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 お茶会が決まったら、準備開始。

 公爵邸には様々な用途の部屋がある。

 公爵と夫人、リアムそして私の各々の寝室。それに加えて各々の私室。客間やドレッシングルーム等々。その中の、お客様をお迎えしてお茶会を開くためだけにある部屋。


 私は準備としてそのお茶会室で、どんなお茶会にするかダニエラに相談しながら考えていた。

 お茶会室は中央に置かれたテーブルにはクロスすらかけられておらず、人の見目を楽しませる調度品らしきものはほとんどない。あるとすれば、天井からつりさがるシャンデリアのみ。

 シャンデリアが豪華なだけに、調度品がほとんどないその簡素な部屋は、人が引っ越した後の部屋ってこんな感じでは?と思えるほどガランとして殺風景に見えた。



「お茶会はどんな会にしたいかが重要よ。例えば事業をしていて売り出したい商品があるなら、それとなくそれに関連した物を身に付けたり、お茶会室の内装として提示したりするの。」



 ダニエラはそう言って、お茶会室の壁のある場所に立つとそこを撫でた。よくよく見ればその部分の壁紙だけ少しだけ色が濃く、上の方に何かをひっかけられるようなフックらしき物がある。



「もしかして、お茶会のたびに内装を変えるんですか?」



 私の気づきに、ダニエラはよくできましたといいたげに微笑んだ。

 壁紙の色が濃いのはそこに絵画がかけられていたから。日が差して壁紙が日焼け色が退色すると、絵画がかけられていた場所はその日を遮るのでもともとの壁紙の色が残る。

 ダニエラが触れたのはその跡だ。そのダニエラの姿を見て、私は思い出した。1周目でマリーがどのようにお茶会をしていたか。



「お茶会のたびにテーマを決めて、そのコンセプトに合わせた内装に変えるの。芸術品のコレクションをしている人は、それをお茶会室に飾ったりするわ。」



 続けてダニエラが説明してくれる。

 私はダニエラに質問しながら、メモをとっていく。まるで仕事を先輩に教わる後輩みたいな状態だけれど、わからないことはよくわかっている先人に聞くのが一番。

 5大公爵家の1つともなると、お茶会をするにもその名前が大きく肩にのし掛かってくる。お茶会を成功させたら、それが開いた本人だけではなく家名にも関わってくるのだ。


 確か、何もないこの部屋を私は、1周目で見た気がする。1周目でマリーは誰も教えてくれないので、お茶会について情報を得るのに苦労していた。マリーはお茶会室だと教えられた部屋に何もないのに気づくと、執事と侍女にこの部屋を飾りたてるように言いつけた。

 本来ならお茶会の主催者であるマリーが、テーマを決めてどのように飾りつけをするか指示するべきだったのにそれをせず、人任せにした。


 この公爵邸でのお茶会室の使い方を教えてもらえず、知らないマリー。執事や侍女は、母である(はず)のダニエラに冷遇されている娘だと認識しただろう。そして適切な指示が出来ず人任せにしたマリーを、能の無い娘だと思ったことだろう。


 マリーがお茶会室を使おうとするたび、もう彼女に聞くことなく執事や侍女は勝手に内装を決めて飾っていたようで、ガランとした状態のお茶会室を見たことは殆どない。

 香りのよいお茶を手に入れて友人に教えようと開いたお茶会で、香りの強い装花をされて侍女を無能だとひどく罵ったこともあった。すべて報告・連絡・相談を怠ったマリーが悪いのに。

 改めて1周目のマリーのことを思い出すと、居たたまれない気持ちになった。


 時折質問しながらふんふんとお茶会の進め方の話を聞いていると、その私の肩にダニエラが手を置く。


「大丈夫。今回は練習だもの。肩の力を抜きなさい。勿論、重要なお客様をお迎えしてお茶会をすることもいつかはあるでしょうけど。」



 肩の力が抜けそうで抜けないことを言われ、急に冷や汗がでてくる。ただ、ダニエラが味方なのは物凄くありがたいと思った。



「さぁ、マリーは、このお茶会でどうしたい?」



 レクチャーを受けた上で、お茶会をどうするか。

 ダニエラの言葉から、私を試しているのだと受け取った。

 招待客はエイダン・キースウッド。彼に御披露目したい物があるわけでなく、コレクションしている物があるわけでもない。思い付くのは、1つ。



「お客様が心地よいと思える空間にしたい……です。」



 それを切っ掛けに私が内装の意見を色々と言うと、



「良いと思うわ。」



 ダニエラが背中を押してくれた。







「ようこそお越しくださいました、エイダン先生。」



 私がスカートの裾を持って軽い礼をすれば、エイダンはその挨拶を笑顔で受け取り、逆にエイダンの方は胸に手を当てて深々と礼をした。



「ご招待いただきありがとうございます。」



 ダニエラとの相談から数日後、予定通りお茶会が開催された。

 これは歴とした授業だ。7歳児が考えたものとして多少甘くはみられているだろうけれど、できる限りのことはした。あとは実行するだけ。ただ、準備していて思った。

 お茶会を開く方が大変だから、たとえ練習でも、開くなんて言うんじゃなかった……。



 お茶会室でエイダンを迎え入れると、エイダンは礼をした後にその内装を見回して笑顔を浮かべた。

 内装として壁に飾ったのは、ある地域の景色を描いた絵画。そして装花は、ある地域でよく栽培されているジャスミン。その中でも香りが強すぎないものを選んだ。その甘い芳香がお茶会室いっぱいに立ち込めていた。


 テーブルクロスは、ジャスミンの花の白が映え、かつ部屋が暗くなりすぎない光沢のある淡灰色。私の髪色に合わせて銀糸で蔦が絡まる草花の刺繍がされたもの。

 私が着るドレスは、春色の薄紫色のものを選んだ。最初はジャスミンと同じ白を着ようかと思ったけれど、私の銀髪に装花のジャスミンと同じ白を合わせると、存在感がぼやけてまるで幽鬼みたいにみえたからだ。


 ダニエラは言った。お茶会では売り出したいものがあるならその売り出したいものを提示する。でも私には特段、主張したいものは存在しない。ならばそれを逆手にとって、招待客の領地の特産品を飾っておもてなししてはどうかと。

 もちろん壁に飾った絵画は、エイダンの家が治めているキースウッド領を描いたものだ。



 私の決めた内装に、エイダンはえらく感嘆しているように見えた。

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