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 質問が予想外だったのかソフィアは目を見開き、微笑んでいた顔を一変させ強張らせると、その後、目を伏せた。ソフィアは固く口を閉じ、押し黙るを選択したようだった。ただ、黙っていられても話は進まない。私はそのまま、畳み掛けた。



「エイダン先生が言ってた。公爵が、私のことを話してたって。会ったこともない人が、何故、私のことを話せるんでしょうね。」



 独り言にも似た問いかけ。それにソフィアは身動ぎもせず、目を伏せたままだ。



「マダム・ルーシーは、言ってたわよね。普通は、貴族は仕立て屋を家に呼ぶものなんでしょう?私がわざわざ、マダム・ルーシーの家に行ったのは何故?馬車を用意せずに乗り合い馬車を使用させて、徒歩で行かせたのも、意図があったんじゃないの?」



 私がわがまま娘だったマリーから、大人しく言うことを聞くマリーに変わった。それはあまりに突然のことで、ソフィアから話を聞いていても、公爵は信じられなかったんじゃないだろうか。だから、試したんじゃないかと思った。



「馬車は、家紋がついてるものだけじゃない。公爵家なら、普通の馬車くらい呼べるでしょう。それをあえて呼ばずに歩かせ、私を怒らせる。仕事で立て込んでるルーシーに無理に会う約束をとりつければ、自然とルーシーの態度は悪くなる。私が前のマリーなら、怒る可能性は断然、高い。」



 ソフィアは、私が一言話すたび、体をギュッと縮めるように硬くしていく。ソフィアに言ったことは、全部、私の想像でしかない。それでも黙ったままでいるのは、私の言葉の、肯定を意味しているようにも見える。



「人間は、怒ったときに、一番、素がでるって聞いたことがある。だから、ボロを出させるために、怒らせようとしたんじゃない?」



 頑なに、何も話そうとしないソフィアに、私は焦れた。ソフィアも、黙ったまま逃げることなんて、出来るはずがないのに。

 唇をかたく結ぶ姿に、私は困ったような笑みを浮かべた。



「ソフィアは、私が前のマリーのままの方がよかった?」


「っ……違います!!」



 やっと、ソフィアの口を開いたことに、私は安堵した。ソフィアはルーシーの家から戻った後、私が新垣真理ではなく、一周目のマリーに戻ってしまったのではないかと挙動不審になるくらいだ。

 私が一周目ではなく、新垣真理であることを求めている人だとわかっているし、そうであって欲しかった。

 私は椅子から立ち上がると、ソフィアが膝の前で硬く握りしめていた手を掴み、上からそっと握った。触れた瞬間に、ソフィアの身体がビクッと揺れた。けれど、私がそうっと手を添えて見上げたまま待てば、その硬く閉じられていた掌が開いていった。



「ソフィア、教えて。公爵は、私のことを、調べていたの?」



 私の質問にやっと観念したのだろう。ソフィアは、そっと体を屈めて目線が私の高さになるようすると、私の手を握り返すように持ち変え、口を開いた。



「 マリー様のことを調べていたのは、オーランド公爵様ではありません。オーランド公爵夫人です。」


「え?!公爵夫人!?」



 あまりに驚きすぎて、大きな声をだしてしまった。前提として公爵の方だと思っていたのが、違ったからだ。

 まぁ、道理としては合っている。公爵夫人は、私を母親として受け入れるから、どんな娘か調べていた…というのが、理由だろうか。

 ソフィアは、堰をきったようにそのまま続けた。



「公爵夫人は、マリー様が公爵家に引き取られることになった日から、私に手紙で様子を逐一報告するようお命じになりました。私は月に一回、マリー様の様子を報告していました。」



 ソフィアの話で、マリーが一周目の時、公爵家に引き取られた後の記憶を思い返してみた。

 たしか、公爵夫人…お母様は、マリーのことをあまり相手にしていなかったような気がした。本当の母親が亡くなり、新しい母親に愛情を与えてもらえるのを期待していたけれど、思っていたものは与えられていなかった。

 今思えば、公爵夫人が一周目の時からマリーのことを調べていたと仮定するなら、その結果なのでは?とも言える。

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