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 グレッタは、私の髪を結い終えると立ち上がった。ゆっくりと腰に手を当てながら立ち上がる様は、流石に年齢を感じる。鏡越しにその姿を見ていると、こちらを見やったグレッタと目が合い、微笑まれた。暖かい笑顔に、胸がほっとする。



「朝食を準備しますので、お待ちいただけますか?」


「ええ。髪、ありがとう。」



 セットしてもらった髪を乱さない程度に頭に触れ、お礼を伝えると、グレッタは、頬に手を触れてフフと頬を綻ばせた。


 中身が私ではなく、あのマリーのままだったら、こんな関係にはなりえていなかった。

 視線をグレッタから、鏡に映ったマリーに移すと、前世の私の姿からはかけ離れた、美しい容姿の女の子がそこにいた。

 この姿になってまだ、一年にも満たっていない。日が経つにつれ、違和感が輪郭をもってそこにあった。その違和感に、問いかけられているような、幻聴が聞こえてくる気がする。鏡に向かうたび、浮かぶ言葉。



 本物のマリーは、どこにいった?



 新垣真理わたしは、死んだ。死んで、マリーの中にいて、マリーとして生きている。ならば、もともといたはずのマリーはどこへ消えた?むしろ、新垣真理なんて人物は、本当にいたのだろうか。

 鏡をみるたびに、鏡に写る自分の姿に、自分の存在を否定される。

 雨はまだ、しとしとと、降り続けて、止みそうにない。




 もやもやした気分を払いたくて、少しでも別のことに集中しようと、朝食後、勉強部屋で机に向かった。

 夕方になり、階下でバタバタと物音が聞こえた。もしかしたらソフィアが帰ってきたのかもしれないと、家庭教師から学んだ内容の、書き取りをしていた手を止めた。

 気になって耳を階下にそばだてていると、しばらくして階段をあがる音がした。そのまま、カラカラとカートを押す音にそれが変わり、ドアをノックされて、ビクッと身体が跳ねた。



「どうぞ。」



 声が震えそうになるのを押さえつけ、平穏を装おう。



「失礼いたします。」



 ドアをあけ、カートにお茶をのせたソフィアが入ってくるのを見て、妙に緊張した。

 いざ公爵とのことを聞こうとしても、どう問いただせばいいのか。



「お茶をお持ちしました。」



 ソフィアは、私が先生からの課題を脇に寄せたのを見ると、私の前に紅茶のカップを置いた。湯気がふわりと立ち、良い匂い。

 私がソフィアに、一度好きだといってから、用意してくれるようになった紅茶の香りだ。

 ソフィアの髪の毛は、外にいたからなのかほんのり湿り毛をおびて、くるんと跳ねていた。



「風邪引くわよ、ちゃんと、拭かないと……。」


「申し訳ありません。拭いてはいたのですが。マリー様が、私に用があると伺っておりましたので。少々、急ぎすぎたようです。」



 そういって頬に手を当てて困ったように笑う姿は、グレッタそっくりだった。


 わたしにとって、グレッタが母なら、ソフィアは姉のような存在だ。

 そんなソフィアは、公爵と繋がっている。

 ソフィアに対して、裏切られて辛いとか、そんな思いがあるわけじゃない。もともとソフィアと公爵の関係はあったのに、その間に私が入っただけなのだ。それを、突きつけられて、過信しすぎていた私自身に気づいただけ。

 その気持ちの持っていきどころがなくて、もやもやしているのを、払いたいだけなのだ。

 後は、単純な疑問を解決したい気持ちもそこにあった。



「ねぇ、ソフィア。聞きたいことがあるの。」


「はい、何でしょうか?」



 わたしの言葉に耳を傾けるソフィアに、問いかけた。オーランド公爵と、ソフィアは繋がっている。なら、聞きたいのは二人の関係じゃない。もっと、疑問としてもっていたこと。



「ソフィアは、オーランド公爵に私のことを話していたわよね。オーランド公爵は、私のこと、試していた?どんな人間か、人間性を調べるために。」

余談ですが、マリーの部屋は二階にあるので、ソフィアとグレッタは、荷物を手で運んだ後に、二階にあるカートにのせかえています。

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