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第五十五話

本日もよろしくお願いします。


※途中のゲーム名を入れ忘れていたため、投稿の二時間後に一部改稿してあります。申し訳ございません。



「キシシッ、興味深い話よの? それが本当のことであれば……だがのう?」


「……」



 風の国の頂点(トップ)と話すため、王宮へ入った魔王コージュたち。


 そんな彼らの前に毅然と姿を現し、堂々たる風格を見せつけて話に傾聴していたその女性こそが、この国を統べる女王シルフィリアスその人であった。


「そち、今の話に嘘偽りは無いのだな?」


「ああ、もちろんだ。なんなら、実際に現地まで連れて行って見せてやろうではないか」


「……キシシッ、その必要は無いぞ?」


「ほう? 何故だ?」


 これまでと同様、コージュはこの美麗な女王をも半ば強制的に転移させる気満々であった。

 だが、彼女はこれまでの相手とは違い、魔王の誘いをあっさりと断ってしまう。それは彼がただただ怪しいから警戒したというだけでなく、どうやら他に理由があってのことだった。


「なぁに、()()聞くのが一番手っ取り早いでな」


「……なるほど。ならば俺の助力は要らなそうだ」


 意味不明な女王の言葉に、魔王は一人得心のいった顔で頷いた。

 背後に控えるベルにとっては、その理由の見当すらついていないのだが。


「――なんと、そちの戯言は真実(まこと)であったか? 結界があって内部までは見通せぬが……確かにそちの言う通り、死の大地が一変しておると我が風が教えよる」


「なッ……⁉」


 そんな女王の言葉に、事情の分からないベルは困惑して身構えてしまう。

 だが魔王はすぐに彼を制すると、女王にチラリと視線を向けてから、彼に説明を始めた。


「そう興奮するな。この女王陛下殿は、風の純血種()()()に最も程近い、二種混血のシルフィード族という種族なのだ。それ故に血統の属性でもある風の扱いに長けていて、今も風系統の探知魔法で俺たちの島を探ったというだけのことよ」


「……そち、どこでそんな情報を? 確かにその通りではあるが……」


「なに、種族情報は今さっき()()で覗かせてもらったに過ぎん。探知については、予想してカマをかけただけだ」


「……ッ⁉ す、末恐ろしい御方のようじゃな。鑑定したなどと馬鹿げたブラフかと思えば、我が愛しき風が全て本当だと告げよるわ」


 そう話すと女王はゴクリと息を呑み、額から流れ出た冷や汗を拭う。

 相対しただけで相手の情報を鑑定できるなど、この世界の者にとっては普通のことではない。しかも、大々的に術を発動するための動作や術式をみせるでもなく、座ったまま無動作で実行した様子なのだから。


 それでも女王は取り乱すことはせず、すぐに呼吸を整えて()()()()()()冷静な声色で語り始めた。敢えて魔王の従者と思われる下位の者に親切にすることで、自分を落ち着かせる意図もあったのだろう。


「まあ折角であるから、我が自ら語ってやろう。かつて……この世界を作りたもうた大気の神エア様が、自らの分身として地上に生み落とした存在、それが風の精霊シルフよ。そしてその末裔こそが、我ら二種混血のシルフィード族や、少し劣るが三種混血のジン族と呼ばれる種族なのだ」


 得意げにそう語る女王に、ベルは感謝の意を示すためペコリと頭を下げる。


 だが、その視線はチラリと魔王の方に向けられ、彼が退屈そうに溜め息を吐いている様子から「あ、この話は脚色された伝承とかで、事実じゃないんだな?」と鋭い察しを付けていた。

 今のベルにとってはコージュの語る言葉こそが真実であり、それ以外はたとえ何千年と語り継がれたものであっても信じるに値せず、興味も無いのだ。


「特に女王である我は、最早シルフと()()と言っても過言ではないほど風に愛されておってな。少しばかり意識を向ければ、風が世界中の事象を教えてくれるのだ」


「それは流石に過言だろ」


「……し、失礼な奴だの。しかしながら、その我と同じように風を味方につけるとは、そちは本当に何者なのだ?」


「ただの万能の魔王だ。それに、風以外にも全属性を自在に操れるが?」


「……我が風が、それも嘘では無いと告げよるわ。信じたくはないが、風は嘘を吐かん。そちには下手に逆らうのも悪手のようであるな」


 さっきから随分便利な嘘発見器だなと思いつつも、魔王もベルも彼女には一目を置くことになる。

 純血種にも引けを取らないと自負するだけのことはあって、彼女は本当に類い稀なる風の使い手であった。ベルも天才的な才能を宿してはいたものの、目の前の彼女と同じ域に達するのは生半可なことではないと感じていた。


 そしてそれは純然たる事実であり、魔王の目から見ても彼女は相当高い実力の持ち主で、この世界に来てから出会った中では一・二を争うほど。

 そんな彼女だからこそ即座に魔王の実力も察してくれたわけで、いっそ彼としては非常にやりやすい相手でもあった。


「話が早くて助かるな。というか、こちらとしても女王陛下殿やそっちの国に危害を加えるつもりは毛頭無いのでね。俺の国を正式な国として認めてくれさえすれば、お礼も含めて好意的に対応させてもらうさ」


「ほう、お礼とな?」


「ああ、なにか望む物はあるか?」


「……ふむ、ならば暫し我を楽しませてくれるか? そちの()()を我の前に晒すがいいぞ」


 その発言を聞いたベルは、女王が愛しの魔王に()()()()()()を要求しているのだと思い、激しく動揺した。

 すると彼の目の前で、コージュが立ち上がって上着を脱ぎ始める。彼はベルに「これを持っていてくれ」と告げ、その上着を投げ渡して来た。


 慌ててそれを受け取り、そんな展開信じたくないと不安気に魔王へ視線を戻したベルは、真剣な表情で見つめ合う彼と女王シルフィリアスの姿に愕然となる。


「女王陛下殿、お手柔らかに」


「我のことはシルフィリアスと呼べ。これより、我とそちとは身分など関係の無い、ただの人と人になるのだから」


「ふむ、違いない。では――――」


 そう言ってドサッとその場に座り込んだ魔王に、ベルはキョトンとしてしまう。

 生々しい()()の光景など知らないベルは、そこからどうなるのかを知らなかったのだ。


 椅子に腰かけた魔王に女王が近寄り、そのまま彼に跨って行うものなのか……などと()()するベルの前で、女王付きの配下の者が二人の前のテーブルに何やら盤のようなものを運んで来る。

 そして器のような何かをその横に置き、ペコリとお辞儀をして再び女王の後方へと下がっていったではないか。


「これは?」


「我が国では「石比べ」と呼ばれておる遊戯よ。表裏で色の違う石を二人交互に盤に並べていき、挟まれた石をひっくり返……」


「理解した。俺の世……国だと恐らくオセロやリバーシと呼ばれるゲームの類いだな。大体同じだと思うが、一度実際にやりながらルールを確認させてもらっても構わぬか?」


「話が早いの。ならば一戦、模擬試合といこうか? それから本番を三戦ほどでどうであろう?」


「うむ、承知した。それでいい」


「こういった遊戯でこそ、その人間の()()……あらゆる内面が暴かれるからの。そちの本性、どういったものか楽しみであるな」


 目の前の事態について行けてないベルは、淡々と繰り広げられる会話に呆気に取られてしまう。

 自分が無知だっただけで、()()()()()とはこうしたゲームを前座に執り行って、それから本番に移行するものなのだろうかと。


 そんな盛大な勘違いをしているベルに、魔王が声をかける。


「あー、ベルよ? この女王陛下殿……シルフィリアス殿は、大層ゲーム好きで有名でな? というか風の国の上流階級は、総じてこういった遊戯を好む傾向にあるのだ。事前に説明せず、すまんな」


「……へ?」


「なんじゃ? まさか、我らが肌を重ねるとでも思っとったかえ? キシシッ」


 女王が言った冗談がまさかの図星で、ベルは恥ずかしさで真っ赤になって俯き、そのまま顔を上げられなくなってしまう。

 風の国の陣営はそんな初々しい彼を見て和み、図らずも場の空気が和らいだことを感じた魔王は、彼によくやったとウインクで合図を送った。だが、彼は俯いていてそれどころではないのだが。


「さて、気を取り直して始めようか。模擬試合なら、先手はシルフィリアスでいいかな?」


「……それは、本戦は我が後手、先手、後手という意味で受け取って良いのかの?」


「ああ、それでいい。だが負ける気は無いぞ」


「食えん御仁よの。まあよい、では行くぞ?」


 そう言って開始した二人の闘い、その前座ともいえる模擬試合。

 理由はルールの確認のためとは銘打ってあるが、そこで既に駆け引きが行われているであろうことは、未だ俯き加減のベルも含めた場の全員が理解していた。


 石比べ(オセロ)も含めたこの手のゲームには先手・後手で有利不利が多少なり存在するため、それも含めて勝負はすでに始まっているのである。互いの実力を探り合い、相手に()()()()()()()をコントロールする算段を立てるために。


 たかがゲームであっても、国の頂点(トップ)同士の闘いともなれば、本気で勝つべきか、それとも相手を勝たせて華を持たせるべきかまで、考えながら勝負に挑まなければならないのだ。


「……なるほど、俺の知るゲームと同じのようだな」


「それは僥倖。では、本戦を始めるとしようかの」


 そんな模擬試合は――あっさりと女王シルフィリアスの勝ちで終わる。八×八の盤面は、七割もが女王の色に染め上げられていたのだ。

 女王は、今の一戦での彼の打ち手を見ただけで、魔王コージュの実力が大したことの無いレベルだと見抜いていた。長年このゲームをやり込んでいる彼女が欲したのは、自分と切磋琢磨できるレベルの者だったのだが。


 まあ仕方ないかと女王は諦めムードで盤面を見つめつつ、今の一戦の後片付けを始めた。実力を隠している可能性もあるにはあるが、それにしたって素人同然の打ち筋が見え隠れしていたのだから、大して期待もできまい。





 ……そう思っていた時期が、彼女にもありました。



「…………なん……じゃと……?」


「初戦は俺の勝利か。さっきの模擬試合も含めると、これで一勝一敗だな」


「……キ、キシシシシッ! あ、あり得ん! 見事なまでに実力を隠しておったか! い、今のは油断していただけのことよ! 残る二戦は我が勝たせてもらうからの!」


「楽しみだ。では、二戦目は俺の先手で行くぞ?」



 その後の展開は、完全に魔王の掌の上であった。


 彼女の洞察力は本物で、実は模擬試合の時の魔王コージュこそが()本来の実力で合っていた。だが、本戦での彼は万能スキルをフル活用し、つまりはズルして圧勝していたにすぎないのだ。

 そんなことは知らない女王シルフィリアスは狼狽し、長年研究に研究を重ねてきた得意分野で圧倒されるという屈辱に悶えることに。


「……我が、全敗……だと……?」


「うむ、いい勝負だった。シルフィリアス殿は定石をよく理解しているのだな。だが、そこに傾倒し過ぎてはこのように終盤で駄目になるぞ」


「……ま、ま、まま、待て! も、も、もう一度だ! もう一度だけやってくれ! こ、今度は五本勝負でどうじゃ⁉」


「もちろん付き合うぞ。とは言っても、今日は他の案件もあるから次で最後だからな?」


 偉そうなことを言っているが、魔王は完全にスキル頼りである。

 人類では凡そ到達できない高みにある全知全能スキルなら、ゲームの定石というものをよく知る相手であっても負けようが無い。なにせ、最初からあらゆる勝ち筋が見えており、相手が一手でも勝ち筋から外れた瞬間には勝負が決するのだから。


 なんとも、この上なく大人げない魔王であった。

 至極ズルい。


「な、な、な、何故じゃーーッ⁉ わ、我が、この我が、一度も勝てんだと⁉ どうなっとるんじゃーーッ‼」


「俺の五勝だな。ゲームには勝ったが……これで、俺の国を認めてくれるということでいいのかな?」


「み、み、認めるとも! いくらでも認めてやる! じゃから、もう一度勝負じゃ! た、頼む!」


「コ、コージュ様、やり過ぎなのでは……?」


 国交を結びたい他国のトップをコテンパンに打ち負かすという暴挙に、流石にベルも心配になって口を挟もうとする。

 だが、これまた魔王に御され、ただ黙って見ているようにと指示されてしまう。


「そうしたいのはやまやまなのだが、俺はこの後も所用があってな。悪いのだが、そろそろ……」


「そ、そんなこと言わないでおくれ! もっと……もっと我をボッコボコに負かしてやっておくれ! 魔王コージュ殿! いや、お師匠様‼」


「え⁉」


 驚くベルの眼前で、女王シルフィリアスは盤とテーブルを跳び越えて魔王に縋り付き、彼に胸部を押し当ててハァハァと息を荒くして懇願し始めたではないか。

 その光景に呆気に取られるベルとは対照的に、魔王は毅然とした態度で困り顔を演出する。


「すまんな、シルフィリアス陛下殿。今日は本当に忙しくて無理なのだ。また今度、ここに来て勝負してやるから……」


「しょ、しょんなこと言わんでおくれ! 我のことなど、シルとかシーとでも呼び捨てて構わんから、お願いしますお師匠様! つ、次、次勝ったら、我の国を差し上げましゅから、もう一戦だけ!」


「「「女王様ッ⁉」」」


 流石の乱心っぷりに、側仕えの者たちが大慌てで彼女を魔王から引き剥がし、彼に頭を下げて謝罪する。

 まさかゲームで国をかけようとするとは、彼女を良く知る配下たちでも想像していなかったのだろう。


 彼女は数多くのゲームで強くなり過ぎていた。

 盤上を主とするゲームではあらかた定石を研究し尽くし、カードゲームでは不利になっても風が教えてくれるから、イカサマし放題。逆に全く勝てないゲームからは潔く身を引き、女王という身分を利用してその手のゲームは断ることにしていた。


 そんな彼女の望みは、()()()()()()ゲームにおいて、彼女を完膚なきまでに負かしてくれる強者の存在であった。最初から苦手なゲームでは駄目なあたり、拘りの強い性格が垣間見える。

 イカサマもズルも、定石や筋も含めて全力の自分を上回ってくれる相手を欲する彼女は、皮肉なことにそういった相手を探し求める過程で誰よりも強くなってしまっていた。女王である彼女専属の遊戯係という者まで存在してはいたが、国内最強クラスのはずの遊戯係たちですら女王には勝つことができず、彼女に溜め息を吐かせる毎日。


 そんなところに現れた魔王コージュという人知を超えた実力者は、彼女にとって珠玉の存在。彼の実力を知れば知るほど、女王シルフィリアスは息を荒げて興奮し、まるでドM……もとい挑戦者として気持ちを昂らせるのであった。

 それを感知していた魔王は、だからこそその歪んだ性癖……もとい探求心を刺激するよう完勝してみせていたのだ。


「ハァ。お前たちも苦労していそうだな。もちろん国など要らんから、今日のところは失礼するぞ」


「「「お気遣いいただき、心より感謝申し上げます。すみません……」」」


「うぅ、師匠ォ~。離せ、離さんと全員反逆罪で打ち首じゃ~」


「――おっと、忘れていた。ベルよ、()()を持って来い」


 またしてもとんでもないことを呟く女王を無視し、魔王はベルに前もって持たせていた木の箱を出すように命じた。

 それを受け取ると、魔王は再びドンと椅子に腰かけ、彼女たち風の国の面々の前でそれを開いてみせる。


 その箱は、開いて裏返すと……何やら盤面の描かれた台へと姿を変える。

 そして、中身――――開かれた箱からテーブル上にばら撒かれた小さな物は、何やら「駒」のようであった。その駒には不思議な紋様が描かれており、駄々をこねていた女王もそれに興味津々となって、再び大人しく席に着く。


「……お師匠様、それは?」


「これは、俺から……俺の国からの、友好の証の品だ。俺の国の有名な()()というゲームでな。シルフィリアス殿ならば、オセ……石比べに勝るとも劣らないくらいに楽しめると思うぞ」


「それは真実()かえ⁉ お、お、教えておくれ、お師匠様!」


「基本的なルールと遊び方は、この手順書に記してある。俺が次に来る時までに覚えてくれれば、石比べと合わせて一緒に楽しもうではないか」


 その言葉を聞いた女王シルフィリアスは歓喜に沸き、先ほどまで執着していた石比べの暴挙などすっかり忘れ去って、早速その手順書に齧り付く。

 そんな女王に安堵の溜息を吐いた従者たちだったが、それも束の間、女王はバッと魔王に顔を向けるとまたとんでもないことを言い放った。


「お師匠様が次に来るまでに、この不肖シルフィリアス……全身全霊でこの遊戯を極めてみせましょうぞ! 全てを投げうち、必ずや! なので、次回は今日以上に我を可愛がってくださいませね!」


「……」


 そんな女王の宣言に、彼女に仕える者たちは頭を抱え、負のオーラを放ち始めてしまう。

 その様子には魔王もこれはマズいと感じたのか、彼女の肩にポンと手を置いて真剣な目で彼女を見つめた。


「シルフィリアス……いや、敢えてシルと呼ばせてもらおう」


「はい! 何でありんしょう、お師匠様!」


「俺は……遊戯にかまけてばかりの者は好まん。やるならキッチリと仕事を熟した上で、空き時間でもって励むのだ」


「で、ですが……」


「俺を師と仰いでくれるのであれば、なおさらこの教えは守ってくれ。お前が女王としての責務を果たした上で努力するのであれば、師である俺もその分に報いるよう、お前の望みを叶えてやると約束する」


「ほ、本当ですね⁉ 分かりました! 不肖の弟子シルフィリアス、国のことも遊戯も全力で取り組むと約束いたしましょうぞ!」


 今度はそんな宣言をした女王に、彼女の従者たちはポカンとして魔王の方を見遣る。するとコージュは彼ら彼女らに視線を移し、サムズアップして軽くウインクをしてみせた。

 自分たちのため、彼が女王を制してくれたのだと分かった従者たち一同は、彼を拝むようにして感謝の祈りを捧げ始める。


「それでは、俺はまた数日後に来るからな。しっかり仕事するのだぞ、シル? いや、シルフィリアス女王陛下殿」


「お任せを! お待ちしておりますゆえ、必ずや来てくださいませね!」


「ああ、それと俺に用がある時は、イシュディア魔王国の方角に印の旗を掲げるか、風を使って知らせを寄越してくれ。では、またな」


「「「はい! またのご来訪をお待ち申し上げております!」」」


 そう叫んで魔王を見送ってくれた女王と、その配下たち。

 どうやらうまい具合に友好的な国交を結べたようで、魔王コージュはその成果に満足しつつ上機嫌に風の国を飛び立つのであった。



「フハハ、御しやすい単純な国……というか女王で良かったな。闇の国といい、王に気に入られれば万事解決というシンプルな国はやりやすくて助かる」


「……そうですね。ところで他国の王とはいえ、また弟子が増えましたね? 闇の国のアーダット王といい、大層な身分のお弟子さんができてコージュ様も光栄でしょう?」


 どこか不機嫌そうにそう呟くベルに、魔王は慌てて弁明を図る。


「ま、待て? あれは技術者としての弟子と、遊戯の弟子という意味だ。お前のように本格的な弟子とは別物だぞ?」


「いいんですよ、ボクは。しょせん()()ですから、ボクのことなど後回しにしてもらって構いませんので。ボクでは王族の皆様には遠く及ばぬ存在ですものね」


 珍しく拗ね始めたベルに、魔王は若干冷や汗を流すことに。

 恐らくは、何度も自分を蚊帳の外にして他国の王と通じ合う姿にヤキモチを焼いてしまったのだろう。だが、他国の王と違って純粋な仲間であるベルにヘソを曲げられてしまうのは宜しくないため、魔王は必死にフォローを続ける。


「そんなことは無いぞ? お前は()()()()だし、他国の王と違って大事な家族ではないか。国交の際には今回のように優先してやれないこともあるかもしれないが、そういった場にも()()()()のお前が最も頻繁に同行することになるだろうからな。そういった意味でも一番頼りにしているぞ、俺の()()()()よ」


「……ッ!」


 そんな煽て文句にピクピクと反応を示し、ベルは嬉しそうに顔を赤らめて魔王から逸らす。

 魔王がこの世界の主人公だったとしたら、チョロイン……もといヒロインは間違いなくベルに違いない。


「そうそう、()()()()のお前には、ああいった交渉の場でもさっきみたいに動じないよう指導してやらねばならんな。俺に付き添う機会が多くなるだろうから、精神的にも強くなってもらわねばならんしな、()()()()のベルには」


「も~♪ 分かりましたから~♪ 一番弟子のボクが一番大事だってのは分かりましたから、もういいですからぁ~♪」


「う、うむ。では次の国へ向かうとしよう。次も頼んだぞ、ベル」



 そう言って、機嫌の直ったベルの様子にホッと安堵の息を吐いた魔王コージュは、また次なる国を目指して飛んで行くのであった。






※短編を書いてみました。

 「名も無き子猫の異世界冒険譚 ~テンプレとかお約束なんて知らニャいから、やりたいようにやるニャ!~」


 子猫が主役の、ファンタジー系のコメディになります。

 暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。


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