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ソフィアは、空気を変えるようにシャンと背筋を伸ばし、真っ直ぐな眼で私を見つめ、私には顔をあげろといいながらも、一方で、私に向かって頭を下げた。そのまま述べる。
「守る為なんて、そんな口触りのいいことを盾にしたところで、あなたのことを報告していたこと、試していたこと、黙っていたのは事実です。申し訳ありませんでした。」
ソフィアの言葉尻が震えている。私は、事実確認が出来ただけで、満足してしまったし、これ以上、ソフィアに言うことはない。謝ってもらいたかったわけじゃない。事実を知りたかっただけだ。
「教えてくれて、ありがとう。事実が知れたから、それでいいの。」
ただ私がそれだけを言うと、ソフィアはまだ気がすまないようで、顔をあげ、私の手を離したかと思えば、私の両上腕をサイドからがっと掴み、詰め寄ってきた。ビックリして目を丸くすると、ソフィアは、声を張った。
「私のことを怒ってはいないんですか?!」
「怒ってない。」
即答すると、ソフィアは勢いに水をさされたようで、ポカンと口を開けた。その様がなんだか間が抜けていて、クスクスと笑ってしまった。
「だって、私は最初から、教えてとしか言ってないでしょう?そして、ソフィアは、聞いたことを教えてくれた。だから、満足なの。」
私の答えに、まだソフィアは納得しかねると言いたげな顔を滲ませていた。仕方なく、私は続けた。
「紅茶が冷めちゃったから、淹れ直してくれる?それで、チャラにするわ。」
頬に手を当ててフフと微笑めば、ソフィアは、困ったような顔で微笑み、立ち上がった。
「美味しいお茶を、淹れてまいります。」
ソフィアがトレイに冷めたお茶の入ったカップをのせて出ていくのを、私は笑顔で見送った。
ソフィアが部屋を出ていった後、床に何かが落ちているのに気がついた。
それは細長いトランプのようなサイズのカードで、青色のカードに、銀地で流水紋のような絵柄が書かれていた。
カード自体は青色だけど、銀地の模様の一部は、部屋のランプの灯りにかざせば、赤にも紫にも見えるラメのような素材が使われていた。
そのカードの裏は銀一色。
物凄く綺麗で、光にかざすたびに浮かび上がるラメ模様に、目を奪われた。
ソフィアの物だろうか。
さっきソフィアが来るまでは、そんなものは部屋にはなかった。ソフィアの服のポケットにでも入っていたものかもしれない。
何度も光にかざし、夢中になってキラキラ輝くカードを見ていたら、ドアをノックされ、つい長机の引き出しの中にカードを押し込んでしまった。
「はぁい!」
慌ててノックに返事すれば、グレッタとソフィアが部屋の中に入ってきた。
「お食事もお茶と一緒にお持ちしましたよ。」
「あ、ありがとう!」
そのまま、長机に置いていた課題を片付けられ、食事を長机に準備されていき、ソフィアにカードのことを話すのを忘れてしまった。
その日からあっという間に年月が過ぎ去り、隠れ家から公爵家へと引き取られる、一週間前になった。




