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ルーシーがルビィに服を作ったということは、何かしら彼女を気に入る理由があったということになる。ルビィがマリーにドレスを自慢したときに、何か気に入られた理由とか、言っていただろうか………。
顎に指をあてて、じっくり考えてみたけれど、さっぱり思い出せない。
当事、マリーはルビィに自慢されたことに対して怒りの感情を持っていて、ルビィの話を冷静に聞いていない。腹をたてていて聞き流している。
なんでルビィなんかが!?という幻聴が聞こえさえする。
マリーはほんと、特に印象に残っているよほどのことしか覚えていない。ただ、誰しもそうだろう。私も、小さな頃のことなんて、よほどの事でないと覚えていないもの。
これではマリーの記憶が役に立たない。こうなったら、なんとかして自分の力で交渉するしかない。会話の中や様子に、ヒントがあるはず。
私の頭だけでは考えが浮かばないので、ソフィアの頭も借りることにした。
「気に入られたらドレスを作ってくれるのよね?なら、どうしたら気に入られると思う?」
私が身体ごと後ろを向いて、ソファーに膝立ちしてソフィアの方に身を乗り出すと、ソフィアはくすっと笑った。
「そのままのマリー様でいいと思います。」
「そのままの私………。」
「マリー様は、らしくありませんから。」
ソフィアはそう言って、私を指差した。正しくは、私の身体を指差した。
「貴族は、そのようなはしたない格好はいたしません。」
貴族らしくないってことか。
にこりと笑って身体を押し戻されるので、ぐぐっと踏ん張ってみたけど無理だった。私はソファーに座り直すと、スカートの乱れを直した。
別に必ずルーシーにドレスを作ってもらわないと!!ってわけじゃない。でも、少しでも1周目のマリーとは違う選択をしたい。
どうしても、1周目のマリーを意識してしまう。
それが私がマリーとして生きる上で、果たしていいことなのか、それとも悪いことなのか。
なんだか、いろいろ考えすぎて頭が痛くなってきた。ぐりぐりとこめかみを押さえていると、ドアの向こうから軽いノック音がして、カートを押したルーシーが戻ってきた。
「お待たせしたわね。ここでお客様を迎えることがあまりなくて、用意に手間取ってしまったの。大抵、お客様の家に招かれるから。」
これは皮肉だろうか。
ルーシーは、屈託のない笑顔を浮かべているけれど、目の奥は笑っていない。濃い化粧で武装して、つけいる隙のなさすら感じる。
確かにルーシーの言う通り、あまりの乱雑さからも、ここは客を迎える店という雰囲気ではないのがわかる。
貴族というのは、仕立屋を屋敷に呼びつけて服の依頼をするのが普通。マリーはソフィアとグレッタとの家………仮に、隠れ家と呼ぼう。
隠れ家にいるときは勿論、住まいをオーランド公爵家に変えてからも、仕立屋は屋敷に呼んで服を作らせていた。仕立屋は呼びつけて作らせるのが当たり前。
今回のことは、イレギュラーだ。だって、呼びつけるより、外に出れるならその方がいいじゃない。
招かれざる客と言いたげな様子に、普通の貴族なら怒って帰るかもしれない。
ーーーーーー普通の貴族ならね。
カートの上にのせていたティーポットから、カップに紅茶が注がれる。
ルーシーの言葉に険を感じたのか、背後のソフィアから沸き立つような異様な存在感を感じる。
私はソフィアが口を開く前に、先に言葉を発して、それを制した。
「ごめんなさいね。私、どうしても仕立屋に直接足を運んでみたかったの。お忙しいところだったみたいなのに、お邪魔したみたいね。」
トントンと指先で、自分の目の下、涙袋あたりを叩いて見せると、私の前に紅茶を注いだカップを置こうとした手が止まった。
「目の下にクマ。よほど仕事が立て込んでらっしゃるんでしょう?」
私は普通の貴族ではない。
そして、普通の5歳児でもない。




