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 その時、ぶわっと音がしそうなほどの一陣の風が吹いて、カーテンも、私の髪も吹き上げた。

 バタバタバタと音がして、カーテンがはためく。共に私の銀の髪も風に揺れる。その姿を、どこか遠くを見るような眼差しで、ソフィアが見ていた。



「ソフィア……?」



 何かに思いを馳せている様子に、小首をかしげて声をかければ、ソフィアははっと気づくと、やっと私に意識を戻した。私の手を持つ手に力が入り、そっとその手を離される。



「どうかした?」


「申し訳ありません。マリー様のお母様のことを思い出していました。」



 私が問いかけると、そう返事して、顔にかかる少し長い前髪を払うように、後ろになでつけた。ふ、と浮かぶ笑み。



「そっくりです。」



 ソフィアの言葉に、私は返事に困って、頬を掻いた。マリーの母親の記憶は、遠い思い出となりつつある。ソフィアほど、私自身には思い入れが無いので、なんとも言い難い。困ったあげく、場をごまかすように、髪の束を指先で遊ばせていると、その髪をすくいあげられた。



「少しお邪魔そうですから、髪を結いましょうか。」


「うん、お願い。」



 ソフィアの助け船に、ここぞとばかりに頷くと、ローテーブルの横に置かれた1人がけのソファーに座った。私がローテーブルからハーブティーの入ったカップを持ち上げると、私の後ろに立ったソフィアに、後ろに少し引かれる形で、髪を持ち上げられたような感覚があった。



 そういえば、マリーの母親は、髪の毛の色が黒みがかった茶色だったな。



 ソフィアからもたらされた話題から、ふと、マリーの母親に思いを馳せた。

 後に自分の父親となるオーランド家の現当主は、髪はほぼ黒。その息子であるリアムも、その血を受け継いだのか髪は黒だ。後の母親となる現当主の妻は、髪は明るめの茶色だった。

 その家族から突然、青銀髪の娘が産まれるとは思えないけど、いいんだろうか。

 まれに、その髪色の人が産まれる世界だとはいえ、ものすごく違和感だと思う。



 そういえば、マリーの父親の髪色って何色なんだろう。ソフィアは知ってるだろうか。



「ねぇ、ソフィア。私の父親って、髪の色は何色?」


「オーランド公爵でしたら、黒になります。」


「違う、そっちじゃなくて。ほ・ん・と・う・の父親の方。」



『本当の』を強調して聞くと、ソフィアが少し口ごもった後、答えた。



「申し訳ありませんが、存じ上げません。」



 私の背後から心底、申し訳なさそうな声がするので、手をソフィアに見えるように横に振った。

 オーランド公爵に雇われてここにいるのなら、マリーの父親を知らないのは無理もない。



「いいの、いいの。ごめんね、変なこと聞いて。ちょっと気になっただけ。」


「いえ、大丈夫です。」



 そのままソフィアは無言になった。もくもくと髪を結ってくれているようだ。髪を結い終わった後、ソフィアは少し席を外して、2つの大きな手鏡を持ってきた。1つは私が持ち、もう1つは髪の後ろを見せるようにソフィアが持った。

 青銀髪を綺麗に編み込みして、ハーフアップにした姿は、ゲームの説明書に載っていたマリー・オーランドの髪型にそっくりだった。

 よく見知った姿に、ちょっとばかり苦笑いしてしまった。でも、似合っているのも確かだった。



「ありがとう、ソフィア。」



 お礼を言って、鏡の位置を少しずらして、鏡ごしにソフィアの姿を見て微笑む。ソフィアも同様に微笑み返してくれる。



「あ、そうだ。私の父親のことは知らないみたいだけど、私の髪色と同じ人は見たことある?私以外で。」



 銀髪は珍しいらしいけど、どの程度なのか気になる。私の質問に、ソフィアは鏡ごしに私の目を真っ直ぐ見つめて首を振った。



「存じ上げません。」



 ソフィアは、邪魔そうに、前髪を後ろに払った。

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