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 迷ったあげく、封蝋を剥がしたあと、それをそのままグレッタに渡した。



「お願い、読んでくれる?」



 私はまだ、この世界の文字に慣れていない。ソフィアに頼んで少しづつ習い始めたけど、前世の記憶が邪魔して思うようにすすまない。

 たどたどしく読んで、内容を間違うよりはいい。

 私が渡した手紙を受けとると、グレッタは中身をあけて私の隣りに膝を曲げて屈む。

 そのまま見せるように広げて読んでくれた。



「『5歳の誕生日おめでとう。成長を喜ばしく思う。我が家に迎え入れる前に、教師を派遣することにする。準備してその日を待つように。また、よくよく勉学に励むように。』だそうです。」


「えーっと……家庭教師を派遣するってこと?でも、準備って?」


「我々の方にも、準備しておくべき物の詳細が書かれた手紙が来ております。来週にでもお出掛けして買い物をしに行きましょう。」


「出掛けられるってこと?!」



 私は鬱々とした気持ちが晴れ、嬉しくて飛び上がった。その様子を、小さな子の成長を見守る母のような顔で微笑まれ、なんだか恥ずかしくて俯いた。ちなみにソフィアは、生暖かい目で私をみていた。




 お出掛けの日、ワンピースの上に薄手のコートを着た。薄手のコートは少しぶかぶかで、袖の部分を折り返さないと着れなかった。

 マリーのお母さんが小さい頃に着ていた物らしい。買い物に付き添うソフィアも、いつもの詰襟ワンピースの上、に足元まである少し大きめのコートを着ている。



「いってらっしゃいませ。」



 玄関でグレッタに手を振ると、ソフィアのコートの内側に隠れた。

 内側から、コートの隙間を少し開けて外をみる。



「行きますよ。」



 ソフィアが小声で話しかけ、コートの中の私の頭辺りをそっと撫でる。

 隠すために、外に出るところすらバレないようにしないといけないらしい。

 実にめんどくさい。



 ソフィアがゆっくりとした歩調で歩くので、私もそれに合わせて歩く。コートの中はなんだか蒸すし、息苦しい。

 玄関ドアを開ける音がした。外からの風でソフィアのコートが裏返りそうになり、両手で掴んで押さえた。少し寒いような温いような風。春だ、と思った。



 ソフィアの足が当たり、つんのめりそうになりながらも歩き続ける。コートの隙間から入る光が少し陰ったところで、ソフィアが止まった。



「もう良いですよ。」



 ポンポンと頭の辺りを叩かれたのを合図に、ソフィアのコートの中から飛び出した。

 コートがすれてくしゃくしゃになった髪を撫で付けていると、ソフィアが手直しを手伝ってくれた。

 そこは、建物と建物の間の路地のようなところだった。



「今から乗り合い馬車に乗って、移動します。買い物をする店には、公爵家から話が通っているそうです。」



 ソフィアの言葉にふんふんと素直に頷く。

 馬車になんて乗ったことがないので、なんだかドキドキする。



「馬車に乗ったことないから、ちょっと楽しみ。」


「ご存知なんですね。」



 ソフィアの言葉に、何を?と聞き返そうとしてやめた。ソフィアの言葉が何を指したのか気づいたからだ。



 マリーは、外に出してもらえない。ほとんどを自分の部屋で過ごしているし、家の窓から見える通りからは馬車は見えない。

 ただ家で過ごすことだけが世界のすべてなマリーでは、そもそも馬車というものを知るはずない。もちろんマリーの記憶として馬車に乗ったことはあるが、私自身が乗った訳じゃないので実感は伴わない。



「知識として知っているだけよ。」



 そう返事すると、ソフィアはそれ以上何も聞かない。ソウイウコトが何度もあるので、ソフィアも慣れてきつつあるようだ。

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