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 10㎝という僅かな隙間から入り込む風が、ゆるゆると私の髪を揺らす。時折、吹き込む風がぶわっとカーテンを吹き上げるのを、ベッドに横になって見ていた。



「疲れた………。」



 ルーシーとの契約を取り付け、次回は私が生活している家に来るように約束をした。仕事が落ち着く翌週には、採寸とデザインの打ち合わせをしに来るとのこと。他にも買い物をして、帰宅の途についたのは夕方だった。

 はっきりいって、家に閉じこもってばかりの5歳児の体力を舐めていた。家に着いたとたん、食事を取る気力もなくて、ベッドに倒れこんで寝てしまった。



 相手が断る隙を持たせず、押しの一手で契約を取り付けたけど、気力も体力も使い果たした気がする。



 次の日も、なんだか疲れが抜けない気がしてだらだらとベッドで過ごしていて、今に至っている。

 ゴロゴロと寝返りをうっていると、ドアをノックする音がした。



「お身体の調子は……どうですか?」



 ドアを開け、ぎこちなく声をかけてくるソフィア。ルーシーの家から帰るときから、こちらの出方を伺うような、不自然な姿が垣間見える。



「少し体がおもだるい感じ。」



 私がそう返すと、廊下に置いていたのだろうカートを引いて中に入り、ベッドのすぐそばにあるローテーブルの上に、ティーセットを準備し始めた。



「身体によいハーブティーをご用意させていただきました。」


「ありがとう。」



 私がゆっくりと身体を起こすと、ソフィアはなぜかビクッと身体を震わせた。明らかにおかしい様子に、指摘しないではいられなかった。



「私に何か、言いたいことでもある?」


「いえ……。」



 否定はされたけど、明らかに目が泳いでいる。



「私が、前のマリーにでも戻ったとでも思った?」



 にこりと笑って言えば、ソフィアは私の目を見て固まった。なんてわかりやすい。

 ルーシーにわがままを言って、専属契約を!なんて言い出したから、昔のマリーを思い出したりでもしたんだろう。そう見当はつけていたが、やっぱり当たったらしい。



「私はちゃんと、マリ・ニイガキよ。説明せずに、勝手に話を進めてごめんなさい。」



 ベッドから降りて、深々とソフィアに頭を下げる。すると、手を取られたので顔を上げれば、目線の高さにまで屈んだソフィアと目があった。両手にソフィアの温もりが伝わってくる。

 ソフィアの手のこわばりが、ゆっくりとほどけていくのがわかった。



「ルーシーに気に入られる方法なんて、私にはわからなかった。だからね、お願いを聞いてもらえる方法を模索したの。それには、ソフィアの協力が不可欠だった。私がわがままを言ったら、ソフィアなら止めてくれるでしょう?」



 私が一周目のマリーであったなら、多分、ソフィアは止めなかった。わがままばかりで、話を聞かない上、止めても無駄だから。ソフィアとにいがきまりの関係性ができていたからこそ、なしえたことだ。



「ソフィアが止めてくれるのも、お願いを聞いてもらえる作戦の1つだったの。ごめんね、そして、ありがとう。」



 私がもう一度謝ると、掴まれていた手を軽くきゅっと握られた。私のことを許してくれると、言っている気がした。

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