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第5話 最強のコンビネーション

 新メンバーを迎えた打倒メッシ。

 モンブランも、サッカーの戦術やポジショニングはまだ全然だったが、とりあえずパスとトラップに関してはかなりの成長を見せていた。

 それにしても、ショートパスとロングパスが使い分けられる時点で、モンブランはすでに総理を技術的には追い越していたのだが、総理は一向にそのことに気付いていないようだった。

 モンブランは思いのほかトラップのセンスが良く、ポールを受ける瞬間にトラップボタンを押すというリズム感に関しては3人の中でも一番優れていると言ってよかった。

 特に、総理が出す『地を這う超高速ロングパス』という特殊パスを高確率でトラップできるのはモンブランの大きな強みとなっていた。

 もしもモンブランがサッカーの戦術やポジショニングを覚えたら、もしかすると打倒メッシの中核を担うメンバーになれるかもしれない。


 今日はリョウの家に3人が集まってランキングの試合をする予定になっていた。

 いち早くリョウの家を訪れた総理は、ゲーム機の入ったおもちゃ箱を両手に……、持っていなかった。

 いちいちゲーム機を持ち運ぶのが面倒になった総理は、リョウの家にゲーム機とモニターをそれぞれ設置したままにしていたからだ。

 しかも『触ると爆発します!』という注意書きが所々に張り付けてあるのもリョウの気に障った。

 彼は「まあいいか」とそれを許容していたが、もしも総理がリョウの家を訪れる度に名産の信玄アイスや諏訪姫ラーメンなどのお土産を持っていってなかったとしたら、何かひともんちゃくあった可能性も否定できない。

 リョウと総理が2人で試合前のウォーミングアップをしていると、そこにモンブランが現れた。

 彼女もまた、『いつの間にかリョウの部屋に自分の居場所を確保する』という黒い一面を持っていた。

 いくらリョウの部屋が一般的なそれより広くリニューアルされているとはいえ、3人が集まってそれぞれ別のモニターでゲームをするという光景は中々にシュールであり、はたから見るとまるで『大学の狭い研究室でたむろすベンチャー企業の卵達』のような様相を呈していた。

 3人はオンラインゲームなのに何故にリョウの家に集まってゲームをしているのか、その事情については後日話すことにしよう。


 モンブランはゲーム機の電源を入れ、

「ごめんなさい、お待たせしました。今日はいよいよ3人で初のランキング戦ですね!」

 と意気込みを語り、リョウは

「うん。練習の成果、見せようね!」

 と、2人に親指を立てて見せた。

 打倒メッシのディヴィジョンは現在10。公式戦で1勝も挙げていない最下位からのスタートだ。

 キックオフ後、まず最初に見せたのはFW(フォワード)のリョウ。

 彼はスピードに特化した走りが特徴のドリブラーだ。

 相手のSB(サイドバック)を誘い出すと、いとも簡単に裏を取ってゴール前に走り込んだ

 それを見た総理はロングパスの打ちそこないのボテボテスルーパスをゴール前に蹴り込んだ。

 コロコロとゆっくり転がるボールだったが出したコースはいい。

 このランクの敵にこのパスを止められるDF(ディフェンダー)はいなかった。

 リョウのダイレクトシュートが敵のゴールに突き刺さった。

 まず1点。

 それを見たモンブランは

(すごいスピード。相手の守備が完全にリョウ君の後ろを追う形になっている。それにしてもなんて気持ちよさそうに走り回るのかしら。もしも現実世界で足が自由に動かせたとしたら、リョウ君はきっとこんな風にフィールドを全力疾走したかったんだわ)

 と、まるで自分が風を切って走っているような錯覚におちいった。

 1点を先取して味をしめたリョウは再び同じパターンでSBを誘い出そうとした。

 しかし、さすがにこれは読まれていた。

 相手SBは慎重にリョウをマークしていたため、一気に裏に抜け出すという訳にはいかなかった、しかし攻撃で頼りになるのは、やはりリョウだった。

 総理がリョウにボテボテのパスを渡すと、リョウは前に待ち構えているSBに相対しドリブルで抜きに掛かった。

 中に切れ込むと見せて奥へ。

 相手SBはまたしても完全にリョウの後背を仰ぐハメになった。

 フリーになったリョウはペナルティエリアの中に折り返しのショートパスを送った。

 その強めのパスに合わせたのはモンブラン。

 モンブランは合わせるのが難しいと言われている『グラウンダーで球速の早いセンタリング』をあっさりゴールネットに突き刺した。

 2点目。

 通常ペナルティエリア内までMF(ミッドフィルダー)が詰めることは珍しい。しかし、モンブランはサッカーの素人。ボール以外に見ているのはただ一人、リョウだけ。

 リョウがボールを出しやすい位置に定石無視で陣取り、『愛コンタクト』という名のパスを受ける。

 それがモンブランのプレイスタイルなのだ。

 さらに1点を追加した打倒メッシだが、モンブランは想定外の感情を抱いていた。

 モン(し、しまった! 受けるのが難しいパスを、あっさりダイレクトボレーしてしまった。これでは私が『実は重度のゲームオタク』なのがバレてしまう。そんなことになったら大変、リョウ君に家庭的ではない女だと思われてしまう。そ、それだけは、絶対に避けなくては……。そうよ、これからはもっとゲームが下手なフリをしましょう! さっきは音ゲーで鍛えたリズム感でうっかりボールをジャストミートしてしまったけど、次は外すのよ。そうよ、シュートを外して可愛らしい女性を演出するのよ!)

 その後、リョウとモンブランは素晴らしいコンビネーションでゴール前まで攻め上がり、最後の決定機ではモンブランがシュートを惜しくも外す、またはリョウがゴールを華麗に決めるという展開が続いた。

 気づけば大差で打倒メッシの勝利。無敗のままランキングがみるみる上がっていくのであった。


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