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第1話 最初の仲間

※ 登場人物は、都合上ハンドルネームで統一して表記します。


 リョウにはささやかな楽しみがあった。

 オンラインで対戦できるサッカーゲームである。

 WFOワールドフットボールオンラインと呼ばれるこのゲームは、サッカーゲームとMMO(仮想生活空間)が融合した新ジャンルのゲームとして、広くその名を知られていた。

 バーチャルスポーツとしてオリンピックの正式種目にもなったこのゲームの魅力は、プレイヤー自身の身体能力が低くても一流の選手になれる可能性があること。

 右足が義足のリョウも、このゲームの虜になっていた。

 最初は一人で楽しんでいたリョウだったが、趣味として徐々に深みにハマっていくと、今度は友人と一緒に遊びたいと思うようになった。

 今日はその友人をWFOに誘おうと思っている。

 自室でソワソワしながら待っていると、ほどなく彼が訪ねてきた。

 ハンドルネームは総理大臣。

 総理は比較的運動神経がよい方で、リアルサッカーのJ2クラブチーム『風林火山』に所属するプロのサッカー選手だ。

 実績がパッとしないわりに自己評価がやたらと高いのだが、それでもリアルサッカーの経験はゲームのサッカーでも生きると思われた。

 リョウは総理を自室に招き入れ話を切り出した。

「今日はちょっと相談があるんだけど」

「ん? どうした?」

 総理はリョウの部屋のいつもの場所に座り込んだ。

「総理って、仮にもプロのサッカー選手だし、サッカーの技とか戦術には詳しいよね?」

「仮にもは余計だが、プロとしてかなりの実力はある方だと思うぞ。俺様がJ2ごときでくすぶっているのは、プレイがあまりにも芸術的で周りの凡百の手下どもがついてこれないからだ」

「そ、そうだったね。総理も孤軍奮闘で大変だね。ていうか、実は僕もサッカーを始めたんだ! 今度一緒にやらない?」

「え?」

 総理は意外そうな表情を見せた。リョウが義足であることを知っていたからだ。

 確かにゆっくり歩くことはできるが、ボールを蹴るとなると話は別。ボールタッチには繊細な足の感覚が求められる。

「もちろん、リアルのサッカーじゃないよ。コレだよ」

 リョウはゲームのコントローラーを手に取って見せた。

WFOワールドフットボールオンライン知ってるでしょ? CMでよく流れてるよね。」

 リョウはモニターのスイッチを入れてゲームを起動し、画面を見せながら説明を始めた。

「このサッカーゲームの特徴は、オンラインでつながった最大11人のプレイヤーがチームを組んで協力して、同じく複数のプレイヤーで構成された敵チームと対戦ができるところ。そう、まるでリアルのサッカーみたいに、みんなで一緒に試合できるんだ」

 リョウが画面を指差しながら熱く説明していると、

「やっぱ大勢で遊ぶのは楽しいよね。Limeもzoonも、みんなでコミュニケーションとった方が盛り上がるもんね。それがサッカーゲームでもできるってことでしょ?」

 と、アナログ人間の総理にも、大まかな想像はできたようだ。

「そうそう、そうなんだ。それに、このゲームで作ったアバターは、サッカーをするだけじゃなくて、メタバースと言われる仮想都市空間に行ってカフェで仲間とチャットしたり、お店で本物の家電や服を買ったりすることもできるんだ。ゲーム内で稼いだお金はリアルマネーにも換金できるし、『現実よりも便利な第二の現実世界』なんて言われてるよね」

 流行り物に弱い総理はリョウの話を聞きながら、(これはもう、仮想世界の住人になるしかないじゃん!)と思い始めていた。

「たしか、AMANZONとかクラウダーワークスとかニューチューブとか楽々天銀行とか、他にもいろんなサービスがこのソフトと連携してるんだよね? やっぱこれからはWFOの時代か~」

 総理はマジマジとゲーム画面を眺めていた。

 ここでリョウが「よかったら、一緒にWFOやらない?」と切り出すと、

 総理は「うん! やる!」と、食い気味に即答した。

 その後WFOの操作を一通り教わった総理は、帰りにさっそくショッピングセンターに立ち寄ってゲーム機を購入するのであった。



≪次回予告≫

 家に帰った総理は、カップラーメンにお湯を注いだ後、わずかな待ち時間にWFOのパッケージをビリビリと引きちぎって…………



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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公と友人の軽妙な会話が若者らしさを表現できていると感じました。 オンラインでのバーチャルスポーツを取り巻く設定も面白いので彼らがどのように変化していくか気になるところです。 [気になる…
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