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「ところで、こちらの方はどのような方なのか紹介していただけますか?マリー様。」



 私自身は何も聞かずになんとかこの場を収めようとしたのに、ジェイによる不意な問いかけに言葉に詰まってしまった。

 余計なことを!!!と心の中で叫ぶ。

 でもジェイの質問で気づいたことがある。

 私自身はゲームをプレイしているから、その場にいるのが亡命しているはずの第1王子ライアンだとわかっている。

 それを知っていることに気づかれたら、命の危険が及ぶ可能性もあるとわかってある。

 でもライアンの名前を知らないはずなのにそれを聞かないでいるのは、逆に『知らないはずなのに何故聞かないのか』という疑問を持たれかねないわけで…。

 ジェイの疑問はごくごく当たり前の感覚なので、むしろその普通の感覚に助けられたといっていいかもしれない。



「えーっと………そ、そう言えば助けていただいた時、気分が悪くて余裕がなくて、聞いておりませんでしたわ。ごめんなさい。教えていただけるかしら?」



 ここは、敢えて藪をつつく選択をせざるをえなかった。あくまで体調が悪かったことを強調し、うっかりミスであることを印象付けた上で、困ったような笑顔を浮かべて謝罪すれば完璧だ…多分。

 知らない振りをするのも楽じゃない。



「そういえば名乗っていませんでしたね。モリソン辺境伯の長子、デルタ・モリソンと申します。先程は本当にありがとうございました。」



 そう言って、またライアンは深々と腰を折って礼をすると、隙のない笑顔を浮かべた。


 辺境伯とは伯爵よりは地位が上で、侯爵に近い家格のこと。

 マリーの記憶では本来、モリソン辺境伯の長子は騎士団所属となる青年だ。

 ゲーム上ではライアンルートにて、ライアンの護衛を担ってた。

 つまりライアンは今はモリソン辺境伯の後援を受けて、守られて暮らしているのだろう。

 ライアンと本物のデルタは同じ年齢。

 貴族はデビュタントに参加することで貴族の一員として認められるが、逆に貴族が開くお茶会もデビュタント前なので教育が足りないからという理由で辞すことができる。

 そうして本物のデルタを地方にあるモリソン辺境伯の領地から出さなければ、デビュタントに参加していない彼らの顔は知られることがないし、国に出される出生届けにはモリソン辺境伯の息子としてデルタの名前があるので、うまい隠れ蓑となる仕掛けだ。


 実際にデビュタントでジェイや私が『本物のデルタ』と出会い、目の前の少年がデルタと別人とわかったとしても、モリソン辺境伯側としたら『我が家の名を語った不届き者と会ったのでしょう』ととぼけることができる。


 ライアンが国にいるのは、もしかしたら第1王子として国に戻り王位を継ぐための足掛かりをつけようとしているのかもしれないと思った。


 ライアンルートでは第1王子を推す古参貴族派と第2王子を推す教皇派の争いがおきる。

 この国では教皇が王に次ぐ地位を持っている。

 国を治めるのは第1子である第1王子であるべきだと訴える古参貴族派。

 国を治めるのはこの国出身である王妃から産まれた第2王子であるべきだと訴える教皇派。

 第2妃は隣国出身で、アンテレードとは信仰されている神様が違うことも起因していた。

 教皇派は肩身の狭い思いをしている新興貴族や信仰心の厚い貴族が大半。


 ただ古参貴族だろうが新興貴族だろうが、どちらにつこうか様子見をしている貴族も多い。

 新興貴族であるエマがライアンと結ばれることで、様子見の立場だった古参貴族と新興貴族が協力するきっかけになり、派閥が強化されてライアンが王位を継ぐことになる。


 それにしたって、隣国に亡命していたはずのライアンが急に現れたところで、古参貴族側も何らかの思惑がないと突然出てきた彼を推すわけがない。

 わかりやすく言うなら、学校に転入してきた転校生が生徒会長に立候補したところで、あとから来た彼を在校生が推してくれるかといったら、そうじゃない。もとからいた強力な候補より推すべき魅力がないと選挙で投票なんてしないということ。

 ライアンは幼い頃から古参貴族と少しづつ友誼を深めて、自分を推してくれるように立ち回っているのかもしれない。



 ちなみにライアンルートでマリーはもちろんライアンの婚約者となっている。

 そのルートでライアンとエマが仲を深めるのに嫉妬して影で教皇派と繋がりを持ち、教皇派をけしかけてエマを襲わせようとし、それがバレて失脚する。

 今の私はアクセルルートを通って失脚したマリーの記憶しかないので、ライアンルートのマリーがどうやって教皇派と繋がりを持ったのかわからない。



「デルタ様ね。デビュタントでまた会うかもしれないわ。その時はよろしくね。」



 当たり障りのない感じで慕わしい笑顔を向けると、ジェイもそれに続いてデルタに深々と頭を下げた。



「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。ノリス男爵家の三男、ジェイ・ノリスと申します。よろしくお願いいたします。」


「ええ、よろしくお願いいたします。」



 ライアンがジェイと私両者に笑顔を向ける。

 なんとかライアンが王子とバレず、また私が知っていることもバレずに話が終わったと正直ほっとした。

少しみじかくてすみません。


マリーの台詞を修正しました。


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