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 外出が決まってからは、あっという間だった。

 朝食の後に部屋に戻ると、ソフィアによって編み込まれていた髪に赤い小花がいくつも連なったような髪飾りがつけられ、外出の為に着せられた赤いドレスは、赤い小花の刺繍がほどこされている。

 青銀髪の髪に赤が映えて、自分で言うのもなんだが、よく似合っていると思った。



 玄関ホールに向かうと、リアムが既に腕組みをして待っていた。

 青銀色のベストの上に濃紺のコートを着用し、下には黒いズボン。コートの胸ポケットからは私の着ているドレスと同系色の赤いハンカチーフが見えている。

 リアムの格好は、私と並ぶのに合わせて用意されているように見えた。

 よくも短時間で、揃えたものだと思う。



 ただなぜだろう。

 リアムの格好に既視感があり、私は何度となく目をこすってリアムを見返した。

 階段の上から見下ろす私に気づくと、リアムはただ黙って私を見上げる。

 見つめ合い、謎のが数十秒。

 リアムの後ろに立っていた青年が大きく咳払いするのが 聞こえて、私は慌てて転ばないように気を付けながら階段を降りた。



「お待たせしました、リアムお兄様。」


「いや、別に待っていない。今来たところだ。」



 まるでゲーム内での、デートの待ち合わせ時にでる台詞みたいだと思った。

 リアルでそんな台詞を聞いたことがなかったので、感動すら覚える。

 そんなリアムの背後におり、先ほど咳払いした青年が、私と目が合うと胸に手を当てて深々と礼をした。



「お初にお目にかかります、マリー様。リアム様の従者をしているジェイ・ノリスと申します。長いお付き合いとなります。よろしくお願いします。」



 無表情のリアムとうってかわって愛嬌のある笑顔を浮かべる青年、ジェイ・ノリスはノリス男爵家の三男。リアムと同じ年齢で、リアムが幼少の頃から従者として付いていると攻略本のキャラクター説明に書いてあった。ちなみに攻略キャラではないモブである。



「はじめまして。よろしくね。」



 私が笑顔で返すと、ジェイは改めて深々と礼をした。



「立ち話していたら日が暮れる。行くぞ。」



 リアムは1人放置されて気に入らなかったのか、私とジェイの間にはいると2人の会話を止めた。珍しくわかりやすく、不満そうに口を尖らせている。

 こんな表情、マリーの記憶で見たことがない。

 リアムはマリーの2つ上で、今なら9歳のはず。年相応の子どもらしい態度を見せられて、思わず可愛いと思ってしまった。


 落ち着け、私。相手は1周目で、ぼろ雑巾のごとくマリーを切り捨てたリアムだ。落ち着け、私。


 何度も唱えて自分を落ち着かせる。




「ええ、行きましょう。エスコート、よろしくお願いします、お兄様。」



 私が手を差し出すと、リアムは少し機嫌が直ったのか、表情が無表情に戻った。無表情の状態が機嫌が良いというのもおかしな話だけど。

 私の手を取り、リアムは自分の腕に回させる。

 ジェイはそんなリアムの様子を、まるでリアムの保護者かのごとく慈愛の目で見つめていた。

 そんなジェイの視界の内側にリアムと共に入り、恥ずかしくなったのでちょっと止めて欲しい。



 リアムにエスコートされながら玄関の外に出ると、馬車が入口付近に横付けされていた。



「ジェイ、ちょっと席をはずしてくれ。」


「わかりました。」



 リアムの言葉に了承の意を返すと、ジェイは馬車外、御者の隣に乗る。

 そのままリアムの腕から手を離されると、手を引かれエスコートされるままに馬車に乗り込んだ。

 馬車の中は、リアムと私の2人きりだ。



 そのまま少しの揺れと共に馬のいななく声が聞こえ、馬車が動き出した。

 本来なら従者であるジェイも同乗したのであろう馬車に2人きりにされ、何を話せばいいのかわからず無言になる。先ほどの階上と階下で繰り広げられたような、妙な間が数十秒続く。



 やっぱり、ジェイに同乗してもらった方がよかったんじゃないだろうか。



 場が持たず私が窓の外に視線をやると、リアムが深く息を吐き出した後に、意を決したようにようやっと口を開いた。



「マリー、お前は父上と母上が怖いか?」



 あまりに急な質問に、私はなんて返して良いかわからず、リアムを凝視した。

 正直に言えば、怖い。

 下手をしたら、切り捨てられて公爵家から追い出されてしまうような恐怖がある。これは、1周目でのトラウマもあると思う。

  勿論、原因はマリー自身にあるのだけれど、わがまま放題させておいて放置し、結果的に切り捨てたのだ。

 何をしたら受け入れられるのか、気にしてビクビクするのも仕方ないと思う。

 でもそんなこと、会ってまだ数日の信用できない人間に言えるわけがない。



 沈黙は肯定ともなりえる。

 つい黙ってしまったが、慌てて否定しようと口を開いたところで、リアムに制された。



「初めての挨拶の時、笑顔ではあったが硬く見えた。かなり緊張していただろう。」



 正しく言い当てられ否定できず口ごもると、リアムは更に続けた。



「朝食の時もそうだ。教えられたマナーを丁寧にしようとしたんだろう。肩があがって硬くなっているのが、隣に座っていて目に見えてわかった。」



 その結果、私はナイフを床に落とした。

 細かく見られていたことを知って、背中に冷たい汗が流れていくのを感じる。

 ただリアムが何を言いたいのかわからなくて、私は困惑した。


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