひ)されてんだよな」

「あ……」


 ミーヤも思い出した。

 あの後、トーヤから何があったかを聞いている。


「だから、その気になっても行けないかも知れない」

「どうなんでしょう……」

「そもそもあの湖、あそこは近寄っちゃいけない場所なのか?」

「いえ、そんなことはありませんが、でも近寄るものはあまりありません。聖なる場所ですし」


 話を聞くに、マユリアの海と同じく、行ってはいけない場所と決められてはいないが聖なる場所なのでむやみと近寄る人間はいないらしい。

 それに(よこしま)な目的を持つものは近づけない、それは身を持って経験済みだ。


「ミーヤはあの湖には何回ぐらい行ったことがある?」

「あの時が初めてです」

「そうか。それでもすんなりと行けたわけだな?」

「はい。そもそも森の入り口から見えていますし」

「本当か!」


 トーヤが森に近寄った時にはそんなものは全く見えなかった。


「本当に、どうなってんだ……」

 

 トーヤがじっと考え込む。


「あの……」

「ん、なんだ?」

「私、もう一度行ってみます」

「え?」

「フェイに会いに行ってその時に足を伸ばしてみます」

「1人でか?」

「はい。一度行って様子を見てみます。その後でトーヤと一緒に行ってみてもいいですし、トーヤが1人で行ってみてもいいのかも」

「大丈夫なのか……」


 トーヤはあの森の見た目とは違う恐ろしさを知ってしまった。

 もしも、ミーヤがそんな目的、洞窟を探す目的で近づいて帰ってこられなくなったら、自分が迷ったようにあの森で迷ったら、そう思うと恐ろしかった。


「大丈夫なのか?」


 今度はミーヤに聞く。


「一度行けましたし」

「でもな、目的(もくてき)が違うだろ? あの時はマユリアに行けって言われて行ったわけだからな」

「それはそうですが……」

「だから下手なことしない方がいい」

「でも、そうだと確かめられないでしょう?」

「なんかあったらどうすんだ?」

「ありそうには思えないんですが」

「あったらどうすんだって言ってんだよ」

「そんなことが早々あるとは思えません」

「実際にあったじゃねえか」

「それは……」

「……もしもミーヤが帰ってこられなくなったら嫌だ」


 それだけ言って、トーヤはいつもはミーヤがするようにツンと横を向いた。

 ()(かく)しの行動にミーヤが思わず笑った。


「なんだよ、何笑ってんだよ」

「だって……」


 心配してくれているのだと思うとうれしく、そして面白かった。


「笑うなって」

「はい、ごめんなさい」


 そう言いながらなおも笑う。

 トーヤは()ねたように横を向いたままでいる。


「でも多分大丈夫です。それに1人じゃありません、この子が、フェイが一緒です」


 そう言って青い小鳥を見せた。

 

 トーヤも振り返って青い小鳥、フェイのお友達、そして今はフェイになったそれを見た。


「フェイ、守ってやってくれるか?」


 そう言って青い小鳥をそっと撫でた。

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