第6話 戦うサポーター
チームのレベルが順調に上がると、打倒メッシはWFOの世界でにわかに注目を浴び始めた。
ある日、総理の元に思いがけないオファーが舞い込んだ。
それは、打倒メッシとあるチームがエキシビジョンで対戦し、勝利したチームには報酬が支払われるというものだった。
すでにEスポーツの中でも特に人気のある競技となっているWFOにおいて、強いチームに対して何らかの報酬が支払われるのは珍しいことではなかったが、総理はそれが自分の愛らしいボテボテのキラーパスのお陰だと勝手に思い込んで舞い上がっていた。
「よう、リョウ。今度WFOでの俺様の活躍が注目を浴びて、報酬付きのエキシビジョンマッチをすることになったぞ!」
最近毎日リョウの家に入り浸っている総理は、この日もリョウの家を訪れていた。
「え! そうなの? スゴイ! ゲームやってお金がもらえるの?」
「ああ、ただし条件がある。それは、とあるチームと戦って勝つこと。そしてチームの補強のためにJ2リーグ風林火山のサポーターから、代表者1名を打倒メッシに加えること」
「なるほど、新しい選手をメンバーに迎えて、指定するチームとの試合に勝てばいいんだね? 僕達最近すごく調子いいし、なんだかイケそうな気がするね。で、相手はどんなチームなの?」
「相手はJリーグ・ファイト八王子のサポーターが結成したチーム。普段サッカーを見ている人達だから手強いって言われてるけど、まあ現役J(2)リーガーの俺様にかかればチョロいもんだな」
「ファイト八王子って、J1でも常に上位を争ってるチームだよね。サポーターってサッカーの戦術にも詳しそうだけど、勝てるかな?」
「なに、大丈夫だよ。俺様に任せておけって。それよりも問題なのは新メンバーの方だな。実は俺そいつのことよく知ってるんだけど、素直に仲間になってくれるかどうか。何しろワガママなやつだからな」
「え、そうなの?」
「ああ、少しばかり外見がいいからって、スゲー上から来るんだよあいつ」
総理はカバンから写真付きの経歴書のようなものを取り出してリョウに手渡した。
「そこに載っているのは、風林火山の主要サポーター兼インフルエンサーで、名前は『0カロリー』」
総理が渡した経歴書の写真には、腰回りが露出した可愛らしい応援衣装に身を包み、金髪で目鼻立ちのハッキリした女性が映っていた。
リョウはこの女性に見覚えがあった。
「あ、この人知ってるよ! 風林火山の試合がある時、みんなの前に立って応援してるよね」
「ああ。彼女目当てにスタジアムを訪れる男性も結構多いって言われてるけど、そんなんだからあいつ調子にのっちゃうんだよ。俺様がデートに誘ってやった時も『あたし、サッカーがヘタな人とは食事に行かないの』とか言って断ってきたし」
「それは、総理の誘い方にも問題があったんじゃないの?」
「まあともかく、明日辺り0カロリーの所に会いに行ってみようぜ」
翌日、総理とリョウはスタジアムに隣接されたサポーターズハウスへと足を運んだ。
総理はドアの前に立つと、トトトンと扉をノックしてガチャリと勢いよくドアを開けた。
「よう! お前今度WFOのウチのチームに入るんだって?」
ビックリした0カロリーが伸び上がって総理を向き直った。
「ち、ちょっとー! アンタいつもノックしてから部屋に入るまでが早いのよ! もし着替えてたりしたらどうすんのよ。返事を待ってから静かにドアを開けたら? ていうかさ、試合でも今くらい機敏に動いてよね!」
「動いてるじゃんかー。むしろ、俺の動きって早すぎるからさ、他のメンバーに見えてるかなって不安になるくらいだし」
総理はそう言うと0カロリーにズカズカと歩み寄った。
「な、なによ~」
「なにっていうかさ……」
総理は後ろ手に隠していたラッピングされた包みを0カロリーに差し出した。
「これ、お土産。この前試合で仙台に行ったからさ。牛タン買ってきてやったぞ。お前好きだろ?」
「ま、まあ好きだけど?」
0カロリーは大きな牛タンの包みを受け取りながら
0カロ(牛タンって焼き肉屋で食べるものであって、生で1本丸ごと買うような物じゃないんじゃない? 冷蔵庫に保管するのだって、このサイズだと業務用が要りそうなんですけど。ひょっとして私って精肉業者か何かと勘違いされてる?)
と、ズシリと重い牛タンを抱えながら思った。
しかし、総理は0カロリーが牛タンを受け取って困惑しているなどとは、つゆほども思っていなかった。
「で、話は聞いてると思うけど、お前のポジションなんだけどさ」
「ねぇ、あたしがもうすでにチームに参加してるテイで話を進めるのやめてくれない?」
「あ、そうか、そう言えばまだ正式に参加のオファーをしてなかったな。わるいわるい。じゃあお前にチームに加わってほしい理由を言うぞ、お前一応サッカーに詳しいし、広告塔としてのイメージもまあまあイケてる方だし、それになんと言っても、サポーターリーダーやインフルエンサーとして期待に応えるため、実は裏で一生懸命がんばってるのを俺知ってるから。だからお前とだったらWFOでもみんなを魅了するようなチームが作れると思うんだ。頼む、力を貸してくれ! 世界中のWFOユーザーを俺たちで熱狂させてやろうぜ!」
「フッ。まぁまぁ私のことを分かってるみたいね。確かにあたしが参加すれば、打倒メッシも一躍スターチームの仲間入りってところかしら。でもな~、どうしよっかな~」
0カロリーはアゴに指を当てながら左右の天井を見て悩んでる素振りをした。
斜に構えた0カロリーは、視線を総理とリョウに交互に送った。
「一応言っておくけど、あたし夜は家から出ないからね。あと23:00を過ぎたやりとりも無し。睡眠不足は美容の大敵なんだから。あと、朝練とかも絶対にしないで。それと、あたしがネットで提供してる番組に、呼んだら2人共出演すること。以上を守れるならチームに参加してあげてもいいわよ!」
男子2人は何故か0カロリーに叱られているような気分になったが、とりあえず途方もない参加条件を提示されなくて良かったと内心胸をなで下ろしていた。