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 夢見が悪かったからか、昨日は早めに寝たというのに体が重だるい気がする。

 昨日は来たばかりで部屋で過ごさせてもらったけれど、今から公爵家の一員として家族と過ごす初めての食事ちょうしょくをするので、気合いをいれないといけないのにだるさのせいか気が重い。

 鏡台の前に座り、ソフィアに髪を編み込んでもらいながらも深くため息をつくと、鏡越しに、ソフィアの後ろで佇んでいた侍女達がなぜかそわそわと私の方を見ているのがわかった。



「私がどうかしたかしら?」



 気になって仕方がないので問いかけると、一人の侍女が代表して、私におずおずと声をかけてきた。



「どこかお身体の具合でも悪いかと思いまして。」



 一人が声をかけると、それに続くように次々と侍女が声をかけてくる。



「何かありましたら申し付けください。すぐに医師を呼びます!」


「無理は禁物です!」



 何人もの侍女からの身体を気遣う声に目を丸くした。状況が理解できない。そこまで私の顔色が悪かったのだろうか。



「大丈夫よ。ありがとう。」



 とりあえず場を納めるために笑顔を浮かべると、侍女達は安心したのかほっとしたように笑みを浮かべ、元の立ち位置に戻った。

 なぜそこまで体調を気にするんだろうか。

 身支度が終わり、ソフィアを残して人払いすると、どういうことなのか確認した。



「マリー様は産まれた時に体調が優れなかった為、高名な医師を雇い避暑地にある別荘にて、乳母と共に過ごされていた……ということになっているようです。」


「なるほどね……。」



 侍女達が異様に私の体調を気遣うわけだ。

 ただ、疑問は残る。



「そんな設定にしたとしても、昔からいる侍女は私が公爵夫人から産まれていないことくらいわかるでしょう?それに、公爵家で過ごしていたはずの公爵の妹(マリーの母)が、結婚もしていないのにお腹を大きくして急にいなくなったら、わかるはず。私生児って噂がなんで回らなかったのかしら。」



 たとえ使用人の噂だとしても、それを舐めてはいけない。他家をクビになって別の家に雇われたり、短期で働いて辞めていく人もいないわけではない。他家の使用人同士で繋がりがあり、いくら口止めしたとして、そこから噂が広まることもある。後は……………。


 ちらりとソフィアに視線をやると、ソフィアが首をかしげた。それに何でもないというように首を振って応える。


 ソフィアのように、他家の内情を探る為に雇われるスパイのような存在もいないわけではないだろう。となると………。



「ねぇ、ソフィア。私の侍女としてつけられた子達は、公爵家でどれくらいの間働いているか、聞いている?」



 これは私の中で浮かんだことの答え合わせだ。私の質問に、ソフィアは少し思案してから答えた。



「確か、1番長い子で5年だったかと。」



 その答えは、私の考えを後押しした。



「ここの使用人は、ほとんど総入れ替えされているのかもね。私が私生児であることを隠すために。」



 侍女頭であるジーナは、私を隠れ家に迎えに来たくらいだから、私生児であることをもちろん知っている。家令のエドワードも、使用人を統括する立場だから知っているだろう。


 まず、家の中を回すために、口が堅くてある程度重要な立場の人間は使用人として残す。

 そして、お腹が大きくなりかけた時点でマリーの母親をやまいという理由で隠れ家に移す。

 その時点から公爵家の使用人を少しづつ雇い替えていき、マリーの母親の存在を知らない使用人を増やしていく。

 すべて使用人を入れ替えたら、ソフィアがいった通りの『身体が弱いので避暑地で過ごしていたマリー』が出来上がるのだ。



「私の母親のお腹が大きくなるにつれて、公爵夫人のお腹を大きくしていって子どもがいるように見せたら完璧でしょうね。」



 公爵家の汚点を作らないためには、それくらいするだろう。

 ただソフィアの話が本当ならば、公爵家の為にならないなら、公爵夫人は私の存在を消す可能性はあった。ということは。



「ソフィアは私のことを夫人に伝えるために雇われていたでしょう?公爵家にそのまま雇われるか、もしくは仕事を辞めるかを聞かれたりした?」



 私がふと思い付いた疑問を問うと、



「はい、公爵夫人に聞かれてそのまま働くと伝えました。」



 ソフィアは、私にそう答えた。

 その答えから恐ろしい考えが頭に浮かんでゾッとした。

 私の想像でしかないけれど、雇い替えの経緯が正しいなら、私が私生児であることは公爵家の為にならないし、必ず隠したい汚点だ。

 ならばそれを知っているソフィアとグレッタが、1周目のように仕事を辞めたいと言っていたらどうなるだろう。

 答えは火を見るよりも明らか。

 恐らくその存在は……消されていただろう。



 つまり、私の隠れ家での行動は私自身を守っただけでなくて、ソフィアとグレッタの命すら守ったことになる。



 かなり危ない橋を渡っていたことに気づいて、背筋が寒くなり、えずきそうになった口許を押さえた。

 そんな世界で私は、生きていかないといけないのだ。

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