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 ライアンはゲームの1周目では隣国の学校に通っていて、存在すらしない。第1王子なのに自国の学校に通わないのは、ライアンが第2妃から産まれた王子なことに起因する。



 この国の王には、王妃、第2妃、第3妃の3人の妃がいて、ライアンは第2妃が産んだ第1王子。アクセルは王妃が産んだ第2王子。

 アクセルを王にしたい王妃が、ライアンの存在を疎ましく思い、第2妃ともども亡きものにしようとした。そこで第2妃は故郷である隣国に、ライアンともども亡命した。

 2周目では、ゲームの舞台となる、学校がはじまる13歳くらいに隣国から戻ってくるのだ。




 2周目…………何か忘れているような。




 私が考え事して固まっていると、私のことを案じたソフィアに肩を揺すられた。

 思案している最中から急に意識を現実に戻され、頭の中がごちゃごちゃだ。



「マリー様、どうされました?」



 また気分でも悪くなったのかと、慌てたのか敬語になっているソフィアを制した。



「大丈夫よ、お・ね・え・さ・ん。」



 わざと強調して答えれば、ソフィアはハッとして口許に手をやった。周囲に視線をやったけど、こちらに気をやっている者などいない。

 通りすぎる人が、たまに私の容姿を気にして目が合うけど、すぐにその視線も外れていなくなる。

 ただ…………。



 私はソフィアに、ライアンのことを話そうか悩んだ。ここは、乗り合い馬車の乗降場から程近くて、人通りも多い。

 ライアンは、王妃と王妃の手の者から身を隠しているはず。ここで下手にライアンのことを話して、もし誰かに知られたら騒ぎになる。

 そうなれば、ライアンの身を危険に晒すだけじゃない、私とソフィアの身も危険に晒す。


 敵は王妃だけじゃない。

 ライアンの身を守る者が、ライアンのことを知っている私のことを知れば、ライアンを守るために命を狙うかもしれない。事実を知っている人間は、危険でしかないから。

 ただでさえ、私は世間的にはいないことにされている存在。消すことなんて、容易だ。

 羽虫を握り潰すように。



 考えただけで身震いがした。ここでソフィアに話すのは、得策じゃない。



 その時、通りの向こうからライアンが走ってくるのが見えたので、私は気を引き締めた。

 緊張で青ざめた顔を、馬車に酔ったせいにして。



「待たせてごめん。これ、家の人に水が欲しいって言って、棚から適当な器を選んで、いれてもらったんだ。」



 ライアンはよほど急いでいたのか、息を荒らしながら器を差し出した。小さな手のひらサイズくらいのボゥルは陶器でできていて、草が伝ったような綺麗な模様が描かれていた。金色のふち取りまである豪華なもの。



「ありがとう。」



 受けとる手が震えそうになるのを押さえ、口元に持っていく。その様子を、ソフィアが何か言いたげに口をモゴモゴさせながら見ていた。

 どうしたんだろう。

 ソフィアを気にしながらも受け取った器から水を飲むと、ほんのり酸味がした。レモンのような柑橘類の臭いがする。



「少し酸っぱい……。」


「相手が馬車に酔ったっていったら、レモン水にしてくれたんだ。」



 得意そうに話すライアンの顔をまじまじと見つめる。幼い顔をしているけど、ライアン・アンテレードに間違いない。


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