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 豊富な水資源に恵まれ、緑豊かな王国アンテレード。その国を舞台にしたゲーム『 Wheel of Fortune 貴方と共に』。

 6人の攻略キャラクターと恋に落ち、運命の恋人となるというのがゲームの内容である。

 13歳から18歳までの6年間がゲームの期限。

 その間に勉強、芸術、礼儀作法などのレベルを上げ、その習熟度合いでキャラクターを攻略できる。



 円の中心にいる3人。

 居丈高にマリーに声を荒立てた男は、その攻略キャラの1人。

 赤髪でやや吊り気味のアーモンドアイ。アンテレード王国の第二王子、アクセル・アンテレード。

 イメージカラーは赤。


 その傍らでその大きな瞳を潤ませているのが、このゲームの主人公ヒロイン、男爵令嬢エマ・スペンサー。

 その名前はデフォルト名。要するに最初からゲームの設定上でつけられている名前で、プレイヤーが自由に変更可能なのだ。ただし変更しなければ、ボイス付で名前を呼ばれる仕様になっている。

 プレイヤーが自己投影をするために、スチルでもヒロインの顔はぼかされていた。けれど、スチルに映っていた一部の服装や髪型、ゲーム内のミニゲーム中にでてくるちびキャラの記憶から、目の前にいるのがヒロインだとわかった。



 最後に、アンテレード王国5大公爵家の1つ、オーランド公爵家の長女、マリー・オーランド。青銀髪を緩くハーフアップにしている美少女。ヒロインがどのキャラとのルートを選んだとしても、邪魔者として立ちふさがるライバル。

 俗に言う、悪役令嬢である。




 私は生前心臓が弱く、何度も病院の入退院を繰り返していた。その入院中、幼なじみがくれたのがこのゲームだった。ゲームの中だけは自由に外を走り回ることができ、恋もできる。

 携帯ゲーム機で熱中してプレイし、やりすぎて看護士に怒られもした。私に自由を教えてくれた、大切なゲーム。まさか死後に、そのゲームの中で、マリーのVRを経験するなんて思いもしなかった。



 もちろん好きなゲームだから、このゲームの世界を実体験できるのはうれしい。

 けど、私はヒロインに自己投影するタイプではないので、できるならその辺の一般生徒でありたかった。一般生徒として、遠くから眺めるだけでいたかった。それが、あろうことか、まさかのライバルキャラになっているなんて。

 もし私がこの身体を自由に動かせているなら、頭を抱えていたに違いない。




 ゲームのプレイ経験からわかる。

 これは、ゲームにおける終盤。学院の卒業パーティーで、他の生徒の前で婚約破棄を宣言される場面だ。そして、更に、王宮の牢屋に幽閉を言い渡されるのだ。

 攻略キャラのルートによってその幽閉理由も違うけれど、確か、アクセルを攻略していたときの幽閉理由は…………。



 私がいろいろ考えている間にも、ストーリーは進んでいく。

 マリーのまったく悪びれる様子のない態度に、アクセルは怒りで顔を赤くし、噛み締めた唇からギリギリと音がしそうなほどだった。けれど、傍らのエマの潤んだ瞳を一目見ると、何を思ったのか口許を緩めた。

 エマの腰を寄せ、安心させるように甘い笑みを浮かべる。

 唐突に2人の世界に突入である。



 ゲームのプレイ中は何も思わなかったけれど、目の前で2人の世界を作る姿を見ると、実に鬱陶しくて見るに耐えない。

 私は砂を吐きたい思いにかられていたが、身体の本来の主であるマリーは気が気でないらしく、更に強く己の腕に爪を立てた。



 好きな相手が自分を見てくれず、別の女性と視線を絡めあっている。憎らしい、悲しいーーーーー私を見て。

 その感情が流れ込んできて、私までつらくなった。



 しばらくして、アクセルは我に返ったのか場の空気を戻そうと咳払いすると、やっとマリーの方に視線をやった。



「お前は、エマに高飛車な態度をし、またエマが祖母からもらい受けた大切な物を壊した。他にも様々な嫌がらせの数々。エマは大変傷ついた。お前が苛めたエマは、私と結婚すれば王族の一員。つまり、王族を傷つけたのと同義だ。」




 どや顔で言うアクセルの言葉には、突っ込みどころが山ほどありすぎた。

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