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 私の矢継ぎ早の応酬に、たじろいでいるのがわかる。けど、私は止めなかった。私が何かを企んでいるのがわかったのだろう。ソフィアも、どこかためらいがちに声をかけてきた。



「5年も……長すぎではありませんか?」



 その声に勢いがないことからもそれが明白だ。

 私の様子を伺っている。



「5年も長いの?困ったわねぇ。」



 私がわざとらしく頬に手をあてて困り顔をすると、ルーシーはソフィアを自分の肩を持つ味方とみなしたのか、ソフィアの言葉にまた同調した。



「流石に専属は無理ですし、5年契約も……ありがたいお話ですけど…ねぇ。」



 ルーシーが私と同じよう困り顔をし、主人を止めろとばかりにソフィアに視線を送ってているのが目につく。



「じゃあ、仮に今、私からの注文を受け付けた場合、ドレスは1着、ゆとりをもって作ったとしてどれくらい製作にかかるかしら?」


「えーっと、仮に、仮ですわ、仮にですけど……約1ヶ月~1ヶ月半くらいですわね。」



 私の質問に、念押しするよう何度も仮にとつけながらも、困惑しながら答えてくれる。

 そろそろ、本当の願いを言う頃合いだろう。



「そう………けっこうかかるのねぇ。ソフィア、私は今、何着、ドレスが必要だと思う?」



 何気ない様子で、ソフィアの方に振り向く。ソフィアに見せた口元は、我慢できず笑ってしまっていた。いけないとばかりに顔を引き締める。



「そうですね……2着程でしょうか。1着はダンスの練習用で、もう1着は……。」


「なら3着!」



 ソフィアの言葉をさえぎり、間髪入れず、すぐさま振り向いて、3本の指をルーシーに突き出す。

 ルーシーはその勢いに押されたのか、ぐっと息をのんだ。



「2着は徹夜するほど急がなくてもいいから、まずダンスの練習用のを……そうね、来月末にはどうかしら?」


 来月末まで、1ヶ月半はある。彼女は1ヶ月半で出来ると言ったのだ。言質はとった。


「まぁ、それくらいあれば……。」


「なら、もう次の1着は再来月末。最後の1着は……5年後よ。」


「5年後……?」


「そう、私は5年後、デビュタントに参加する。オーランド公爵家の令嬢として。貴方が最高の腕をそのときに、披露すれば名が上がる。今も腕のいい仕立て屋として人気かもしれない。オーランド公爵家の令嬢を利用して、更に名をあげるの。王宮のお抱えになることさえ、夢じゃない。どうかしら。」



 後は、彼女にどれ程の野心があるかだ。その辺の仕立て屋と同列でいいと思っているならば、私の話には乗ってこない。

 私の言葉に、ルーシーは視線をさ迷わせた。少し時間はかかった。でも、ルーシーは決意したように、私の目をまっすぐ見つめた。

 その目は熱意に燃えているように見えた。



「お嬢様、その話、お受けいたします。」



 その返事を聞いて、私はにんまりと笑み、カップに注がれた紅茶を一口のんだ。少し冷めていたけど、一つの大きな仕事を成し遂げたようで、ことさらおいしく感じた。

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