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 エマとしてゲームをプレイしていたときと、マリーとして存在している今。当時と今では、立場が違う。マリーとして物事を考えてみると、ゲーム内のエマの行動について見方も変わってくる。



 今はマリーの記憶も、自分の記憶のように引き出すことができる。

 高飛車な態度と言うが、マリーは無礼な振る舞いをしたエマを注意しただけだ。




 ゲームの攻略キャラクター達は、全員、高位の貴族。ルックスも家柄も一級品。どの貴族も、懇意になりたいと願うが、引け目を感じてお近づきになれない。それに我関せず、堂々と交流を深めようとしたのが、主人公のエマだ。

 ただ問題は、エマが新興貴族であったことだ。



 新興貴族とは、没落した貴族の地位を金で買った貴族のことだ。

 平民の富豪が、領地の経営に破綻して貧乏になった貴族の爵位を買い、王にその領地の統治の許可を得る。そうして地位を得た者を、新興貴族という。

 血族ではない平民が爵位を得ることを、古参の貴族はよく思っていない上、貴族界で新興貴族の地位は低い。



 貴族の世界には明確な序列が存在する。序列が下のものは、上のものから声をかけてもらわなければ、声をかけてもいけないという慣習ルールがある。


 そんな立場のエマがした行為は、大企業の社長に対して新入社員がくだけた口調で話しかけたようなもの。


 立場を重んじず、下位の貴族でありながら高位の貴族と、前例を取っ払って自分から声をかけて交流を深めた。

 それを無礼だと注意したのだが、高飛車だと言われてしまっては、貴族の立つ瀬がない。



 百歩譲って、エマが祖母から贈られたものを壊したのは、確かにマリーが悪い。嫌がらせをしたのも悪いのはマリーだ。



 ただ、アクセルの最後の言葉はいただけない。




『お前が苛めたエマは、私と結婚すれば王族の一員。つまり、王族を傷つけたのと同義だ。』



 それを言うなら、アクセルと婚約していたマリーも王族の一員ということになる。

 結婚すれば王族の一員となる上、アクセルとマリーは既に婚約の誓約書も交わし、誓約書に王の捺印もある。それはたとえ王子であっても、よほどの理由がない限りそう簡単に破棄はできない。

 マリーの方がよほど王族に近いといえる。



 その婚約相手であるマリーを差し置いて、アクセルとイチャイチャと甘い2人の世界を作る姿を見せられる。愛する婚約者が他の女に現を抜かす。それは大いにマリーを傷つけた。



 マリーは素直じゃないので、気持ちをうまく表現できない。ついアクセルに対して、まるで気がないようにしか見えない態度をとっていることに気づいていない。ついつい憎まれ口を叩いてしまう。そしてつい肩肘をはってしまう。



「王子がどなたに懸想しようとかまいません。けれど、婚約の誓約をしている以上、王子の身勝手で婚約を破棄することはできませんわ。どうするおつもりですの?」



 かまいませんじゃない!なぜ素直にならないの!



 いくら叫んでも、マリーに届かない。



 マリーはそこが勝機だとばかりにアクセルに畳み掛ける。その言葉の奥底に、アクセルへの切なる思いを押し込んで。


 マリーの言葉に、アクセルは何らかの勝算があるとでもいうのか、意味深に笑みを浮かべた。

 途端、背筋がゾワリと粟立ち、ツ……と汗が背筋を伝う。第六感というやつだろうか。嫌な予感が身体を満たし、込み上げてくる何かをなんとか飲み込んだ。




「誓約書に不備がなければ、その通りであろう。だが、その誓約書に、偽りがあればどうなる?」




 その偽りに当たる部分に思い当たる節があり、マリーは息をつめた。心臓がドクドクと早鐘をうつ。

マリーVRはもう少し続きます。

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