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2-34 ふたり、でも無双



 王家直属のヒンソ正騎士団、50余名。

 円形に列を成した精兵たちが、一斉に襲いかかって来る。



(いやいや、無理でしょこんなの)



 地面にへたり込んだまま、ルイは眼前に迫る鎧騎士の津波を見上げていた。

 第三席カマセのような重装とは異なった、いわゆる板金の全身甲冑だが、人型の鉄の塊が押し寄せる光景は圧巻である。かつてケロックの夢の中で、100人に分裂したケロックから逃げ惑った時の光景が蘇るようだ。

 恐らくケロックが自分を休ませるために動きを封じたのだろうが、このままでは休むもへったくれもなく袋叩きである。



「はーい立ってー」


「わっひゃ!?」



 不意に背後から腋に手を差し込まれ、かけ声とともにぐいと持ち上げられた。弱い部分に触れられてルイの気が動転しかけたが、有無を言わさずそのままくるっと反転させられて、ケロックと向き合う形になった。

 両の手を繋ぎ合うと、先ほどまで脱力しきっていたはずの足は、自然と直立してその身を支えていた。当然これもルイの意志ではない。



Shall(僕と)we dance(踊ろうか)?」


「へ?」



 普段のケロックからは想像もつかない、悪戯っぽい無邪気な笑顔と、突拍子もないキザなセリフ。

 思わずドキッとしたり、「コイツ(ワル)ックじゃねえだろうな」とか疑ったりしたのも束の間。



「_____うわっ!?」



 ぎゅるん     と。


 ルイから見たケロックの背景が、高速で流れ始める。





















(………何であるか、これは)




 ヒンソ騎士団を率いる正騎士ワンダは、念のため指揮を執るべく後退し、戦況を見守っていた。

 しかし同時に、どのような指示を出せば良いかわからず、絶句するのみであった。


 目の前の部下たちによる人だかりは密集度が高く、一見すると互いの動きが阻害されるように見える。しかし、虫の子一匹外に出さんとするその陣形は、最前線が崩されてもすぐ後ろから即座に反撃出来るよう、絶え間ない波状攻撃を目的としたものとなっていた。

 さらにワンダ率いる精鋭たちなら、効率的かつ素早い前線の入れ替えも容易である。


 しかし、どうした事だろうか。


 密集した中心部から2m右で、鎧騎士の1人が何かに躓いたかのようによろめき、そのまま“静かに”鎧の人垣の中に消えていく。

 かと思えば、今度は1m左手前で『バガン!』という“派手な”衝撃音。全身甲冑の成人が2m上空に跳ね上げられ、余波を受けたであろう4人の騎士が将棋倒しに崩れ落ちる。


 静か過ぎる手際と、派手過ぎる力技の繰り返し。

 そうして1人また2人と消えていく騎士達の様子を、ワンダは苦々しい顔を隠さず見守っていた。



(あっちに行ったと思えばこっち……いや、見間違いか?

 死角が多くて見えないが、こちらが全く意識してない位置に移動し、(それがし)自慢の騎士達があっという間に沈められていく!

 魔力の気配は感じられない…………これは、あの時と同じ『技術』である! )



 ワンダの脳裏には、ルイにトドメを刺そうとした瞬間、忽然と姿を現したケロックの姿が浮かんでおり、それぞれに「意識の外側から現れる」という共通点を見出していた。

 腐っても騎士団長。理解しがたい状況であろうと、理解する事を諦めようとはしなかった。



(なんの衝撃もなく騎士達が崩れ落ちる様子も、第三席カマセと第四席アサヂエが倒れた時と酷似してるのである! あの忌々しいゾンビは、触れただけで敵を昏倒させる魔法を………いやいやいや、なんであるかそれは! そんな事あって良いわけがない!

 であれば、あの吹き飛んでる騎士はルイジアナ嬢の仕業か!? あの負傷でなぜあそこまで動ける!?

 ヤツら、どうやってこの包囲網を縦横無尽に駆け回っているのであるか!?)



 それでも理解不能である事に変わりはなく、彼の困惑がおさまる事もない。

 そうしてる間にも騎士達はスッと消えバンと飛びガシャガシャと倒れ、一度の被害が大きくなり間隔が狭まっていく。

 物理的な無力化と未知への恐怖心。崩壊の波はあちこちで発生し広がっていった


 そして騎士団の人数が半数を切ろうとした時、ワンダはついに騎士達の包囲網の中心部、そこから飛び上がる小さな人影を目撃することになる。










 それは、幻想の一瞬を切り取ったかのような、絵画と見紛う光景だった。

 あるいは妖精の戯れ。あるいは天使の降臨。あるいは月の踊り子。

 そう例えても違和感がないほど、2人の舞は美しい。



 まるで重力を無視した宙返りのように、ルイは足先から弧を描いて浮き上がり。

 ケロックが繋いだ手でおさえつつ、騎士達の頭上を仰向けに漂っている。

 騎士達の表情はフルフェイスのヘルムで隠されていて窺うことは出来ないが、それでも陽の光に透かされた2人の姿を、我を忘れたかのように見上げていた。




 そんな騎士達の窮屈な視界をゾンビの小さな手が容赦なく遮ると、その手に触れられた者の意識は即座に暗転する。


 ひた ひた ひた と。

 4つの兜が冷たい手に撫でられると、瞬く間に4人の騎士が膝から崩れ落ちていく。


 幸運にも呆気に取られるだけで済んだ者もいれば、異常事態に気づいてすぐさま上空に剣を突き出そうとする者もいた。

 そうして突き出されるいくつかの剣身を、ケロックは身体を捻ることで間を縫うように回避。ケロック越しにあった陽の光が騎士達の目を一瞬だけ焼き、次に目を開けた時には忽然と姿がかき消えている。



(またである! 触れただけで倒す魔術と、意識の外側を突く移動術! ヤツはどこに_____)



 次に出現したのは、ルイの下である。

 上空に投げ上げられたルイは慣性に従って宙を舞うも、いつの間にか待ち受けていたケロックの腕の中に収まった。いわゆるお姫様抱っこと呼ばれる体勢だ。

 受け止めた衝撃でケロックは背後に倒れ込む。踏ん張る足場が無いので当たり前だ。


 着地点で2人を捕まえようと無数の籠手が伸びてくる。しかし、足を投げ出して吹き飛ぶだけのケロックが、空中で不自然に軌道を変えて、騎士達の隙間を縫うように落ちて行き、また人垣の中に消える。



 その直後、3m左にある包囲網の側面がぶち抜かれた。

 木っ端のように吹き飛ぶ騎士達の中から、脇と肩を組んで手を繋いだケロックとルイが、互いに進行方向へと蹴り足を合わせながら飛び出してくる。さながらダンスのホールドと似た要領だ。


 しかし、そこはエリート騎士団。包囲網を抜ける可能性も考慮しておわり、あらかじめ待機していた弓兵による射撃が行われる。

 対象の着地点とタイミングを狙った精密射撃。一見すると回避は不可能。

 しかしルイとケロックは互いのホールドを緩めて身体の間隔を広げ、アクロバティックに回避した。


 ケロックが先に着地すると繋いだその手でルイを振り回し、包囲を抜けられたショックで硬直が解けていない騎士達に強烈な飛び蹴りを見舞った。

 受け止めた騎士はかろうじて盾を構える事が出来たが、衝撃に耐え切れず背後の味方を巻き込んで吹き飛んでしまう。

 一瞬でもそちらに気を取られた大半の騎士は、2人の姿を再び見失うだろう。気づいた時には全く意識してない場所で、誰かが戦闘不能に陥っている。



(まるで“舞踏”……………待て、あれは【双身武術(ダブルアーツ)】であるか!?

 王国発展期の時代に社交ダンスにハマった稀代の女武闘家が、「アタシと一緒に踊れるヤツと結婚する」と宣い生み出した『ペア専用の武術』!!

 しかし、「魂レベルの共鳴」とかいうふざけた教義とイカれた難易度のせいで机上の空論と化し、開発者は『史上最も哀れな行き遅れ』と揶揄された、社交界の黒歴史である!! 実現したのであるか!?)



双身武術(ダブルアーツ)】………会得したものは互いの感覚の全てを共有し、相乗効果で戦場の全てを把握する事が出来るという、実現した者のいなかった伝説の武術である。

 数百年以上に遡るため当時を知る者はほとんどいないが、「実現したペアは神に祝福されたベストカップル」などの噂が流行り、誰もがその夢を追いかけた時代もあった事が、王城の書庫と貴族間の噂でのみ語り継がれていた。



 そんな夢物語を再現したかのような光景と、現実ではあり得ない敵の挙動に、深く魅入ってしまった正騎士ワンダ。彼の思考はしばし、戦況を確認する事すらも忘れてしまうのであった。




















 ワンダが2人の超絶技巧戦闘に恐れ戦く一方で、ケロックは自らのスキルの大半をフル稼働し、かなり高度な組み合わせを試していた。


幽煉憑依(ゆうれんひょうい)】で分けた“思念体”をルイに憑依させる。【超高速脳内会議】で何度も魂の共有を果たした。だから出来る。

 思念体の中身は【(ダル)ック】。ケロックの並列思考から生まれたコピーであり、ケロックと【天の声】の管理下にある____つまり、現実世界でも魂を共有できる。


 条件は簡単。輪を作ること。

 手でも腕でも、触れて円を描けば感覚は繋がる。

 今はそのためのホールドだ。


 触れた瞬間、ケロックはルイとの感覚をリンクさせる。

 目と耳を2人合わせて4つ、それらで認識できる全ての事象をケロックの高速思考で捌き、互いに流し込む。


 仕上げにルイの【手加減EX】を拝借し、互いの動きを完璧に制御した。

 準備は万端である。













 ルイは自分の身に何が起きているのかわからない。


 なぜ自分は、身体が勝手に動くのか。

 なぜ自分は、津波のような襲撃を全て回避出来るのか。

 なぜ自分は、ケロックと一緒に踊っているのだろうか。


 しかし、明らかに変わった事もある。


 ケロックに手を引かれた始めのほうは、流れる景色が残像となって視界にストライプの線を引くだけだった。

 それが、ケロックと触れ合ってしばらくしたら、自分の意識がどんどん加速していき、やがて世界が一瞬を切り取ったかのようにクリアになっていた。


 それだけではない。加速された意識の中で、ケロックの見ている視界・聞こえる音・風を切る肌の感触。それら全てが自らの感覚にぴたりと重なる。


 ケロックと自分の感覚が重なった瞬間、今いる目まぐるしい激戦区すらもひとまとめに包み込み、ひとつの地図のように広がっていく。

騎士が刃を振り上げる、その意志すら読み取れそうだった。






『 (……もしかして、これがケロックの見ている世界?)』



 声として発せられたかわからない。しかしその言葉は、リンクした感覚と引き延ばされた思考によって、どんな音よりもハッキリと聞き取れる。それこそ感情の細部に至るまで、である。



『 (いや、ルイがいるから見える世界……だと思う、よ)』


『 (そっか…………んん〜〜〜〜〜〜っ___)』



 2人とも徐々に理解していくだろう。広がった世界に対しての感動よりも、互いの精神が肉体を越えて一体化した事の、多幸感の方が遥かに大きい事を。



『 (ルイ、落ち着こうか……僕もけっこうキツいし)』


『 (____〜〜〜〜〜〜〜っ!?)』




 言葉にならない喜びも、それに気づいた時の気恥ずかしさすら共有出来てしまう。

 そんな感情の渦が、感覚の拡張に伴って増幅していくのを、ケロックとルイは感じ取っていた。



『やれやれ、見てられませんね』


『ダメだよー【天の声】さん、ここは黙ってなきゃー』



『 (ひゃっ!? えっ? 【天の声】さんと……お母様?)』


『 (チッ、筒抜けか……)』


『仕方ないじゃないですか。あなたがたのクソデカ感情がダイレクトに来るんですよこっちは』


『こっちの事は全っ然気にしなくて良いからね! ごゆっくり〜』


『『((いやいや無理無理無理無理))』』



 どうやら、サポートスキルの介入によって気を逸らすことに成功したようだ。あのまま続けてたら戦闘に支障が出るところだったに違いない。



『さてマスター、避けてばかりでもつまんないでしょうし、そろそろ反撃しましょう』


『 (もうやった)』



 ケロックがそう応えると広域化した感覚の中で、すり抜けた導線上の騎士の1人が崩れ落ちるのを感じ取る。




“NEW!”【発勁:魔】

 伸筋や張力、重心移動などを指す“勁”という概念を用いた武術……を、魔法で補完したもの。




 歩法による力の使い方を独学で学んでいたケロックは、瞬発力や筋力といった“力み”を一切使わない戦闘技術を、魔法と併せる事で作り出した。


 触れただけで相手が昏倒するのは、ケロック考案の防御貫通攻撃『なんちゃって浸透勁』である。

 手足の先から【音魔法】の振動と【重力魔法】を直接叩き込み、内臓や三半規管などを掻き回している。



『 (……なんかズルいよ、それ)』


『 (安心して、このスキルは共有出来なかったからルイには使えない)』



 スキル化したとはいえ、ケロックか編み出した技術の集大成である。簡単に譲渡できるものではない。

【手加減EX】と相性は良さそうだが、そもそもルイの真骨頂は超人的なパワーにあるため、無理に覚える必要もないだろう。


 そんな事を考えていると、ルイの身体がふっ…と軽くなり、視界が一瞬にして切り替わる。


 気づけば2人は、騎士の頭の上にいた。

 その騎士の剣は地面に突き刺さっており、つい先ほどまでルイが立っていた場所だった事が、強化された空間把握能力で理解できる。

 騎士の目からは、確実に仕留めたはずのルイが忽然と姿を消したように見えただろう。




“NEW!”【全人未踏】

 ケロック・クロムハーツが独自に辿り着いた【歩法】の終着点。

 相手の意識の外側に移動する事を目的とした歩行技術。




 フェイントや縮地などの技術を総動員させ、【重力魔法】によるスピードの緩急や軌道の捻じ曲げなど、あらゆる手段を使って相手の虚を“常に”突き続ける技術だ。

 ケロックのように【五感】【第六感】など、感覚スキルとして強化された空間把握能力があって、初めて使える技術である。それらがさらに拡張された今なら、ルイを操りながらでも余裕があった。



『 (この動き、感覚共有が無かったら絶対吐いてた)』



 そう言いながらルイは背後の騎士を蹴飛ばし、上空へと打ち上げた。金属製の胸当ては大きく凹み、さらに後ろでは余波を受けた騎士達が将棋倒しになっていた。

 少しは手加減しろって? 操ってるのはケロックなのだ、文句は彼に言って欲しい。





 流れる水のように、吹き荒ぶ風のように。

 騎士達の合間をするりと抜けては、触れた相手を昏倒させ、たまに爆発したかのような苛烈な一撃を見舞う。

 常に“意識の死角”に入り込む彼らの事を、誰が捉える事ができるだろうか。









「_____あっ」



 ワンダが指示を飛ばし戦闘に参加しなければならないと…………気づいた時には遅かった。


 大地は呻く全身甲冑で埋め尽くされており、その真ん中で背中合わせに立っていたのは、討伐対象だった少年少女。

 奇しくも、ルイにトドメを刺そうとしてケロックに割り込まれた時と同じ構図だった。


 一騎当千とも呼ぶべき2人にとって、50余名程度の人数はあまりに不足過ぎたのだ。




 傷のない所を探す方が大変だったルイの身体は、完全に回復し切っていた。

 最低限の防御と力みの少ない回避のおかげで、追加ダメージを一切負わなかったのだ。



「おのれ、田舎貴族の小娘が……下賤なゾンビ如きが……」



「ケロックごめん、このままなるべくこっち向かないでくれる? 服がボロボロで恥ずかしい」


「……いったん離れよっか」


「それもなんかヤダ」


「どういう感情?」



「無視するなであるっ!! キィええええええエエエ!!!!」




 激昂し駆け出した騎士団長。その動きに気品のかけらもないが、彼の胸にはエリート騎士としての矜持が刻まれており、それまでの人生で最高のパフォーマンスとなっていた。

 裂帛の気合いとともに振り上げられた聖剣『エクスカリパン』は、魔力を通すと反応するのか、聖なる眩い光を放っていた。使い手の意志の強さに呼応するかのように。



 そんな相手の剣に対しケロックは_____




「目ビィイイイイムぅ!!!!」



 ぴちゅん   ぱきん  と。



「…………は?」




 目から飛ばした極細の熱線で、再び根本からへし折ったのである。




“NEW!”【魃魔眼(メガビーム)

 種族【(ひでりがみ)】の能力の一部をトレースしたアクティブスキル。

 目から強力な熱線を放つ事ができるが、目も焼ける。

 範囲を広げて対象を燃やす他、範囲を絞って貫通力を上げる事もできる(出力調整不可)。





「なんであるかそれはぁああああアアア!!!???」

 

「ドラゴン弱パンチ!!」


「ごふっ!?」





 ケロック&ルイジアナ 対 ヒンソ正騎士団。

 こうして彼らの激しい戦いは、あっけなく幕を閉じたのであった。




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