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 差し出された箱は包みに皺がついていて、巻かれているリボンもよれている。たぶん、後で渡そうと見えないように、椅子の背もたれと本人の背中との間に隠していたんだろう。

 既に十分な謝罪を受けているし、王女の父親である陛下からアミュレットを受け取っているし、それ以上贈答品を受け取ってしまっては過分な気がする。

 私が受け取ってよいものか困ってまごついていると、王女は椅子から腰を上げると机の上の紅茶のカップを避けるようにして、私の前にその贈り物を置いた。

 目の前のリーゼは私に断られるまいと思ったのか、私に返されないように少し焦ったように手を引いて席に戻る。



「マリー様が父からアミュレットを贈られたのを今日まで知らなくて、私自身が管理していてマリー様に差し上げるべきだと思った裸石ルースストーンを用意したのです。マリー様に似合うと思った色の石なので、ぜひ、マリー様にと。」



 管理とは、変わった物言いだと思った。

 父親に貰った物だというなら人に譲る時に許可を得るのはわかるけれど、管理という言葉が気にかかる。ただそれも、その後のリーゼの説明で納得した。



「私が管理を任された古代遺物アーティファクトの1つです。」



 古代遺物は発掘されたものはすべて王族が管理している。

 だから、リーゼの管理という言い方への理解ができた。

 公爵家の庭から発掘された古代遺物もすべて接収され、王族の管理下に移った。

 公爵家の庭も穴だらけだったのに、今では綺麗に整備されつつある。



「でも、古代遺物アーティファクトは王族が管理する貴重な物ですよね…?」



 私が受け取るのを尻込みすると、リーゼが身を乗り出してこくりと頷く。



「そうです。けれど謝罪の意味で1つ差し上げたいと父に伝えたところ、許可をいただきました。私が管理しているものはそこまで貴重な物がないので、父も許可をしたのだと思います。このアーティファクトの裸石を好きな台座につけてアクセサリーにしてもらえたらと。」



 リーゼはどうしても受け取って欲しいのか、私がどうにか断ろうとする道を潰していく。

 そこまでされて私は断るのもしのびなくて、リーゼから贈られたそれを受け取ることに決めた。



「ではありがたく受け取らせていただきます。」



 私がそう答えると、リーゼはほっとしたように肩の力を抜いたのがわかった。

 その姿を視界に入れつつ箱を持ち上げると、急に身体の中を得体の知れない何かが通りぬけていくような気持ち悪い感覚が起こった。

 強い圧迫感が、無理やり身体の中を通りすぎようとするような。

 それと共に私の手の内で目に見えて箱が小刻みに震えだす。



「わわっ!」


「マリー様!箱から手をお離しください!」



 身体の気持ち悪さと、目の前の箱の動きの奇っ怪さに、箱を手に狼狽えている私に向かってリーゼが叫ぶ。



 パキンッ。



 そこで何かが破裂するような音がした途端、箱の震えも私の身体の気持ち悪さを無くなった。

 その上、私の身体に纏わりついていた重いものがなくなったような、重い肩凝りが急に消え去ったような謎のすっきり感だけが残った。



「マリー様、大丈夫ですか?」



 謎の感覚に椅子に座ったまま呆けている私にリーゼが駆け寄る。



「大丈夫です……びっくりしましたけど……。」



 わけのわからない事態に頭がうまく回らずとりあえずそう答えて、箱を片手に頭を押さえる。



「失礼します。確認させていただきます。」



 リーゼは私の手から箱を奪うように取るとテーブルに置き、恐る恐る包みを剥がしていく。私もそれを見守る。

 リーゼが包み紙を剥がした箱の蓋を開けると、マリーの髪の色と同じ青銀色の楕円形の裸石ルースが、綺麗に3つほどの破片になり別れていた。

 その姿を見て、リーゼが口元を押さえる。



「そんな……包む時は綺麗な1つの石だったのに………。」



 リーゼはおぞましい物を見るような目をしていた。

 驚きを隠せないといった様子のリーゼと、割れた石。私も驚きのあまり、まじまじと石を凝視する。

 リーゼは石に恐れを抱いているようだけれど、私はそんな気はしなかった。

 手の内で震えている時は、確かに恐れを抱いた。けれど今はむしろ石が私の余計なものを取り去ってくれたような気がして、恐れというより感謝と敬意を抱いていた。

 リーゼはそのまま私の方を向くと、私の肩をがしりと掴む。



「何か身体に不調はございませんか?」



 何故か心配そうに、リーゼが私に確認する。

 質問の意図がわからず目を白黒させながらも、

 むしろ身体が楽になったので、リーゼを安心させるように、その腕に手を添える。



「問題ありません。むしろ身体が楽になった気がします。」


「楽に………?本当ですか?」



 リーゼは私がリーゼを安心させるために嘘をついたとでも思ったのか、慎重に私の身体を上から下まで観察する。勿論、見た目には変わった様子はない。



「石が割れる音がした瞬間、身体にまとわりついていた重苦しい物がなくなった気がしたのです。」



 それを聞いて、リーゼが何か思案するように再び石に視線を落とすと口を開いた。



「アーティファクトの中には、アミュレットのように身体に不思議な作用をもたらす物もあるそうです。アーティファクトは発見された時に研究者により調査がされます。その後、そのような作用をもたらす物は厳重な管理がされ、私のようなこの国の国政に関わる予定のない者の手に渡ることは、通常はありえないのです。」


「つまり、研究員の調査をすりぬけるような作用がこの石にはあり、その石の力が、私の何かを取り去った……と?」



 私の言葉にリーゼがこくりと頷く。



「この石は1度持ち帰り、調査をさせてください。勿論、マリー様のことは表沙汰にせずに調査をして、わかり次第お伝えさせていただきます。」



 こうして、リーゼとのお茶会はお開きになった。

 公爵家に帰宅してから、私はリーゼが持ち込んだ石の効果を理解した。

 リーゼとのお茶会の日から、あんなに美味しいと思っていて、エイダンから注意するように言われていたお茶が、酸味が強くて飲みにくい物に変わった。

 あまりに味が違うのでソフィアに『このお茶は前から飲んでいるものと同じものか』と確認すると、同じものだと不思議そうな顔で言われた。

 リーゼのもたらした石で、何か変化がしていた。


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