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窓の外は輝くような晴天。
この天気が、私の公爵家での生活を示していて欲しいと切に願う。
ドレスよし、髪型よし。
私は姿見に自分の姿を写すと、胸に手を当てて深呼吸して自分を落ち着けた。
今日は、私が公爵家に行く日だ。
私が向かうのは貴族の館。それもただの貴族ではなく、5大公爵家の1つであるオーランド。まるで魑魅魍魎がはびこる場所に行くような気分になり、落ち着いてなどいられる訳がない。
姿見の前でくるんとターンをすると、全身をくまなく確かめた。これから会う相手に一部の隙も見せたくはない。
ルーシーの新しいドレスは、濃いグリーン。落ち着いた雰囲気にしたくて、色選びの時は悩んだ。髪の色が青銀だから合う色に困るのだけれど、ルーシーが私にピタッと合う色を選んでくれた。
スカートの裾に同色レースのフリルがついていて、私がターンするとフワッと広がり、気分が上がる。
後は公爵家の迎えの馬車を待つだけ。頬に指を当てて笑顔の練習の為に、ニィッと口角をあげると、寝室のドアがノックされた。ソフィアが顔を出して告げる。
「マリー様、公爵家のお迎えが参りました。」
「わかった。今行くわ。先に行っていて。」
ソフィアの言葉に表情を引き締めると共に、自分の両手を握りしめる。私は覚悟を決め、もう一度深く息を吸った。
階下に降りて玄関まで来ると、そこには黒いコートを着た、壮齢からやや老齢に差し掛かった頃合いと思われる女性が待っていた。
私の存在に気づくと、前で両手を揃えて深く礼をされたので、私もドレスの裾を持ち上げて礼を返す。目の前にいる女性に見覚えがある。公爵家の侍女頭。行儀作法にうるさくて、マリーが苦手としていた人物だ。そのせいかなんとなく緊張してしまい、無理に口角をあげた。
「マリーといいますわ。」
「はじめまして。私は公爵家で侍女頭をしているジーナと申します。マリー様をお迎えにあがりました。どうぞ、よろしくお願いします。」
「侍女頭が迎えに来てくださるなんて思わなかったわ。どうぞ、よろしくね。」
私の言葉に、ジーナは鳶色の瞳を細め、表情を緩めた。まずは及第点といったところか。
マリーの記憶によれば、1周目で迎えに来たのは御者の男と侍女で、侍女頭なんてたいそうな階級の人間をよこすことなんてなかった。明らかに、私の行動で1周目とは違う未来に変わっている。侍女頭を遣わすことで、私のことを見極めようとでもいうのだろう。
「では、参りましょうか。」
ジーナの誘導で玄関を出ると、今日ばかりは紋章のついた馬車が横付けにされていた。御者の差し出す手に自分の手を添え、スカートの裾を摘まんで馬車に乗り込んだ。ソフィアとグレッタは、後で公爵家に向かうらしい。
私が進行方向に向く側に座り、その向かいにジーナが座る。そのまま馬車は、少しの揺れと共に走り出した。目の前にジーナがいるので、私はまるで圧迫面接を受けているような気分だった。
けれど、ジーナが何を言うでもなく黙っているので、私は過剰に気にしすぎだったのかと、安堵したその時だった。
馬車がいつしか見覚えのあるオーク街にさしかかったので、つい視線を外に向ければ、ピシャリとジーナが言った。
「マリー様、外の景色を物珍しそうに見るなんて、田舎者のような真似はいけませんよ。庶民とマリー様の身分は違うのです。」
どこか圧のある笑顔のジーナ。その言葉で、なぜマリーが、オーク街の景色に記憶がないのかわかった。私が外にあまり出たことがないのを、ジーナはわかって言っているのだ。
なんだか物凄く腹が立ってきた。本当は黙って従うべきなのだろうけれど、それはそれで癪にさわる。
ジーナの言葉に反して、私はあえて、外の景色に視線をやった。
「庶民の気持ちを知ることも、大事じゃないかしら。だって、お父様は貴族院の一員だもの。国の政治の一助となるために、庶民の目線を知ることは、少なからずお父様の助けになるのではないかしら。」
要するに、ただの屁理屈だ。外を見るだけなのにいちいち制約なんてされたくはない。
貴族院は、王と共に国の統治を論じる議会のことだ。貴族の中でも上位の者が選ばれており、オーランド公爵がその一員なことは、マリーの記憶を通じて知っていた。
私がそう返すと、まさか反論が返ってくるとは思わなかったのか、ジーナは片眉をあげて目を見開いた。
「身分が高い者は相応した重い責任と義務があるの。その身分にある以上、その身分に恥じない生き方をする為には、社会を知るべきよ。ただその身分に溺れて、高慢に振る舞うような生き方をするなんて、ごめんだわ。」
お高く止まって、偉そうにしているだけの人間にはなりたくない。その最たる人間である1周目のマリーが頭に浮かぶ。私はマリーのような生き方はしたくないのだ。




