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私の探るような視線に気づいたのか、ライアンは不思議そうにこちらを見て笑う。その緊張感のないへにゃりとした笑顔に、こちらの肩の力も抜けてしまった。
王妃に命を狙われているだろうに、こんなに平和ボケしている感じでいいのだろうか。
それに、身を隠す立場で、自分の身を顧みずに人助けなんて……………。
彼の護衛の苦労が偲ばれて、思わず心の中で祈った。護衛さんに幸あれ。
「どうかした?」
「いえ、こんなにたくさんも飲めなくて、余ってしまったからどうしようかと。せっかく持ってきてくれたのに、悪くて……。」
私はライアンからの質問に申し訳なさそうに返事して、器に半分以上残っているレモン水を見せた。
正直、見ていたのをごまかす為に出た嘘だ。
私の言葉に、彼は首を左右に振った。
「いいよ、そのまま持って帰るから。それより、もう体調は大丈夫?」
ライアンは私の手から器を受けとると、こちらの様子を伺うように顔を覗きこみ、頬に片手を添えられた。流石にゲーム中で1番人気のキャラクター。幼いとはいえイケメン。
思わずドキッとしてしまった気持ちを隠すように、ぶんぶんと顔を上下にふった。
落ち着け、私!相手は子どもだ!
「だっ、大丈夫。レモン水のおかげでスッキリしたわ。」
「ならよかった。じゃあ、行くね。」
「あ、うん。いろいろ、ありがとう。」
私が礼を言うと、後ろで控えていたソフィアも、ライアンに頭をさげた。
「お気遣いありがとうございました。」
私の調子が良さそうなのに安心したのか、ライアンは、顔を綻ばせる。そのまま、少し名残惜しそうに手を振ると、踵を返して行ってしまった。
彼が通りの向こうに行ってしまうまで見送ると、ソフィアがハッとしたように大きな声をだした。さっき渡していたハンカチを掲げる。
「ハンカチを返してません!」
「あぁ!!忘れてた!」
ハンカチのことなど、スコーンと頭から抜けていた。
今ならまだ間に合うだろうか。
追いかけようかと片足を踏み出したけれど、その動きを止めた。下手に追いかけて、王妃の手の者だと思われたりしないだろうか。それに、追いかけなくてもゲーム通りなら……。
私はそのまま、ソフィアの方に引き返した。
「大丈夫、学校で会える。彼はゲームのあれだから。」
「…………あぁ。」
今できる精一杯の隠した伝え方だけど、察してくれたらしい。ココで教えられるのはこれだけだ。
ライアンは、13歳になったら同じ学校に通うはずだから、会える…はず。
ソフィアが頷く。ココではそれ以上何も聞かなかったけれど、家でじっくりと聞かれる予感をひしひしと感じた。
そういえば、さっきのあれはなんだったのか。
ソフィアの様子がおかしかったのを思い出して、私は問いただした。
「さっき、私がレモン水を飲もうとしたとき、何か言いかけた?」
モゴモゴと何か言いたそうな様子だったソフィア。見知らぬ人から勝手に物をもらったから?でも、蜂蜜飴のときは何も言わなかったし……。
私がソフィアをジーーと見上げていると、観念したらしい。おずおずと口を開いた。
「さっき、彼がレモン水を持ってきてくれた時の器ですが……彼は適当に選んだと言った器ですけど……多分、あれは……。」
「あれは?」
「おそらくですが、相当高価な物です。あの植物の模様、金の縁取り。ある作家の特徴的な作風の物で……あれ1つで、我々が今住んでいる屋敷が10軒は買えます。」
「ひっ!!」
悲鳴をあげそうになり、口を押さえる。
落とさなくてよかったと安堵したけれど、震えが止まらない。流石、王族、いいものを使っている。わかっていたらもっと丁寧に扱っていたけれど、今さら遅い。
落とさなくてよかった!壊さなくてよかった!
ライアンがあの器を選んだとき、家人も護衛も気が気じゃなかっただろう。御愁傷様デス。




