第8話 祝勝会
ファイト八王子との試合を怒涛の追い上げで逆転勝利した打倒メッシ。
試合を終えても興奮冷めやらぬ4人は、その後祝勝会をすることにした。
控室に戻ると総理は皆に提案した。
「で、祝勝会の場所だけど、今日は0カロリーもいることだし、せっかくだからバーチャルシティじゃなくてリアル店舗でやろうと思うんだけど、どうかな?」
リョウとモンブランはそれに答えて
「いいね。たまにはみんなで何か食べに行こう!」
「私、美味しい串焼き屋さん知ってるよ」
と乗り気だったが、0カロリーはリアル店舗での打ち上げには気が進まないようだった。
「あたし人が多い所はできれば避けたいかな。立場上人の目も気になるし、ハメ外せないのよね。そうだ、モンちゃんの家はどう? 女性の家ならあたしも安心して遊びに行けるし、それに『今度遊びに来て』って前に言ってたじゃない」
モンブランはそれに対し、「うん。じゃあ、みんなでウチくる?」と特に深く考える様子もなく答えた。
彼女はマンションで1人暮らしをしており、よく友達が集まって女子会をしていたこともあって人が来ることには慣れていたのだ。
その後、道中で焼き立てのピザとドリンクを大量に購入し、マンションの玄関前まで来た4人。
モンブランは玄関のカギをバックから取り出すと、ふと手が止まってあることを思い出した。
モン(何か大切なことを忘れてる気がするんだけど……。そ、そうだった! ゲーム関連のグッズや記念品、大会入賞者のメダルやトロフィーが、いっぱい部屋の中に散乱してるんだった。マズイ、これはマズイ事になったわ。もしリョウ君に部屋の中を見られでもしたら完全にゲームオタク認定、恋人不適格者の烙印を押されてしまう)
鍵を持って固まったモンブランを見た0カロリーは
「どうしたの? ひょっとして部屋が散らかってるとか? 女子としては、そこは気になるところよね~」
と声を掛けると、リョウは
「少しくらい散らかってても大丈夫だよ」
と、普通に玄関に近寄って入りたそうな仕草をした。
それを見たモンブランは慌てふためき
(ダ、ダメー!! あなたが一番入ってはいけない人なのよー!!)
と、妄想の中でリョウを羽交い絞めにしていたが、そんなモンブランの心境などお構いなく総理は
「ピザが冷めちゃうだろ? チーズは熱いうちに食べなきゃ」
と言うと、0カロリーもまた総理の意見に乗っかって
「そうなのよね。分かってるじゃない総理。あぁ、乙女の大敵とろけるチーズ。いつもは我慢してるけど今日はお祝いの特別な日だし、たまにはチーズ縛り解禁でもいいわよね」
と、中に入るのを待ちきれない様子。
玄関前の渋滞にさらに割り込んで大混雑を起こすべく、ジリジリと前進する総理と0カロリー。
モンブランは
(あぁ、もうこれ以上この人達を止めるのは無理。部屋を片付けるにしても4~5時間はゆうに掛かるし……。こんなことなら、扉が開くと同時にゲームグッズが爆発するようにC4爆弾をセットしておくんだったわ。それか、進攻ルートにバリケードを築いて迎撃の準備を…………って、昔ドハマりしたFPSゲームの世界観が、現実の世界とごっちゃになってしまったわ。イケナイ、そんなの無理に決まってるじゃないの)
と唇を嚙んでいた。
そんな中、リョウの一言がモンブランに一筋の光明を差した。
「ひょっとしたら、今日は弟さんがいるの? たまにモンちゃんちに遊びに来てるもんね」
ピコッ!
モンブランの頭の上で電球が輝いた。
(そうだわ。その手があった。弟が遊びに来て、いらないグッズやら記念品やらを置いて行ったことにすればいいのよ!)
素晴らしいアイディアに気を良くしたモンブランは、後ろを振り返って3人を見渡すと、もったいつけながらこう言った。
「そ、そうなの、そうなのよ! そういえば、この前弟が遊びに来たときゲーム関連のグッズとかトロフィーとか、よく分からない物をいっぱい部屋に置いていってしまったのよ。だから中がまるでオタクの部屋みたいに散らかってるけど、決して驚かないでね。もう、本当に弟には困ってしまうわ。はぁ、迷惑迷惑っと。ブツブツ」
それを聞いたリョウ・総理・0カロリーの3人が、ウンウンと縦に大きく頷くと、それを確認したモンブランは鍵を握ったまま扉を向き直り、
(セ、セーフなの? 今回もまたこの難局を無事に乗り越えられたの? あぁ、私ってひょっとしたら土壇場になると運が2倍になるスキルを持って生まれてきたのかしら)
と、小さくこぶしを握ってガッツポーズを決めた。
その後モンブランが扉をガチャリと開くと、
総理「じゃあ、もう入ってもいいか?」
0カロリ「ご褒美の熱々ピザを早く食べたいわ」
と、2人はせきを切ったかのようにズカズカと部屋に上がり込んでいくのであった。