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第7話 vsファイト八王子

 0カロリーの加入から数週間後、いよいよ打倒メッシとファイト八王子の対戦の日が訪れていた。

 両者の対戦はWFO内のスタジアムでライブ配信することが決まり、一部のWFOファンはこの試合の勝敗を『掛けクジ』の対象にしていた。

 両者は東京にある競技用の小さなホールに集合して試合をすることになっていたが、0カロリーのファンが予想より多く集まった為、一部の観客はホールの客席に入りきれないという熱狂ぶりを見せていた。

 そんな中で始まろうとしていた試合。

 ポジションは、FWリョウ、MF総理、自由モンブラン、CB 0カロリーに決まった。

 何度か練習をして分かったことだが、0カロリーは意外にもセンターバックというポジションが向いていた。

 攻撃陣と違って深い戦術理解や仲間との連携が必要なポジションではあるが、彼女は風林火山のメインサポーターとしてサッカーのことをかなり勉強してきた過去がある。

 本人は「私、私生活でもガードが固いから大丈夫」とお茶らけていたが、その高い守備力の裏には相応の努力があったのだ。


 キックオフの笛が鳴ると、まずは八王子のチャンスが訪れた。

 敵のサイドMFからバイタルエリアに送られたパスはFWに渡り、0カロリーと敵FWの最初のマッチアップが行われた。

 前を向いてボールを受けたFWはボールを巧みに操り0カロリーの裏に抜け出そうとした。

 0カロリーはその様子を注視して反応。本来の実力を発揮できれば相手からボールを奪えると思われた。

 しかし、0カロリーはバランスを崩して相手に抜かれてしまった。

 その後相手はゴールを決め、スコアは0対1

 総理は0カロリーに声を掛けた。

「ドンマイ。今のは相手が上手かった。気にするな」

 それを聞いた0カロリーは心の中で総理に謝罪した。

(ごめん総理、この試合、私は勝ってはいけないの)


 ――― 2週間前 とある事務所


 そこでは、高そうなスーツを身に付けた男性と0カロリーが密談をしていた。

「いいですね。八王子との試合には、わざと負けてください。報酬は用意します」

「分かりました。ただし、お金は先に支払うこと。いいですね」

「分かりました。先にお渡ししましょう。くれぐれもこのことは内密にお願いしますよ」

「もちろんです」

 0カロリーにはお金が必要だった。

 父親が事業に失敗したため生活が困窮していたのだ。

 彼女は、

(妹はまだ学生でアテにはできない、というよりも、妹の学費もあたしがなんとかしてなくては)

 そう思い、苦渋の思いで八百長を引き受けたのだ。


 ――― 現在 試合会場


 八王子の1点リードで試合は再開された。

 ボールを奪った八王子はまたしても攻勢に出る。

 さすがはサポーターが結成したチーム、中盤でのパスミスは少なくモンブランも総理も中々ボールを奪えない。

 そんな中、またしても敵のFWにボールが渡った。

 0カロリーは1テンポ遅れてそこに体を寄せるも、切り返しでかわされてそのままシュート。

 スコアは八王子の2点リードに変わった。

 試合はハーフタイムへ。


 休憩中、総理は0カロリーの元へ、持参した『山の恵み天然水』を持って行った。

「ほい。お前の好きなやつ」

 飲み物を手渡して話を続けた。

「緊張してるのか? 動きが固いぞ。大事な試合だからプレッシャーを感じるのも分かるけど、お前って本番で委縮するようなタイプじゃないだろ? もし失敗を恐れて思い切ったプレイができなくなってるなら、そんなのお前らしくないからな。俺の知ってる0カロリーは注目を浴びれば浴びるほど輝きを増す根っからのスターだ! だから、お前はもっと全力でプレイをしろ! 万一失敗しても、その時は俺が支えてやる!」

 肩の横をポンッと叩き、こぶしの親指と小指を立てたポーズをチラつかせる総理。

「うん……、そうだね……」

 0カロリーは下を向いて頷くだけだった。


 後半戦が始まっても、0カロリーのプレイは精彩を欠いたままだった。

 そんな0カロリーを総理はハーフタイムの言葉通り全力でフォローした。

 2人分のスペースを走り回る総理の体力はすでに底をつきかけている。

 その間も0カロリーは、

(あたしはどうしたらいいの?)

 と自問自答を繰り返していた。

 やがて総理の体力ゲージは無くなり『少し走っては苦しそうに呼吸をしてスタミナを回復する』というケガをする寸前の状態になってしまった。

 それでも必死にフォローを続ける総理。

 0カロリーはそんな彼の姿を見て思った。

(総理があんなにがんばってるのに、あたしは何をしてるの? お金を恵んでもらうためにズルをして、楽をして、人に嘘をついて。努力もしないで手に入れたものになんて、何の価値もないのに……。今忘れてしまったら、もうずっと思い出せないかもしれない。だから……。あたしは、あたし自身の力で欲しい物を手に入れてみせる!)

 目に輝きを取り戻した0カロリーは、自陣のゴール前にわざとスペースを空け、マークについている相手FWとの距離を広げて隙を作った。

 0カロリーの動きを見てチャンスとみた相手のMF。

 FWがゴール前のスペースに走り込むと、すかさずそこにパスを送った。

 空いたスペースへの正確なパス。基本に忠実なこの行動は、反面プレイが読みやすい。

 ゆるい弧を描きながら転がるボールがゴール前で待つFWの足元に渡ると。

 その瞬間。

 罠にかかった獲物を狙うような鋭いタックルがボールを削り取った。

 0カロリーの得意技は『ボールのトラップ際を狙うタックル』

 実際のサッカー選手もたまに見せるこのプレイは、決まった時の爽快感が突き抜けている。

 チーム全体の士気を鼓舞し、試合の流れをも変えることがあるプレイなのだ。

 さらに、ボールを奪った0カロリーは、そのまま敵陣へと攻め上がった。

「攻撃は防御を兼ねる」という言葉があるが、0カロリーもまた、今まさにリベロとして覚醒しようとしていた。

 歓声で沸き上がるホール。

 もはや歩くことさえままならない総理は、目の前から遠くへ走り去っていく0カロリーを見送りながら

(お前は、いつまでも俺の手の届かないところにいてくれ)

 そうつぶやくのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすいです。1話の長さも短すぎず読みごたえがありました。ストーリーはゲームものですが安易にVRを用いていないのも面白いと思います [気になる点] もう少しゲームの説明があってもよ…
2022/08/19 12:59 退会済み
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