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『チャンスの神様には前髪しかない。』

 そういう言葉を聞いたことがある。

 好機は来たときに掴まなければ、躊躇ちゅうちょしていては手遅れになるという格言だ。



 私がマリーとなってしまった以上、生きていくには誰かの助けがほしい。

 マリーの記憶を頼って生きていくにしても、マリーの幼い頃の記憶なんて朧気おぼろげで、特に印象に残ったことしか記憶の中にない。

 この世界のことは、ゲームをした範囲内の知識しかないから、教えてもらう必要がある。

 ソフィアがマリーの違和感に気づいた今、むしろチャンスなのでは?

 それが公爵家に行くまでの、数年間だとしても。




 私は意気込んで椅子から立ち上がると、マリーの目線に合わせるように屈んでいたソフィアの、正面に立った。

 少し見上げる形になったソフィアと目を合わせる。ソフィアは虚を突かれたのか、その場から動かずにただただこちらを見ていた。



「ソフィア……いえ、ソフィアさん。今から言うことは信じられないかもしれないです。でも、黙って聞いて下さい。」


「…っ…………はい。」



 ソフィアは何かいいかけようとしたのか口を開いたけれど、黙って聞いてほしいという言葉に従ったようだ。おとなしく、私の言葉を待っている。



「私は、貴女が知っているマリーではありません。マリ・ニイガキという人間が、このマリーの中でマリーとして生きているんです。」



 そう言って握りこぶしをつくると、自分自身の胸の辺りを軽く叩いた。

 いきなりそんなことを言って信じてもらえるかはわからない。でも、必死だった。



 この世界が、私がいた世界でいうゲームの中であること。私は既に死んだはずで、気づいたらマリーの中にいたこと。マリーが公爵家の人間として第二王子と婚約すること。卒業パーティーで婚約破棄されたあげくに、牢屋に幽閉になりそうになったこと。

 ともかく、今言えるあらゆることを説明した。

 ゲームの中という説明が難しかったので、私の世界にある本の中の、架空の世界のようなものだと説明した。

 まぁ、にわかには信じられないと思う。



「すぐに信じてもらおうとは思わないです。でも、すべて事実です。」



 ソフィアは混乱したようで目を白黒させていた。けれど、こめかみに指をあててめいすると、深く息を吐いた。そしてしばらくして落ち着いたのか、両手を重ねて膝の上に置き、目を開けた。



「急なことで、すぐには信用できません。信用できるまで、聞かなかったことにさせてください。」



 そういって、ソフィアは頭を下げた。



「わかりました。今はそれで十分じゅうぶんです。」




 ソフィアの気持ちはよくわかる。

 わがままを言って困らせていたマリーが、急に自分はマリーではないと言い出しても、意味がわからないだろう。それに、そういって騙しているのではないかと思うかもしれない。

 信用にあたいするまで、時間はかかるかもしれないけれど、本当のことを話せてなんだか楽になって、その場に座り込んでしまった。



 マリーの記憶の中で、ソフィアは真面目で実直。誰にでも秘密をペラペラと話すような人物ではないという印象がある。

 他の人に、私が言ったことを話すことはないだろう。

めいする……目を閉じること

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