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第五十七話

本日もよろしくお願いします。




()カカ! 何事かと思えば、新国設立だァ?」


「ああ、国名はイシュディア魔王国だ。よろしく頼む、火の国の王よ」



 五つ目となる火の国で、魔王コージュはまたも強引に国王の下まで辿り着いていた。この国は土の国とは違った意味で屈強な猛者が多く、普通に訪ねると門前払いされると未来予知が出ていたためである。


 敢えて正面から乗り込み突破する方が強者には好まれそうではあるが、もう一国巡らなければならないため、なるべく穏便で時間のかからない手段を選んでいた。


「俺様がこの火の国の王、インカ・フレイミア・ハーデシアスだ。気軽にインカと呼ぶことを許そう」


 王宮の広間で臣下たちに取り囲まれた王座に腰かけ、足を組んで尊大な態度を示すインカ王。そんな不遜な応対ながら、突然押し掛けた魔王にも動じないあたり、王の器としては充分であろう。


「魔王コージュだ。無理矢理乱入してすまなかったな、インカ王」


()ヒヒッ! 構いやしねえよ、強え奴は好きだ」


 インカ王が魔王に対して「好き」と発言したことに、密かに過剰反応を見せたベルはさておき、インカ王と魔王は互いに威嚇し合うかのようにずっと目を合わせたままで会話を続けている。

 まるで大型肉食獣――虎かライオンか、あるいは恐竜の類いにも似たオーラを放つインカ王に、ベルは強烈な存在感を感じていた。魔王はそんな相手にもいつも通りだが。


 そんな中、先に目を逸らしたのは魔王の方である。彼にお辞儀をして、自国の事情を説明するために。

 この場合、相手が目を逸らすまで威圧を強める意味はあまり無いのだ。


「――――というわけで、うちの国を国として認めてくれないか? 貴殿のところで五か国目なのだ」


「ほう? 水以外の四つは落とせたのか。そりゃすげえな」


「落とすとは語弊があるが、まあそうだな。それで、答えは?」


「……構わねえぜ? だが、一つ条件がある」


 そう言ったインカ王に、魔王コージュはニヤリと笑みを浮かべて立ち上がる。王城のここまでの道程でも分かり切っていたが、この国の特色は非常にシンプルで分かりやすいものであった。


「この国じゃ、力こそ全てなのさ。俺様たちに認めさせる強さがありゃ、新国だろうが大帝国だろうが好きにしやがれ」


「分かり易くて助かる。あまり時間をかけると次に差し支えるのでな」


 再び目を合わせたまま会話する二人の間に、張り詰めた空気が流れ始めた。

 今度は途中で逸らしなどせず、明らかな威嚇の意味がそこに込められている。


()カッ! いいねえ、あんたからは実に俺様好みの匂いがすんぜ。せいぜい楽しませてくれ……よッ‼」


 その言葉を言い終わるや否や、インカ王は王座を蹴って魔王へと突進し、その拳を激しく打ち下ろす。

 一瞬の出来事に、ベルは彼の姿を見失って激しく動揺してしまう。だが魔王はというと、インカ王の動きに合わせてスウェーバックしつつその一撃を受けることで、威力を流していた。


 あまりの速度に、ベルが目で追おうとしても二人の姿を捉えることは叶わず、彼らの一瞬の残像だけが見え隠れしていた。初撃の後、地面を蹴り、天井まで飛び、壁で反転して……大広間で縦横無尽に跳ね回りながら闘うその姿を目視できる者など、この空間内ではせいぜいイエノロくらいである。


「ベルよ、そういう時は目で追うな。気配を感じ取るのだ。考えるな、感じよ。ドントシンク、フィールだ」


「余裕だな、この野郎! 最後のは何言ってんのか分からなかったが、俺様を舐めてんのだけは伝わってきたぜ!」


「ハハハ、ご冗談を。そんなわけないじゃないですか。まったく、おかしな御人ですねえ?」


「てめえこの野郎! おもしれえ、ぶっ飛ばしてやる‼」


 そんな激しい闘いの最中でも、ベルにアドバイスする余裕を見せ、それによって同時に相手への挑発も行う魔王。

 高レベルな戦いの中で、相手に冷静さを失わせる作戦……などではなく、単に巫山戯(ふざけ)ているだけなのだろうが。


「ほほう? 流石は強者の集う国の(トップ)だ。このスピードは称賛に値するぞ」


「オラッ! もっと速くなるぜ! その余裕、いつまで続くかな⁉」


 まだまだ余裕の表情でインカ王の攻撃を躱している魔王に、インカ王は速度を一段階上げてみせる。彼もまた余力を残しているということなのだろうが、それを目にした魔王はというと――――



「なんだと、まだ速くなるのか⁉ これ以上速くなられては……バランスボールの上でバランスを取るのは難しくなってしまうぞ⁉」


「そんなもん乗ってんじゃねえよ⁉ つか空中じゃ意味ねーだろが‼」


「まあまあ、そうカリカリするな。ほれ、カルシウムたっぷりの特製プディングができたから、インカ王も食わんか?」


「戦闘中に何作ってやがる⁉ カルシウムってのが何か知らねーが、随分と不味そうだなオイ⁉ つか真面目に闘いやがれ‼」


「あんまり本気で動くと汗かいちゃうからな。この後、水の国でも人と会う予定があるし。折角オシャレしてきたのに乱れちゃうだろ?」


「女子かッ! てめえ巫山戯(ふざけ)んのもいい加減にしろ! 殺すぞ‼」



 ――――未だ余裕は健在であった。


 流石にそこまで実力差を見せつければ、早々に諦めるだろうと見越しての作戦なのだろうが……傍から見ていてもムカつく光景である。

 だが、そんな魔王に対してもインカ王は攻撃の手を緩めることは無い。魔王が想定していた以上に単細胞で直情的な人物なのか、それとも……。


「まだだ! もう一段階上げてくぜ‼」


「むう、凄い速さだな。それなのに壊れないとは、この大広間は頑強に作ってあるのだな。いい仕事してますねえ」


「部屋の心配してんじゃねえ! オラッ、シュシュシュシュシュッ‼」


「ホッ、ホッホッホッホッ、ほいさッ。……手刀で目を狙ってくるとは容赦無いな。やだー、超怖かったですぅ~」


「女子かッ! この……ッ!」


 そこで一旦、交えた拳の反動で互いに距離を取って着地したインカ王と魔王。


 漸くハッキリと見えたことで、ベルや家臣たちの視線が一斉にそこに注がれる。落ち着いたところで広間内を見てみれば、臣下のうち何人かは床にへたり込んでしまっていた。

 戦闘中二人の姿は見えずとも、すぐ傍の壁や地面を蹴る音と衝撃は感じられるため、それに恐怖して悲鳴を上げる者や泣き出した者までいたのだが、インカ王にはそれに気付ける余裕は無かったようだ。臣下といっても屈強な重鎮だけでなく、執事やメイドといった比較的普通の者もいるのだから。


 そうして高速戦闘を一時中断した両者ではあったが、片やインカ王はハァハァと息を乱しているのに対し、魔王の方は息一つ乱すことなく佇んでいる。

 その姿からも、二人の実力差は火を見るよりも明らかであった。


「さて、まだ続けるかね?」


「……くッ、本当にムカつく野郎だぜ。いっそのことブチ負かしてくれりゃいいものを、余裕を見せつけて全部躱しやがって。あんたからはまだ一撃も放ってねーじゃねえか」


 そんなセリフで、自分との間に明白な実力差があることには、やはり彼も途中から気付いていたと分かる。それでも止めなかったのは、一国の王であり頂点の存在でもある自身の情けない姿を皆に見せたくないというプライドからなのか。


「それでもいいのだが……たまには()()らしくするのもアリかと思ってな。俺自身もここまで強い()()()相手は初めてだし、楽しくもあったのだ。すまん」


 そして魔王も、そういう事情を鑑みて闘いを長引かせていたのかもしれない。

 あっさり倒すのは簡単だが、それでは王として示しがつかないと彼も考えたのだろう。こちらは若干怪しい部分もあるが。


「ほう? そりゃ光栄だな。それじゃあ……次で最後にしてやっからよ、その一発だけは避けずに受け止めてくれねーか?」


 なにかを決意したように、拳を固く握って懇願するインカ王。

 するとその姿に、これまで静観していた火の国の家臣たちの間に、ザワザワとどよめきが起こり始める。


「ま、まさかッ⁉ お、王様、その技だけはお止めください! この部屋が……いや、城が持ちません!」


「……悪いな。俺様の魂にも、噴火みてーに火が付いちまったのさ。もう止まんねーよ」


「くッ! ぜ、全員避難しろ! 王が全力をお出しになるぞ‼」


「なんだか、ワクワクさせてくれる展開じゃないか。いいぞ、全てを出し切るがよい。俺が受け止めてやろうではないか」


 魔王の言葉に、インカ王はニヤリと笑って周囲のマナを収束させ始める。それを見た臣下たちは、一層慌てた様子でバタバタと部屋の外へ避難して行く。

 その足音は通路に留まらず、その先の階下か王宮外まで走り去る勢いであった。


「……そっちの坊やは逃げなくていいのか? そこに居っと、こいつと一緒に消し炭になっちまうかもしれねーぞ? ん?」


「坊やじゃありません。ボクにはコージュ様の結界(バリア)がありますから、お気になさらず全力でどうぞ。それに、コージュ様なら絶対に受け止めますよ」


「一応、この部屋も包んでおこう。どれだけ全力を出し切っても、これで何一つ壊れることなく済むはずだ。心置きなくやってくれ」


「……最後まで舐めてくれんぜ、まったく。それじゃあ――――いくぜ‼」


 そのセリフをきっかけに、周囲から火属性のマナが一気にインカ王の体へと流れ込む。彼を中心に、あまりに高密度にマナが急激に吸収されたことで大気が震え始め、やがて王宮全体までもがガタガタと音を立て始めた。


 地震かと錯覚する凄まじさと異様さに、威勢のいいことを言い切ったベルも思わずゴクリと息を呑んで二人の行く末を見守る。


「食らいやがれ‼ これが俺様の最強にして最高の一撃だッ‼ 炎神(エンジン)全灰(ゼンカイ)‼ アルティメットインフェルノォォォォーーーーッ‼」


 次の瞬間、真っ赤な炎がインカ王の身を包み込み、それは紅蓮の炎となって彼の肉体を焼き尽くさんばかりに燃え盛る。


 室内はごうごうと熱風が逆巻き、中心となっているインカ王の姿は煮え滾る溶岩にも近いオレンジ色の塊となっていた。人型をしたそれがぐらりと崩れ落ちるさまは、まるで広間の床がメルトダウンによって熔け落ちてしまう光景を連想させる。

 だがさらに次の瞬間、()()が強烈な踏み込みから音速を超えた速さで魔王目掛けて突進し、全ての熱量をその一点へと注ぎ込んで白熱の尾を噴き出した。彼は崩れ落ちたのではなく、強く踏み込むための予備動作を取ったに過ぎなかったのだ。


 爆発にも似た爆風と爆音の波に、ベルも思わず両腕で顔を覆って目を瞑る。その向こう側では、この世のものとは思えぬ轟音が、地獄の底から響いて来たかと錯覚するほどに鳴っていた。

 もし魔王の前世の地球なら、それをロケットの発射や原子爆弾などの映像などで例えることもできただろうが、この世界ではベルをはじめとして誰も体験したことの無い爆音であった。


 そんな、この世の終わりを連想させかねない現象とて永遠には続かない。

 十分、一時間、あるいはひと月にも感じられた苛烈な衝突も徐々に熱を失い、騒音も収束し、やがて室内の熱気が少しずつ冷めていくように思えて、ベルは暫くぶりに両腕を下ろして二人の姿を探し求めた。


「……えっ?」


 まるで火山から飛び出した赤熱の噴石か、そうでなければ隕石が追突したような状況である。魔王もインカ王も国の外れを越え、どこか海の果てまでも行ってしまいそうな勢いだった……というのに。

 目を開いたベルが見たのは、その場で全てを受け止めて仁王立ちする魔王コージュの姿と、そこに文字通り全てをぶつけ、憑き物が落ちたかのように満足そうな表情で沈黙しているインカ王の姿であった。


 いくら天才的な才能を秘めているからといって、ベルでも先ほどの光景には肝を冷やさずにはいられなかった。とてもじゃないが、今の彼が入り込めるレベルの闘いでは無かったのだ。

 だからこそ、魔王が無事だとは信じていたものの、流石の彼もダメージの一つや二つは避けられないだろうと……そう思っていたのだ。


「……()カカ、俺様は夢でも見てんのかよ……」


 だが、そこにいた魔王は不動のまま、さっきまでと寸分違わぬ位置に立っているように見えた。そして部屋の中も、あれだけの熱量と爆発を経験したにもかかわらず、何一つ変わっていなかったのだ。

 流石にその光景には、インカ王だけでなくベルであってもゾッと戦慄を覚えずにはいられなかった。彼の、彼らの目の前に立っている人物は、どれほど遠く離れた高みにいるのだろうと。


「……ふむ、素晴らしい一撃だったぞ。間違いなく、俺がこれまで経験した中で究極の一撃であった」


「…………そりゃ、甚く光栄だ。あんたが無傷で笑ってなきゃ、俺様ももっと最高に嬉しかったんだがな……」


 インカ王はそう言い切ると、ドサリとその場に身を投げ出して倒れ込む。大の字になって寝転ぶ彼の表情は、これ以上無いほどにスッキリとしていた。


「む? 不満かね?」


「……いや、これでもかってくらい完敗で――――満足だ。久々に負けを経験したが、今までで一番気持ちがいいぜ。こういうのも悪くない」


「そうか、それは良かった。では、俺の国を認めてくれるということでいいんだよな? 火の国の王よ」


「ああ、もちろんいいぜ? 魔王国だろうと、あんたが神竜様の生まれ変わりだろうと、俺様ぁ認めてやんよ。つか、そう言われた方が納得できんぜ? その桁外れが過ぎる実力じゃあよ」


 力が抜けたように「ハハハ」と笑うインカ王。

 そんな彼を見守るいつも通りの魔王の姿に、離れた位置で見ていたベルもおかしくなって思わず笑い声をこぼしてしまう。


 どれだけ人間離れした強さや能力を持っていようとも、彼の目に映る魔王コージュの本性はこれまでずっと見て来て、よく知っている。あまりに隔絶した力の差に身震いすることがあっても、彼を恐れる必要など全く無いのだと思い出したのだ。



 ――――そんな、気の抜けた空間で。

 何故か魔王だけは、不思議そうに首を傾げていた。


「……以前も同じようなことがあったのだが、その神竜様というのは伝説の()()のことだよな? この国の場合……」


「あん? そりゃそうだが……なんだ急に?」


「いや、お前が()()()()()()と言ったのが引っかかってな? まるで死んだかのように言うから……」


 そんなことを口にした魔王に、インカ王は床からムクリと上半身を起こして彼に目を向けた。その目には疑問符が浮かんでおり、明らかに魔王の言っている意味が分からないといった様子であった。


「何言ってんだ? 神竜様――――炎竜様は神話や御伽噺に出て来る存在だぜ? 実際に居たみてーだってのは俺様も知っちゃいるが、俺様たちの祖先の純血種がこの世に生まれる前から居たって話だし、途方も無えくらい大昔の存在なんだぜ? そりゃ生きてるわきゃねーだろ」


「いや、それが生きてるんだがな? ()()()()怪物(モンスター)種という特殊な種族だから、たとえ死んでも再誕(リポップ)するのだし。不老不死では無いが、不滅の生物ではあるのでな」


 魔王の口ぶりがまるで()()を知っているかのようにも聞こえ、インカ王は目を丸くして彼に問いかける。その心中はさぞかし穏やかでは無いことだろう。

 なにせ、今の話が本当ならば大発見どころではないのだから。神話の伝承すら覆りかねない驚嘆の事実である。


「……まさかと思うが、会ったことあるとか言わねーよな?」


「あるぞ。というか、そこのベルと一緒に、ここに来る前にも会ってきた」


「なん……ッ⁉ なんだとぅ⁉」


 それを聞き、インカ王はバッとベルに視線を移す。その目は、ベルに嘘だと言ってくれと懇願しているようであった。

 だが、視線を向けられたベルは気まずそうに苦笑いをし、引き攣った顔でコクリと頷くのがやっとであった。


「マジなのォ⁉ あ、あり得ねーだろが‼」


「そ、そんなことを言われましても……。ボクも最初は何言ってるのか意味不明でしたけど、実際にこの目で見てしまったので信じるしか…………あッ!? もちろんコージュ様のことは全くもって疑ってなんていませんし、信じてましたよ! いや本当に! 本当ですとも!」


「マジなのか……? いや、俺様を謀ってる可能性も……」


「ベルよ、必死に弁解すると逆に嘘っぽく聞こえるぞ? というか、何気に酷いこと言ってないか?」


 混乱するインカ王と慌てふためくベルを前に、魔王は小さく溜息を吐く。

 そして、少し考え込んだ後で、再びインカ王に向けて口を開いた。


「なら、手っ取り早く証拠を見せればいいよな? というか、実際に見た方が早いし納得できるだろ?」


「は? そりゃ、どういう意味で……」


「ほれ、()()()()()()やろう。おーい、炎竜よ? こっちの声が聞こえるかー? 居たら返事をしてくれー」


 そう言って、何やら目の前の空間を歪めて捻じ曲げ始めた魔王の姿に、インカ王は再び呆気に取られる。

 だが次の瞬間、先ほどまで赤熱しても平気だった彼ですら驚くほどの熱気が、その空間の揺らぎから流れ込んできたではないか。


「おっと、結界(バリア)で膜を張らねば、()()()の熱で王城が溶けてしまうな」


「……あ……ちら……?」


「ああ、炎竜がいるのは()()()()だからな。地下深くのマグマの間にできた空洞の中に住んでいるのだ」


 そう話す彼の向こうに見える空間の揺らぎが、やがて動く何者かの姿をモニター画面のように投影し始めた。そこには、意志ある二つの瞳の光が見て取れる。


「……コージュ、殿……カ? サッキブリダナ、ドウカシタカ?」


「いや、この火の国の王が、お前を死んだと思っているみたいなのでな? というか、各国全てにいる()()()()健在だというのに、この世界の誰も知らんのは何故なのだ?」


「我ラ六体ハ特ニ大量ノマナヲ必要トスルカラ、住マウ場所モ特殊過ギテナ。古ノ時代、純血種ト呼バレタ者タチノ一部ハ会イニ来レタコトモアッタガ、今デハ最早誰モ叶ワンノダロウ。忘レ去ラレルノモ仕方アルマイテ」


「なるほどな。……というわけだそうだ。インカ王、これで信じただろ?」


「……」


 そう言って魔王コージュが振り向くと、そこではインカ王が白目を剥いて倒れ込んでいた。流石の彼も、先の闘いを含め、異常な情報を大量に脳に受け入れ過ぎて遂に許容量を超えたらしい。


 そんな姿を憐れんで、ベルがそっと彼を介抱し始める。

 その光景を不思議に思い、魔王と炎竜は顔を見合わせ首を傾げるのであった。



 これまでも大概ではあったが、最も災難だったのはこの国なのかもしれない。

 平穏な日常を打ち砕かれ、なんとも難儀なことである。





やっぱりバトルシーンを描くのは難しいです。


ちなみに本作で「龍」は御伽噺の存在、「竜」が実在するネームドなどのモンスターという扱いで使い分けてます。

なので、基本的には「竜」しか出てきません。もし書き間違えがあったらすみません。


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