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 阿呆らしい。なんでこんな王子を、マリーは好きなのだろうか。そして、この王子の味方をしているリアムも、阿呆なのだろうか。



 マリーがエマにしたことは、子どもの悪戯程度のこと。それは、マリーを公爵家から切り捨てるほどの愚行に当たるのだろうか?王子にあることないこと吹き込まれて、それを信じている?

 真偽を問わずに切り捨てる、それこそ愚行だ。身分に笠を着て傲慢に振る舞ったのは流石に悪いとは思うけれど。



 マリーは兄と公爵家にすら見捨てられたのに気づいて、うちひしがれている。

 けれど、マリーの中にいる私は、怒りで腹が煮えくり返っていた。できることなら、目の前にいる3人を睨み付けて怒鳴ってやりたいが、できないのが悔しい。



「連れていけ!」



 王子が叫んだ途端、人垣の後方からわらわらと何人もの男たちが現れた。マリーの両腕をがっしりと捕み、両サイドから動けないようにホールドする。マリーを押さえているのは、いつも王子を護衛している騎士だった。

 王子の命令を遂行するため、マリーの身体を後ろに引っ張る。仰け反った途端、リアムと目があった。



「助けて!お兄様!」



 マリーの最後の叫び。マリーは必死に従兄弟であるリアムに手をのばす。

 マリーの言葉に、リアムの表情が強張った。だがそれも一瞬のこと。すぐに冷たい視線に戻り、首を左右に振った。その瞬間、マリーは悟った。もはやリアムに頼るのは無駄だと。



「待ってください。」



 そこで、それまで黙っていたエマが、口を開いた。

 王子の袖を引き、上目使いでその双眸を見つめる。そのまま、何事かを王子に囁いているのが見えた。上目使いで可愛く見つめられて、ニヤニヤしている王子は見るに耐えない。

 本当に、なんでマリーはこんなのがいいんだろう。

 話が終わったのか、王子はそのニヤニヤ顔のままこちらを向いた。



「エマがそなたを憐れんで、最後に言葉を交わしたいらしい。なんて優しいんだろうな。そなたとは大違いだ。」



 一言多い王子の言葉が、更に私をムカムカさせる。王子に背中を押され、騎士に両腕を捕まれたままのマリーに、エマが近づいてくる。

 ゲームで、最後にエマがマリーに言う言葉は、どのルートでも共通だ。



 貴女とはお友だちになりたかった。残念です。さようなら。



 そう言ってほろりと涙を流し、もう二度と会えないであろうマリーに頭を下げる。その言葉をきっかけに、マリーは舞台から姿を消すのだ。



 しかし、エマの口から発せられたのは、まったく別の言葉だった。

 先程までの王子の影に隠れて怯えていた儚い少女のような様子は微塵もなく、蠱惑的な笑みを浮かべる。その姿はあきらかに、悪役令嬢そのもの。



「さようなら。2周目が楽しみよ。」



 途端、腕を後ろに引く力が増す。いや、腕だけではなく、体全体が何かに引っ張られるように後ろに引き付けられているような感覚。



 倒れる!



 足がもつれ、背中から床に倒れそうになった瞬間、意識が途絶えた。

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