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第六話

本日もよろしくお願いします。

やや説明回です。




「この世界の文化か。相当根強い差別があるのだったな、お前たちには」


「……なんで他人事? 魔王様……は違うの?」


「あっ!? いや、その……」


 そんな少年の問いかけに、魔王コージュは言葉に詰まる。


 今はもう、自分もこの世界の住人だというのに。

 彼の言うように他人事として語ってしまったからだ。


「……お、俺はこう見えて、もの凄い田舎者なのだ! うちの田舎は一般常識からかなりズレた文化だったから、そういう言い方になってしまっただけだ! どれ、この際だから互いの基本知識のすり合わせでもしておくとするか!?」


「田舎者? あなたって、いったいどの国の出……」


「なあイエノロ! お前もそう思うだろ!? では行くぞ!?」


 少女から出身国を尋ねられそうになり、魔王コージュは半ば無理矢理にその話を進めようとする。

 流れとしてはかなり苦しかったが、イエノロも余計なことは言わずに無言で頷いてくれたため、その場はなんとかボロを出さずに済む。


 人形のイエノロの場合、空気を読んでそうしたのではなく、ただ魔王コージュの意思を尊重するという意味で頷いただけであろうが。


「えー、まずは原初の存在の確認だ。火・水・土・風・光・闇の各属性を宿した六つの純血種、通称〈精霊の子〉と呼ばれた六種族が始まりで合ってるな? 今の六か国が(まつ)る神も、〈精霊の子〉を神格化したものであろう?」


「……うん。僕たちが知ってるのもそんな感じ。純血のひとは特別な存在」

「昔は先祖返りで、()()混血のひとから純血が生まれることもあったって聞いた。まだ血が濃かったとかなんとか?」

「私もそう聞いたわ。でも、今はもう純血のひとは一人も残っていなくて、確か最後の純血のひとが亡くなったのが200年前くらい?」


「ふむ、()()()()正解――――ではなく、俺の田舎に伝わっている話とも合ってるな」


 子どもたちの興味が無事に移ったことにホッとし、魔王コージュも間をあけることなくその話を続ける。

 彼の持つ《全知全能スキル》で、子どもたちに確認するまでもなく伝承も()()も熟知できてはいるのだが。


「今は最も優性と言われてるのが二種混血ね。だいたいは国の()()()()()になるかしら」

「三種混血の人たちは、貴族様って呼ばれてる」

「四種混血が平民。僕たちもその一員だった……んだけど、バレちゃったから。()()()()だって」


 それは、明確なる差別であった。生まれ次第という後天的にはどうすることもできない種類の、救いのない身分制度。

 種数次第で決まるのだから、無残に引き裂かれた親子や兄弟姉妹も当然いるのだろう。


 だが、それでも貴族と平民ならばまだ救いはある。

 本当に絶望的なのは、迫害の対象とされる五種混血であった。


「……五種混血は人では無いと? だから島流しにすると?」


「そうだよ。それが当たり前。でも原初の血が入っていることに変わりないから、殺すとかじゃなく島流しなの。自分の手で殺すのは人殺しで罪になるよ」

「だけど、大いなる精霊様が宿るこの島に流せば、()()()()でも浄化して天国に連れて行ってもらえるんだってさ。殺すのはタブーだけど、島流しは救済……みたいな?」

「……そんな話が建前だけの出まかせだって、みんな知ってるけど。ウチらみたいな子どもでもね」


「……そうか」


 自分から始めた話ではあったが、魔王コージュは少し心苦しさを覚えてしまう。

 当事者である子どもたちに、自分の口で語らせることになってしまったからだ。


 それでも子どもたちは、まだ現実感が戻っていないからなのか、それとも当たり前のこと過ぎて麻痺してしまっているのか、躊躇うこと無くそれを語ってくれる。

 その姿に魔王コージュはホッとする反面、この世界に対する失望と何とも言えない虚しさが自分の内で膨らんでいくのを感じていた。


「……俺個人としては、たくさん入っていた方がお得な感じがするのだがな? そうは思わんか、お前たち?」


「フフッ、なにそれ? 魔王様、変なこと言うのね?」


 僅かにでも励ましにならないかと、そんなことを言ってみる。

 だが子どもたちを嬉々として喜ばせるには、それでは足りな過ぎたようであった。


 それでも、少しでも微笑んでくれたことがせめてもの救いである。


「……あの聞いてもいいですか?」


「うん? なんだ? 何でも遠慮せず聞くがよい」


「魔王様って何種の人なんですか? 三種? それとも四種?」


 すると、()()()()()()()()少年が挙手をして魔王コージュに話しかける。


 通常ならば会話によるコミュニケーションを重ねれば重ねるほど打ち解けるものだが、今回に限っては少し事情が違っていた。

 あまりに現実離れした出来事の連続に、放心してやや現実逃避気味の精神状態になっていた子どもたちからすれば、リアルな会話を重ねれば重ねるほどに現実感が戻ってしまうという特殊な状況だったのだ。


 そうなれば、夢うつつの狭間のような状態で子ども本来の太々(ふてぶて)しさを曝け出せていた三人とて、段々と劣等種として扱われていた()()()()()()を取り戻してしまうというもの。

 打ち解けるどころか、逆に魔王コージュに対して段々と警戒心や畏れの感情を抱いてしまいかねなかった。


「まさか、二種とか……」


「ああ、俺か? 俺は()()だ。全部入りプラスワンだぞ、凄かろう? 五種混血が最も劣ると言うならば、俺は間違いなく最下位の存在になるな。ハッハッハッ」


「……プッ、アハハハ! 魔王様、面白いね。でも冗談にしても、それはちょっと無理があるよ?」

「そうよ。最低は五種で、()()()()だとそもそも生まれて来ることができないのよ? お母さんのお腹の中で死んじゃうんだってさ?」

「常識。魔王様、嘘が下手。クスクス……」


 だからこそ、魔王コージュはそうならないようにわざと自分を卑下した言い方をする。


 現状で「俺に気を遣うな」とストレートに伝えたとしても、身分制度によって染みついてしまっている卑屈さが出てしまうだけだと思ったから。

 それは言葉ではなかなか払拭し得ない精神面の問題なのだ。ならば、少しでもそうならないように努めるのが最善の手だと考えてのことだった。


「む? 冗談では無いぞ? なにせ俺にだけは七種類目の“日本人の血”が入っているからな」


「ニホージーの血? 聞いたこと無いよ、アハハッ」

「六つしかないのに、どこからもう一種類来るのよ? フフフッ」


 子どもたちにそんなふうに笑われ、魔王コージュは少し拗ねたような表情をしてみせる。

 その顔で子どもたちにもますます笑い声が増え、戻りかけていた緊張感や警戒心は魔王コージュの目論見通りに、少しだけ緩和されたようであった。




 ――――ちなみに、だが。


 末恐ろしいことに……魔王コージュが今言った内容は、全て事実である。

 実は、善神が樹少年(コージュ)の前世の遺伝子を使って一から構築した今の魔王ボディには、その他にもこの世界の()()()()()の血が全て使われていた。


 通常ならそれは「致死遺伝子」と呼ばれるものに該当し、子どもたちの話の通りに生まれて来ることができない形。

 だからこそ五種混血には、あと一種混ざると死ぬという、まるで呪われているかの如き悪印象が齎す忌避と嫌悪の感情があった。それこそが、身分制度はともかくとして五種混血だけが過剰に忌み嫌われ迫害される要因の一端になっていたのだ。


 ……なのだが、そこに“日本人の遺伝子”が加わったことで事情が変わる。

 六種が駄目でも七種ならセーフという、屁理屈以外の何物でもないトンデモ理論によって致死が覆されてしまったのである。


 まあぶっちゃけ、神の力によるゴリ押しの反則技なのだが。


「魔王様、やっぱり嘘が下手。でも七種なんて、それはそれで凄いかも♪」


「そうであろう? まあそんなわけだからして、七種混血で最下位の俺様は五種混血のお前たちを差別したり迫害したりすることなど決してあり得ぬ! と……いうか、できぬ! だって、その理屈だと俺様の方が劣っているのだからな、ヌハハハハ!」


「フフフ、その割に偉そうね?」


 少女からそう言われると、魔王コージュは両腕を組んでさらに偉そうな態度でもって言い放つ。


「そうであろう? 俺様は強く優しく気高い最下位の劣等種なのだ。だから、お前たちの方が優れた種であっても……俺様を虐めたりしないでね?」


 堂々とした態度とは裏腹に、口にしたのは実に情けない内容であった。

 そんな魔王コージュに、子どもたちも遂に三人揃って声を上げて笑い出す。


「プッ! アハハハハ、何それ!」

「クスクスクス、虐めたりしないよ。自分自身がされて嫌だったこと、僕たちは他人に絶対しないから」


「ふむ、英断であるな。()()()()で言うのもなんだが、そんな差別などという無駄な行いをするよりも、こうして楽しく()()()話していた方がいいと思わんか? 少なくとも俺はそういう考えだ」


 すると、その言葉に三人ともが顔を見合わせて驚きを露にした。

 それは、驚きと同時に悲しみと困惑、そして喜びの感情までもが入り混じった不思議な表情であった。


「……対等だなんて、誰かに言われたの……生まれて初めてだわ」

「僕たち、本当に五種混血の劣等種……なんですよ? それでも、魔王様は……魔王コージュ様は、僕たちを普通の人間として扱ってくれるんですか?」


「何を言う? その理屈なら俺の方が劣等種だと言っておろう? 俺は最初からお前たちを劣等種などと思っておらんし、むしろ俺の方が対等でいいかと許しを得ねばならん側だぞ?」


「その()()、あくまで貫くのね。私は魔王様と対等だっていうなら嬉しいけど……」


 そう話す少女の――――三人の瞳が「その言葉を信じてもいいの?」と問いかけて来ていることは、魔王コージュもスキルを使わずとも分かっていた。


 これまで虐げられてきた子どもたちが、同じ境遇の者以外を信じられなくなっていたであろう子どもたちが、今この瞬間に目の前の相手(コージュ)を信じてみたいと、もう一度誰かを信じてみたいと思ってくれたのだ。

 それが分かり、魔王コージュも嬉しくなって心の中でガッツポーズを取る。


 子どもの扱い方などよく分かっていない魔王ではあったが、そういう彼とて転生前はまだ十七歳の未成年(こども)だったのだ。

 ならば関係性は強者と弱者、支配する側とされる側などもっての外で、親と子でなくとも、魔王と配下でなくともいいのだから。


 だから魔王コージュは、信用と信用で、心と心の絆で結ばれた関係の名前を口にする。


「なら決まりでいいな? 俺とお前たちは対等な関係、“()()”としてこれからやっていこうではないか。万能で何でもできる俺ではあるが、なにせ田舎者なのだ。色々と教えてくれると助かるぞ」


「な、仲間……」

「……いいの?」

「……魔王様? その言葉、本当に信じてもいい? 嘘吐かない?」


 そんな不安そうな少女の疑念を払拭するように、魔王コージュは高らかに宣言してみせる。


「少し時期尚早な気もしないでもないが…………ならばここに約束しよう! この世界の文化も常識も関係無い無垢なこの地を、生まれにかかわらず誰もが対等に互いを認め合える場所にすると、〈魔王〉の称号に誓おうではないか! この魔王コージュ、大地(くに)を支配すれども(ひと)は支配せず! 何種の混血であろうとも、どんな()()であろうとも! 互いを想い支え合える仲間だけが暮らす楽園、今この瞬間こそが――――その誕生の時である!!」


 そうして少し大袈裟に意思表明をした魔王コージュは、三人の方へと改めて顔を向けて優しい表情で語りかけた。


「だから、お前たちももう自分の出生に縛られる必要は無い! この場所では胸を張って堂々と生きるがよい! お前たちは自由であり、もう劣等種などではないのだ!」


 そんな魔王の言葉に、三人の子どもたちは互いの頬をつねって現実であることを確認する。


 これまで底辺として生きてきた彼・彼女らが、心の底から欲した世界の形。願い続けた差別からの解放。

 それが、今この瞬間に、目の前の男の宣言によって叶えられたのだから。


 ――――今はまだ、目の前の〈魔王〉が発したただの言葉でしかないけれど。


「さあさあ、対等と言ったからにはお前たちにも色々とやってもらうのだからな? 対等な関係には努力も必要で、良いことばかりとは限らんかもしれんのだぞ?」


「……うん」

「……ええ」


「やることはやってもらう――――が、不安な長旅で疲れただろう。今は思う存分休むがいい。頑張るのはその後でもいい」


「あり……がとう、ございます……」


「……その涙も今は好きなだけ流せ。これからはそんなこと、当たり前すぎて泣く気も起きなくなるのだからな? その分、今のうちにたっぷり泣いておくがよい」


「「「……はいッ」」」


 魔王が降り立ったことで、絶望しかない“死の大地”ではなくなったその島で。

 それから暫くの間、子どもたちのむせび泣く声が響いていたのであった。




 ――――異世界に転生を果たした〈魔王〉が、何をするかもまだ定まらない中で最初にしたこと。

 それは、この世界では劣等種と呼ばれ忌み嫌われる子どもたちの保護であった。


 こうして三人の仲間を得た彼の行く末がどうなるのか、それは神のみぞ知る。

 万能のスキルをもってしても、そんな未来までは見通せないのだから。



 この島が笑顔で満たされるのか、それとも後悔ばかりが溢れる場所になるのか。


 それは――――これからの〈魔王〉次第である。




遺伝の法則が三種とか四種とか(血液型がABCO型みたいな)おかしなことになってますが、ファンタジーな異世界のことなのでご了承ください。


魔王コージュは火・水・土・風・光・闇・日本人の七種です(笑)


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